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現代人VS原始人 ナガデン

深林。

落ち葉が地面に広がり、歩く度に靴底が自然物を踏みつける。


細い木々が細かく視界を覆うその向こう側。そこで、とある争いが起きていた。


片や、銃を所持した人間の集団、もう片や、時代に置いてかれたかのように古い毛皮の服を着た、原始人じみた容姿をした人間達。

原始人達は三十人ほど、人間達は十五人。

人数では原始人の有利だが、技術、装備、そして…状況的にも人間達の有利。

先に戦いを挑んだのは人間達だった。

理由は、人間が管理する田畑に原始人達が降りてきて、勝手に作物を食べた事が原因…元を辿れば原始人達に非があった。

しかし自然に生きる原始人達は知らなかった。人間の領地であると。

「すまなかった、やめてくれ!ワシらはあんたらの領地だとは知らなかったのじゃ!」

唸り声をあげながら石の剣や鎚を手に向かっていこうとする原始人を止めるように、長い髭を生やした老人の原始人が人間を説得しようとしていた。が、人間達は聞く耳を持たない。

「お前らもモンスターと同じだろ!?どうせいつか人間達に進撃でもかけるつもりなんだろ、その前に思い知らせないとな!」

彼らは原始人達の足元目掛けて発砲する。弾が地面に打ち付け、原始人達は頭を抱えて怯えた。

じわりじわりとにじみ寄る人間達。原始人達は目を瞑って互いの肩を寄せ合い、必死に恐怖に抗った。


…が、そこへ原始人達にとっての救世主が現れる。


「おい」

鋭い刃のような声がした。


人間たちは顔を向ける。


そこには…青いコートを着た青年と、ピンクの服を着た小さな少女が立っていた。

青年はポケットに手を突っ込み、何とも気に入らなそうな顔で人間たちを睨みつける。一方の少女は無邪気な笑みで、原始人達を見つめていた。

青年は、人間の一人に近づき…彼が持つ銃を指先で挟む。


そして…力を込める。


「…っ!?」

人間の手先で…銃口がへし折れた。

まるで割り箸をへし折るような…そんな容易い感覚で。


「う、撃てえええ!!!」

もはや目の前にいる者を人間とは認めなかったのだろう。彼らはたった一人の青年目掛けて何百発にもわたるであろう弾丸を撃ち放つ。

が、青年は尚冷静だ。跳躍し、弾丸の嵐を難なく回避する。人間達の頭上をとり、両手を胸の前で構えると…。


次の瞬間、五人の人間達が膝をつき、うつ伏せに倒れ込んだ。

青年の攻撃が目に見えず、人間達の焦燥は加速する。何人かは青年の隙を突いて、彼に懐いていると思われる少女の手をとり、彼女に銃を向けた。

(このガキを人質にすれば…!)


…が、その少女もまた只者ではなかった。

彼女は人間達の足に突然拳を打ち込み、彼らのバランスを崩させた。

「やめて!もうちょっと楽しい遊びしようよ!!」

彼女は飛び上がり、人間達の顔面へ蹴りを入れる。その軽やかな動きは兄にも劣らぬ超人ぶりだった。

ようやく人間達は自分達の不利を悟ったらしい。たった二人の参戦で、銃をも所持した自分達が不利に。

あり得ない状況を懸命に理解しようとする脳が唯一明確にしていた信号。それは、逃走せよ、の四文字だった。

「逃げろー!!」


彼らは森から逃げていった。



「怪我は無いか…って、まあ無い訳がないよな」

青年は原始人達を見渡した。皆、まだ怯えた様子で震えている。


ひとまず青年は名乗る。

「俺は…訳あってFと呼ばれてる。そしてこいつは俺の妹のクラナだ」

横のクラナは子供らしさを感じさせる大袈裟な動きで頭を下げる。原始人達はようやく肩の力が抜け始めていた。


ここであの老人は前に出た。

「た、助けてくれてありがとうございます…貴方がたは一体?」

「ん…俺達はただの通りすがりだ。この森にある樹の実を拾いに来た」

ただの通りすがりで済ませられるような動きではなかった。即座に考えた名乗りだったので、無理がある事は重々承知だ。


それでも、助けに来てくれた人物であるFとクラナに対し、彼らは警戒心を解いてくれた。

「…ありがとうございます、本当に…!」


彼らは色々と話してくれた。

近頃人間達との関係性が悪化の一筋を辿り続けてる事、自分達の住処に人間達が押し寄せてくる事が多くなった事。その原因は自分達が人間達の畑の野菜を間違って食べてしまう等、様々な過失があったようだが、原始人達はそれを反省しており、謝罪の意を込めて自分達の食糧を人間達へ送っていたという。

だが人間達は許してはくれなかった。

彼らはいつしか原始人そのものへ憎悪を向けるようになり、今回のような過激な行為にも出るようになったのだ。殺戮こそ〔今のところ〕はこなしていないものの、彼らが止まる事を知らぬ限り、その可能性は常につきまとう。老人は俯き気味に続けた。

「この由々しき事態…我々はこれを何とかするべく、ある協力者をお呼びいたしました。彼らはワンダーズと呼ばれる方々。どんな事件も解決してくれると噂の方々なのですが…」

「ワンダーズ…?」

Fはその言葉に反応した。彼の足元で、クラナが騒ぎ出す。

「ワンダーズ!?ワンダーズッ!!アタシ、その人達知ってるよ!」

飛び跳ねるクラナに、老人は背筋を伸ばした。

「な、なに?知ってるのかい?」

「うん、だって、ワンダーズは…れな達は、友達なんだもん!!」




その時だった。




「ひゅー!!言ってくれるねえー!!」



森の木々をかき分けるように、声が降りてきた。

見上げると…。



白い木漏れ日と共に、黄色い髪が派手に揺らめきながら降りてきた。


…れなだ。ワンダーズの一員にして、天真爛漫なアンドロイド娘。

F達に見守られながら、れなは両手を真っ直ぐ振り上げ…飛行機の着陸の如く、ゆっくりと降下、足を少しずつ地面に接触させていき、緩やかに土を散らし、徐々に速度を落としていき…そして、着陸成功。

完全に制止したところで、彼女は万歳のポーズをとる。

「かっこよく決めたよ!!」


…かなりの距離を滑っていたせいで、F達よりも遥か離れた距離での制止だったが。



Fとクラナ。

この兄妹は、ある戦闘でれな達と出会い、仲間となった。

この二人にはある複雑で黒い経歴があるのだが…そちらはまた追々お話させて頂こう。

ともかく、今回は原始人達の話だ。


「…という事だ。人間どもを何とかしねえと、こいつらが殺されるかもしれねえ」

Fはこれまでの事を一通り話してくれた。れなは腕を組み、頻繁に相槌を入れたり、「なるほどねえ」を連発するなど、どこか大袈裟な反応。


一通り聞き終えると、れなは腕を解き、迷いなくこう言った。


「人間達に、やめてくれっ!って伝えよう」

「…やっぱお前はおめでたいな…そこがお前の魅力でもあるんだが」

Fは半ば呆れ顔。首を傾げる彼女を見て、老人が続いた。

「言葉で解決しようとしてくれるのは本当にありがたいのですが…彼らは完全に興奮状態です。下手に言葉をかければますます刺激してしまう危険性も…」

難儀な顔の彼らに、この中で一番幼いクラナは特に疑問の顔を見せていた。

れなは肩の力を抜き、両手を下げる。

「…やっぱりね。最近の人間達、何か苛立ってるしなー」

何とか良い手はないものか…改めて全員の思考を一つにしようとした時。


後方にいた原始人達が、叫びをハモらせた。

「長老ぉ!ナガデンが!暴れてる!」


「なに!?」

老人が振り返り、長い髭がクラナの顔にぶつかる。


森の奥から獣のような叫びが聞こえてきた。茂みを蹴飛ばすような荒い音も…。


そして…茶色い皮膚の人型の怪物が現れた。

その皮膚の質感を一言で表すなら…木。

木とそっくりな色合い、所々に傷もついている。だが人のようにしなやかで、体をくねらせながら進んでいく。両腕は極端な程に細長く、体を揺らすと派手に揺れ動く。


ナガデン…それがこのモンスターの名だ。

老人はナガデンに走り寄っていく。

「ナガデン!?どうしたんだ、敵はもういないぞ!」

ナガデンは…聞く耳を持たない。鞭のような手を振り回しながら周囲の大気を叩き、老人の髭を僅かに掠める。

「ひっ…!」

高い声をあげる老人を、クラナが突き飛ばした。

「おじいちゃん、さがってて!」

彼女はその小さな体からは想像もつかない構えをとる。深く落とした腰、自身の身を守りつつも防御に転じた拳…それは紛れもない拳法の構えだ。

ナガデンは小さなクラナにも問答無用で腕を振り下ろしてくる!


正確な攻撃だったが…クラナはその軌道を一瞬で見切り、飛び立つ。腕とすれ違い、拳を構え、ナガデンの顔面へとまっすぐに叩きつける!

衝撃波が輪っか状に広がり、ナガデンは瞬時に意識を失った。

ドサリと地面に倒れ、動きは止まる…。

老人はナガデンに駆け寄り、その呼吸を確認した。

「…す、すごい。こんな一瞬で気絶させ、かつ呼吸器系にも異常を与えないとは」

胸を張るクラナの頭をFは撫でる。老人はまた頭を下げてくれた。

密林で暮らしてきたとは思えないほどに礼儀正しい。


ナガデンは原始人達を守るモンスターだ。

本来は気が良く、大人しいモンスターなのだが…近頃人間の襲撃によって気性が荒くなり始めているらしい。


原始人だけではない。モンスターにも異常を与え始めている…。

人間達の勢いを弱めなくては。


「…れな」

Fがれなの方をちらりと見やる。そんな彼とは対照的に、れなは全身を彼に向けて反応した、

「原始人達はクラナに守らせる。俺達は人間どもを説得しにかかるぞ」

「あれ?話し合いは危険って言ってなかった?」

コートのポケットに手を突っ込み、Fは倒れたナガデンを見下ろした。

その目は冷たい怒り…そして、僅かな焦りを感じさせた。

彼もまた平和を愛する戦士。被害者を見る目は穏やかではない。

「これ以上悠長な事は言ってられない…もしやつらを刺激したら、俺たちの力で何とかするぞ」

「…そうだね、そうしよう」

力には力。これが一番手っ取り早いのだ。


れなは両の拳を突き合わせた。




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