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探偵は胸を揉む  作者: リチャード裕輝
探偵は胸を揉む:『霊感(パイ)コメトリー・オブ・ザ・デッド』

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奇術師レナの受難:スースーする夜のこと

奇術師レナの受難:スースーする夜のこと


序章:華麗なるイリュージョンの幕開け


薄暗いバーのステージに、スポットライトが一条の光を落とす。その中心に立つ女マジシャン、レナは、漆黒のドレスに身を包み、妖しいほどに魅力的だった。彼女の指先が宙を舞うたびに、コインは艶めかしい弧を描いて消え、薔薇の花が甘い香りを放ちながら出現する。観客は皆、その完璧なイリュージョンに息を呑み、酔いしれていた。


「はい、どうですか?」


レナが最前列の女性に差し出した掌には、先ほど客がサインしたはずのカードが、まるで肌の一部のようにしなやかに貼り付いている。


「すごい……! どこに隠してたの!?」


女性の感嘆の声が、熱気を帯びた店内に響く。レナは挑戦的な笑みを浮かべ、次なる「獲物」——もとい、奇術の共犯者を探すように客席に視線を走らせた。その視線は、バーの片隅で、まるでこの世の全てに興味を失ったかのようにハイボールを飲んでいた男で止まった。


「次は……そこの君。そう、死んだ魚のような目をして、まるでこの空間に存在しないかのような君だ」


指名された男は、久我といった。


「……はい」


久我は、何事にも動じないかのような無表情のまま、重い腰を上げてステージに上がる。レナは彼の無関心な態度に、わずかな苛立ちと、それを乗り越える好奇心を覚えた。彼女は彼にトランプを一枚引かせ、艶やかな指先でそれを束に戻す。そして、彼の耳元に吐息がかかるほどに顔を寄せ、挑発的に囁いた。


「今から、君が選んだカードを『世界で一番温かい場所』へ移動させるわ。……さあ、準備はいい?」


レナの白い指が、パチンと乾いた音を立てる。その音は、まるで秘められた情事の合図のようだった。


「さあ……手を開いて?」


久我は、まるで他人の動作であるかのようにゆっくりと、握っていた右拳を開いた。レナは、そこに彼女のカードがあることを確信していた。しかし、久我の掌に横たわっていたのは、薄紅色の光沢を放つ、柔らかなレースの布地だった。


——まだ体温を宿している、シルクのような手触りの、黒いレースのパンティ。


「……パンティ」


久我が、まるで石が転がるかのような無感情な声で呟く。その瞬間、静まり返っていた客席が爆発した。


「嘘でしょ!? あの兄ちゃん、触れもしないで脱がせたの!?」(女性客)


「いや、そこじゃないわよ! あのパンティ、レナさんのドレスと同じ色……まさか!」(女性客)


「おい見ろ、レナちゃんが内股になってるぞ! 本物だ、本物が出たぞー!」(男性客)



レナの思考は完全に停止した。同時に、彼女の

スカートの下を、肌を撫でる夜風よりも生々しく、冷ややかな空調の気流が駆け抜ける。本来あるべき、肌を優しく締め付けていたはずの感触が、そこにはなかった。


(……え? 私のパンティかな?なんで? 私、脱がされた……?)


あまりにも唐突で、あまりにも鮮やかな「消失」。それは最早、奇術の範疇を超えた、神業めいた侵犯だった。レナの顔が、みるみるうちに羞恥と驚愕で赤く染まり、彼女は無意識のうちに太ももをそっと合わせた。


「やけに……スースーする……」


レナは震える声で漏らした。その呟きを拾った酔客がすかさず叫ぶ。


「スースーするって、おい! 物理的に消したのかよあの兄ちゃん! 最高じゃねえか!」(男性客)


「ちょっと、やり方は最低だけど……技術は神がかってるわね。弟子入りしたいわ……」(女性客)


マジシャンとして「消す」ことはあっても、プロの自分が、一歩も動いていない、それも無表情な男に「履いているもの」を消されるなど、あってはならないことだ。レナは必死に冷静さを装い、顔を引きつらせながら久我を睨んだ。


「ちょっと、君……! それ、私の……。どうやって……というか、なんでそんなことしたのよ!?」


すると久我は、手に残るシルクの官能的な感触を確かめるかのように指を動かし、遠い虚空を見つめてこう言った。


「……くせで」


「どんな癖よ!」


レナの鋭いツッコミが、スースーする股間を通り抜ける夜風と共に、熱気に満ちた劇場に虚しく響き渡った。


第二幕:禁断の再戦とDカップの啓示


ステージ上、下半身のスースーする開放感と、見えない視線に晒される羞恥に耐えながら、マジシャン・レナは必死にプロの顔を取り繕った。しかし、客席からは容赦ない声が飛ぶ。


「レナちゃん、もう隠すものないだろ! 下半身ノーガードだぞ!」(男性客)


「頑張れレナさん! でも兄ちゃん、次はもっとすごいの頼むわよ!」(女性客)


「……い、いいわ。今の……今のマジック(?)は、何かの間違いよ。次は、絶対に……絶対に成功させてやるんだから!」


レナは神経を研ぎ澄ませた。次は絶対に何も盗ませない。そう確信した、その瞬間に、久我がふっと口元に笑みのようなものを浮かべた。パチン、と乾いた指パッチンが、再び舞台の静寂を破る。


「はい」


久我が差し出した左手には、純白のレースが揺れていた。それは、彼女自身が今朝身につけてきたはずの、見覚えがありすぎる形状のフロントホックのブラジャーだった。


「え!? ちょっと、嘘でしょ……!?」


レナは絶句し、両手で自分の胸元を押さえた。会場のボルテージは、もはや制御不能なレベルまで跳ね上がる。


「キターーー! ブラジャー消失!!」(男性客)


「前掛けもなくなった! 盆と正月が一緒に来たぞ!」(男性客)


「すごっ……一瞬でホック外したの!? どんな指先してんのよあの男!」(女性客)


「うわぁ……レナさん、今マジで『解放』された顔したわね……官能的だわ……」(女性客)


支えを失った重力が、彼女の衣装の中で残酷なまでに解放される。呆然と立ち尽くすレナの肌を、照明が熱く照らした。久我は手にした「それ」をじっと見つめ、呟いた。


「……生暖かい。くんくん。そして、微かに甘い香りがする。君の匂いだ」


さらに彼は、熟練の鑑定士のようにこう付け加えた。


「……Dカップ。最高の造形ですね(笑)」


このあまりに的確な指摘に、最前列の客が酒を吹き出しながら爆笑する。


「Dカップかよ!しかも最高の造形見てみたい! 貴重な情報ありがとう!!」(男性客)


「ちょっと、女子の前でそんな堂々と鑑定しないでよ! ……でも当たってそうね(笑)」(女性客)


レナは顔を真っ赤にしながら、もはや隠しようのない「自由」と屈辱に耐えきれず、崩れ落ちるようにステージの幕を引いた。


最終幕:鏡合わせの性癖とスースーする夜の終わり


「……やられっぱなしで終わるわけないでしょ。こんな屈辱、絶対に許さないんだから!」


レナは急いで予備の下着を(もちろんノーブラ・ノーパンのまま!)コートの下に仕込み、店を出ようとする久我を追った。人通りの少ない夜の路地裏。レナは久我の肩を掴み、強引に自分の方へ振り返らせた。


「ちょっと、君。忘れ物よ」


レナは、彼の顔に手を添え、至近距離まで自分の顔を近づけた。レナの唇が、彼の唇に重なるかと思われた、その刹那——。


「……なんてね」


レナはいたずらっぽく微笑み、フッと身を引いた。次の瞬間、久我は自分の胸元に言いようのない「スースーする違和感」を覚えた。


「……あ」


レナの白い指先には、今しがた久我のシャツの下から「消失」させた、黒いストラップが揺れていた。それは紛れもなく、男性である久我が身につけていたフロントホックのブラジャーだった。


「やけに背筋が良いと思ったら、あなたも……つけてたのね(笑)」


その瞬間、店の裏口からこっそり覗き見していたバーの店長と常連客たちが、我慢できずに噴き出した。


「店長見ろよ! あの兄ちゃんもブラジャーしてやがった!!」(男性客)


「マジ!? あんなにクールなのに!? ギャップ萌えすぎて死ぬんだけどwww」(女性客)


「お揃いかよ! もう結婚しちゃえよ二人とも!」(女性客)


「二人ともスースーしてんのかよ! 似た者夫婦か!」(男性客)


レナは、久我のブラジャーを指先でくるくると回した。「……生暖かく、微かに久我の男臭い匂い」が漂っている。久我はやはり表情一つ変えずに、夜空の月を見上げて呟いた。


「……くせで」


「どんな癖よ! いい加減にしなさいよ!」


夜の街にレナの笑い声と、盗み聞きしていた観客たちの下世話な笑い声が響き渡る。下着を奪い合った二人の間には、もはや奇術師と客という関係を超えた、奇妙な連帯感と、どうしようもないスースーとした夜風が吹き抜けていた。


(完)

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