表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/40

万引き犯とのやりとり

太陽が熱く照りつける日の事。


コンクリートが大地を覆う。


「おいリスケ。今日もやるだろ?」

「ああ、やるとも!」

暑さを感じていないような楽しげな声が、テクニカルシティのコンビニエンスストアの前で踊っていた。

駐車場に立っていたのは三人の男子高生。ハッキリ言って個性のない顔立ちだ。

髪型も普通、顔も大して特徴なし。崩れたように皺の寄った制服。


三人のうち一人、リスケという少年が何かに意気込んでいる様子だった。

彼は他二人と適当に会話を済ませると、コンビニの自動ドアに向かってそそくさと歩いていく。


自動ドアが開き、外界との接触を拒むような冷気が、店内へと引き込む。店員の適当がリスケを薄っぺらく歓迎する。


彼は見渡す。店内を。

その視線は一見普通。だが、よく見れば酷く挙動不審。一定の商品を見るのではなく、まさに店そのものを一望するような流れる視線。時には照明、何もない床すら見つめ…。

が、それも完全に慣れた動きだった。彼は一つの商品棚への近づいていく。

その棚には…グミが陳列されている。ソーダ味の、パッケージまでさわやかなグミ。


「…あー、暑いな、外」

意味もない独り言と共に、それを手に取る。


監視カメラの僅かな死角。彼は長年のこの遊びを楽しんできた為、カメラのある程度の死角を理解している。自身が安全と見なした地点を見つけると、これはまたそそくさとその場へ。



そして…ポケットにそのグミを…。




「何してる」


心臓が飛び出すかと思った。

リスケの人生史上、最大の悪寒が走る。



「…え」

振り返る。

青いコートを着た青年が、雑誌片手にこちらを見つめていた。睨むような目ではないにも関わらず、威圧に近いものを感じさせる…。


「…え。えーと、あー、うん。そう!間違えちまった!これまだ買ってなかった…」

「嘘つけバカ野郎。俺は人一倍、悪意に敏感だ。テメェ今、万引きしようとしたな」

リスケは自然と後ずさる。背中が棚に当たり、逃げ場がない。


「…っせーな、クソが…!」

リスケは…目の前で逃走を図る。入り口目掛けて突進するように駆け出し、全速力でその場から離れようとするが…‘。


Fから逃げられる訳が無い。

Fは導狼の証を使うまでもなく先回りし、自動ドアの前に立ちふさがる。

「ぎゃぎっ!?」

リスケが滑稽に悲鳴を上げ、後先見ずに店内へと駆け戻る。Fは彼を捕まえようとしたが…。

「あっ」

リスケは途中で転倒、そして…転倒した先にあったおでん鍋に顔面から直撃。


地面にぶちまけられる汁、具、そして耳障りな音。

唖然とする店員、悲鳴を上げる客。

窓の外を見れば…逃げていく二人の学生。





リスケは、通報された。





駐車場。

Fはリスケの襟首を掴み、暴れる彼を押さえつける。リスケは手足をばたつかせ、品なく暴れる。

「おい離せよ!このクソッタレが!!ぶち殺すぞ、クズのゴミ野郎がっ!!」

「やれるものならやってみな、迷惑クソ野郎」

暴言に暴言で返すのはFのスタイル。故に、暴言の言い合いでは何も始まらない事も重々理解している。ここらで動機を聞く事にした。

「テメェ何で万引きなんてしたんだ」

「あ?あのグミ欲しいからだよ、バーカ」

Fは三秒程黙ると、こう続けた。

「それ以上の理由があったように見えたぞ。さっきも言ったが俺は悪意に敏感だ。物欲以上の物を持ってるだろテメェ」


リスケは黙り込む。


そして…渋々語る。


「…楽しいんだよ。万引きは。ゲームみたいなスリルに、成功すれば欲しい物がただで手に入るこの上ない報酬。…楽しいんだよ!」

怒り顔で、楽しいと口にする。

情けない姿だった。

「はじめは出来心だった。金がなくて、黙っていけば大丈夫だろと…。気づいたらやめられなくなっちまって」

Fは黙ってそれを聞いていた。


人間の欲とは、一度始まると止まらないし、様々な悪しき欲に分裂する事もある。リスケの場合、物に対する欲から、罪をスリルと評して楽しむ快楽欲にも発展したのだ。厄介なものだった。

「…これから警察にもそれを話す事になる。包み隠さず全部答えろよ」

Fがそう言い終えた、その直後。



「…あん?」

Fは眉を潜めた。何かを感じ取ったのだ。


これは…悪意。

リスケのものとは違う。もっと色濃く…もっと深い…邪悪な気。



気づけば…近くにあった赤い駐車車両から、一人の女が降りてきていた。

サングラスをかけ、派手な茶髪の女。容姿は派手だが、普通の人間のようだ。

…その姿からは考えられない、粘着するような不愉快な悪意が全身からオーラとなって漏れ出している。

「…そこの坊や。なかなか良い気質じゃない」

女はヒールをコンクリートに打ち付けながら、近寄ってくる。Fはリスケの前に立ち、彼を守るように手を軽く広げた。

女はFの目の前に立ち、顔を覗きこんでくる。

「ん…?あんた…ふぅん…」

「何ジロジロ見てやがる。その悪意…ただの人間じゃねえな?」

女は顔を上げると…こう言った。



「ただの人間よ?何の変哲もない…ね」




…すると。



音もなく、その姿が消えた。

「なっ…」


Fは周りを見渡す。


ただの人間の姿が…瞬時に消えた。


隠れたのではない。確かに消えた。


更に…。


「…おい。どこ行きやがった!?」


リスケもまた、消えていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ