『呪いの保険金ロード』前編
『呪いの保険金ロード』前編
――披露宴に集う狂気と勘違い
1. 導入:忌まわしき「勘違い」
ジューンブライドの真っ只中。新婦・美咲は、人生の晴れ舞台であるバージンロードでガタガタと膝を震わせていた。彼女の背中には、数ヶ月前から憑いている「顔の半分が溶け落ちた女の霊」が馬乗りになり、耳元で呪詛を吐き続けている。
「シ…ネ……ニゲ…テ……アツい……」
そんな地獄絵図の中、隣で微笑む新郎・佐藤は、その耳元で優しく囁いた。
「大丈夫だよ美咲。あんな化け物に負けちゃダメだ。……それに、もしもの事があっても大丈夫なように、この式場そのものに『挙式不能保険』と『参列者損害賠償』を最大手厚く掛けてあるからね。何が起きても僕らは損をしない。安心だろ?」
恐怖で思考停止した美咲は、その狂気の言葉にコクコクと頷くしかなかった。
一方、会場の入り口。久我は絶望的な顔で猛ダッシュしていた。
「困ったな、間に合わない! ユウキくん、めちゃくちゃ大事な恩師の葬儀だって言ってたのに!」
ユウキに泣きつかれ、香典の一万円を預かって代理出席を引き受けたものの、到着したのは開式から一時間後。
久我は息を切らしながら、受付に「御霊前」の封筒を叩きつけた。
「お待ちしておりました!VIPの 山本先生ですね? さあ、こちらへ!」
受付スタッフは、封筒の中身も確認せず、ただ「遅れてくる重要人物・山本」が来たという事実だけに飛びついた。
「……は? 山本? ああ、そうだ、山本先生ってやつの葬儀だったな」
久我は周囲を見渡した。
そこには華やかな胡蝶蘭、着飾った男女、そして幸せの絶頂を象徴するウェディング・マーチ。どこをどう見ても「披露宴会場」である。
(……あれ?)
久我は一瞬だけ眉をひそめた。
(初七日の席にしては、酒が豪華すぎるな。それに、遺影が二枚ある。しかも、どっちも生きてる)
数秒、考える。
(……いや……間違えたか)
一拍。
(まあいいや)
久我は思考を打ち切った。
目の前の円卓に並んだ高級シャンパンが、すべてを許していた。
「……一万円も預かってるんだ。シャンパン三本は空けないと、供養にならないからな」
久我は確信犯的に席に着き、ボトルを煽った。
――数分後。
(……しかし、流石にこの黒ネクタイじゃ、いくらなんでも、死神すぎるよな……)
久我は立ち上がり、トイレへ向かった。
2. トイレの強奪:手荒な「ネクタイ交換」
久我はカモフラージュのため、トイレに駆け込み、鏡の前で、黒ネクタイを外した。すると、隣では、高級スーツの男が鏡の前で震えながら自問自答していた。
「困ったな……急患か。だが佐藤君との約束が……。診断書を変えるなんて……。警察に相談か……? うーん……」
葛藤する医師(おそらく本物の山本と思われる)の背後に、久我が影のように立つ。
「なあ、君、さっきから、行くのか行かないのか悩んでるみたいだけど、ハッキリするんだ。行かないなら、その銀色のやつ寄越すんだ。僕が代わりに出てやる」
「えっ!? な、何を――ぎゃあああ!?」
ドゴォッ!
という鈍い音が個室に響き、数分後、久我は少し返り血がついたシルバータイを締め直し、涼しい顔でトイレを後にした。
「ふぅー、失礼。ちょっと手荒なことしてしまったかもしれないが、これで安心して溶け込めるな」
ーー新郎も参列者も、山本の名前こそ知っているが、顔までは知らない。この「ガバガバな設定」が、久我の運命を狂わせていくのだった。
3. 確信:愛の正体は「ポートフォリオ」
披露宴の中盤。
佐藤が自慢げにマイクを握る。
「余興として、僕らの『愛のポートフォリオ』を紹介します!」
モニターに映し出されたのは、二人の思い出の写真……ではなく、美咲の健康診断結果と、彼女に掛けられた総額10億円の保険証券の数々だった。
「この『不慮の事故特約』がポイントでしてね」と熱弁を振るう佐藤。ドン引きする参列者たちを、佐藤は「最新の愛の形ですよ」と一蹴した。
そして、新郎・佐藤は時計を見ながらニヤついてい
た。
「ククク、そろそろフィナーレの時間だな」
案の定、美咲が突然、白目を剥いて床に崩れ落ちる。
「美咲! どうしたんだ! 誰か、お医者様はいないか!? そうだ! 確か、山本先生を呼んでいたはずだ!」
「山本先生なら、たった今入られました!」
スタッフに促され、久我が悠々と現れた。
「.....私が、くが……いえ、山本です」
4. 介抱:ゴッドハンドと「幽霊の応急処置」
久我は「介抱」を名目に新婦のもとへ。
「ちょっと失礼。緊急処置が必要だ。服が邪魔だな」
久我は迷いなく、美咲のウェディングドレスの胸元をビリッと引き裂いた。露わになったのは、はち切れんばかりのEカップ。
「山本先生、美咲に何をして――」
「黙ってて。心臓の動きを直接見るんです。これが最新の蘇生法ですから」
久我は「心音の確認」という名目で、その圧倒的な弾力をムギュムギュッと遠慮なく揉みしだいた。
「ふむふむ。マシュマロみたいだ。見た目以上に柔らかいな」
そこへ、新婦の親戚であるナースの女性が顔を真っ赤にして駆け寄ってきた。
「ちょっと先生! 私、ナースなんですけど、その指の運び……聴診じゃなくて、ただ揉んでるだけにしか見えないわよ!?」
久我は一瞬ヒヤリとするが、手を止めることなく、今度はニヤッと笑って彼女を振り返った。
「あー、バレてしまいましたか。……お姉さん、僕は循環器じゃなくてね、“触診専門”なんですよ。正式名称は――ゴッドハンド。君の胸の方はかなり寂しいな。よかったら触診しましょうか? なんてね」
久我はワキワキと手を動かしながらニヤリと笑う。
「サイテー!!」
周囲が絶句する中、久我のサイコメトリーが真実を弾き出す。
【サイコメトリー情報】
・背後の霊は佐藤の「元・婚約者」。佐藤に不凍液を盛られ、最後は「火災保険」のために焼き殺されていた。彼女の呟きは呪いではなく、「逃げて!」「(火が)熱い!」という、決死の警告だった。
・やけに分厚い佐藤のタキシードの裏地には、美咲に掛けた5億円の生命保険に加え、「新婦失踪保険」「結婚指輪紛失保険」、さらには「披露宴会場での食中毒保険」の証書が、まるでお守りのようにびっしり縫い付けられていた。
・美咲の体内には、佐藤が盛った猛毒が回っていた。実は、美咲は背後に取り憑いた幽霊の助言で薬を吐き出していたものの、ごく微量が吸収されていたのでかろうじて命が繋がっていた。さらに、背後の霊が青白い手で美咲の主要な血管を力任せに圧迫し、毒が脳や心臓に回るのを物理的に食い止めてくれている。
「怨霊、君は彼女を助けていたのか。なら、もう少し力を貸せ!」
久我は霊に干渉し、その怨念を無理やり生命力へ変換して毒を中和した。 直後、美咲の胸元が神々しく光り輝く。
「おい、起きろ。もうこれで大丈夫だ」
「……ふぇ!? ありがとうございます!山本先生が揉んでくれたら治りました!」
美咲がシャキッと立ち上がる。佐藤は度肝を抜かれた。




