万引き犯とのやりとり
太陽が熱く照りつける日の事。
コンクリートが大地を覆う。
「おいリスケ。今日もやるだろ?」
「ああ、やるとも!」
暑さを感じていないような楽しげな声が、テクニカルシティのコンビニエンスストアの前で踊っていた。
駐車場に立っていたのは三人の男子高生。ハッキリ言って個性のない顔立ちだ。
髪型も普通、顔も大して特徴なし。崩れたように皺の寄った制服。
三人のうち一人、リスケという少年が何かに意気込んでいる様子だった。
彼は他二人と適当に会話を済ませると、コンビニの自動ドアに向かってそそくさと歩いていく。
自動ドアが開き、外界との接触を拒むような冷気が、店内へと引き込む。店員の適当がリスケを薄っぺらく歓迎する。
彼は見渡す。店内を。
その視線は一見普通。だが、よく見れば酷く挙動不審。一定の商品を見るのではなく、まさに店そのものを一望するような流れる視線。時には照明、何もない床すら見つめ…。
が、それも完全に慣れた動きだった。彼は一つの商品棚への近づいていく。
その棚には…グミが陳列されている。ソーダ味の、パッケージまでさわやかなグミ。
「…あー、暑いな、外」
意味もない独り言と共に、それを手に取る。
監視カメラの僅かな死角。彼は長年のこの遊びを楽しんできた為、カメラのある程度の死角を理解している。自身が安全と見なした地点を見つけると、これはまたそそくさとその場へ。
そして…ポケットにそのグミを…。
「何してる」
心臓が飛び出すかと思った。
リスケの人生史上、最大の悪寒が走る。
「…え」
振り返る。
青いコートを着た青年が、雑誌片手にこちらを見つめていた。睨むような目ではないにも関わらず、威圧に近いものを感じさせる…。
「…え。えーと、あー、うん。そう!間違えちまった!これまだ買ってなかった…」
「嘘つけバカ野郎。俺は人一倍、悪意に敏感だ。テメェ今、万引きしようとしたな」
リスケは自然と後ずさる。背中が棚に当たり、逃げ場がない。
「…っせーな、クソが…!」
リスケは…目の前で逃走を図る。入り口目掛けて突進するように駆け出し、全速力でその場から離れようとするが…‘。
Fから逃げられる訳が無い。
Fは導狼の証を使うまでもなく先回りし、自動ドアの前に立ちふさがる。
「ぎゃぎっ!?」
リスケが滑稽に悲鳴を上げ、後先見ずに店内へと駆け戻る。Fは彼を捕まえようとしたが…。
「あっ」
リスケは途中で転倒、そして…転倒した先にあったおでん鍋に顔面から直撃。
地面にぶちまけられる汁、具、そして耳障りな音。
唖然とする店員、悲鳴を上げる客。
窓の外を見れば…逃げていく二人の学生。
リスケは、通報された。
駐車場。
Fはリスケの襟首を掴み、暴れる彼を押さえつける。リスケは手足をばたつかせ、品なく暴れる。
「おい離せよ!このクソッタレが!!ぶち殺すぞ、クズのゴミ野郎がっ!!」
「やれるものならやってみな、迷惑クソ野郎」
暴言に暴言で返すのはFのスタイル。故に、暴言の言い合いでは何も始まらない事も重々理解している。ここらで動機を聞く事にした。
「テメェ何で万引きなんてしたんだ」
「あ?あのグミ欲しいからだよ、バーカ」
Fは三秒程黙ると、こう続けた。
「それ以上の理由があったように見えたぞ。さっきも言ったが俺は悪意に敏感だ。物欲以上の物を持ってるだろテメェ」
リスケは黙り込む。
そして…渋々語る。
「…楽しいんだよ。万引きは。ゲームみたいなスリルに、成功すれば欲しい物がただで手に入るこの上ない報酬。…楽しいんだよ!」
怒り顔で、楽しいと口にする。
情けない姿だった。
「はじめは出来心だった。金がなくて、黙っていけば大丈夫だろと…。気づいたらやめられなくなっちまって」
Fは黙ってそれを聞いていた。
人間の欲とは、一度始まると止まらないし、様々な悪しき欲に分裂する事もある。リスケの場合、物に対する欲から、罪をスリルと評して楽しむ快楽欲にも発展したのだ。厄介なものだった。
「…これから警察にもそれを話す事になる。包み隠さず全部答えろよ」
Fがそう言い終えた、その直後。
「…あん?」
Fは眉を潜めた。何かを感じ取ったのだ。
これは…悪意。
リスケのものとは違う。もっと色濃く…もっと深い…邪悪な気。
気づけば…近くにあった赤い駐車車両から、一人の女が降りてきていた。
サングラスをかけ、派手な茶髪の女。容姿は派手だが、普通の人間のようだ。
…その姿からは考えられない、粘着するような不愉快な悪意が全身からオーラとなって漏れ出している。
「…そこの坊や。なかなか良い気質じゃない」
女はヒールをコンクリートに打ち付けながら、近寄ってくる。Fはリスケの前に立ち、彼を守るように手を軽く広げた。
女はFの目の前に立ち、顔を覗きこんでくる。
「ん…?あんた…ふぅん…」
「何ジロジロ見てやがる。その悪意…ただの人間じゃねえな?」
女は顔を上げると…こう言った。
「ただの人間よ?何の変哲もない…ね」
…すると。
音もなく、その姿が消えた。
「なっ…」
Fは周りを見渡す。
ただの人間の姿が…瞬時に消えた。
隠れたのではない。確かに消えた。
更に…。
「…おい。どこ行きやがった!?」
リスケもまた、消えていた。




