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悪は勝つ

血の匂いが、鉄の匂いが、街を焦がしていくようだ。


戦士たちの遺体が揃う中、更なる骸となる覚悟を背負いながら現れたのは…。


れなとれみの父、彼女らを作った博士だ。


彼は近くの建物の壁に手をやり、体のバランスをとるような仕草を見せた。

…長ズボンに覆われた足が、震えてる。

「何だジジイ。怖いんだろ」

リューガの右目が黄色く、左目は黒く染まる。

彼は、恐怖心を煽るかのように、ゆっくりと歩み寄っていく。

博士は動かない。

恐怖で動けない訳ではなさそうだった。

彼自身の意思で、動こうとしていないようだった。

「逃げねえのか、おもしれえ。何を企んでる?」



…距離、1メートル。

近い。

博士の顔が、更に強張る。

「何だ?俺と戦おうっての?」

指を額に突きつけられても、博士は動かない。


「…君は」

恐怖の中、表情筋に鞭を打つ。


「君は、何を考えてる?」


その質問は、あまりに単純だ。


「は?」

首を傾げるリューガ。

博士の首に、手を伸ばす。

「何も考えてねえよ。それを知って、テメェはどうする…」




…突如、何かがリューガ目掛けて飛び込んだ。

青の閃光。そして桃色のオーラ。

それらは銃弾のような速さでリューガを突き飛ばし、近くの建物に激突させた。

博士は、突然目の前で起きた事にも動じず、拳を握りしめていた。



…現れたのは、F、そしてクラナ。

Fの右腕、導狼の証が輝き、クラナの目は赤く輝いてる。

兄妹揃って、その表情は同じだった。

仲間の死を目の当たりにしてか、それとも…目の前の存在が父親である事への嫌悪か。

その若さからは考えられないほどに眉間にシワを寄せ、白い歯をむき出しにし、冷や汗にまみれた顔。

その手先は、リューガの胸を貫通していた。

「おいおい、父ちゃんに会えて嬉しいのは分かるけど、ハグが激しすぎだろ」

リューガは、Fの頭部に片手をのせる。

「じゃあ、俺からはも遠慮なく…ヨシヨシしてやるよ」


「そうはさせない!!」

クラナが素早く胸から手を引き離し、飛び上がり、リューガの腕を蹴り飛ばす!

幼い足から放たれる異様に鋭い力。それは、リューガの腕を蹴り飛ばすどころか、切断力が生じた。

肘から真っ二つになるリューガの腕。

目を細め、クラナを見つめるリューガ。

「…親に反抗するもんじゃねえぞ」

クラナは…後退らない。恐怖しつつも、それを上回る覚悟に満ちた顔。

恐れ、躊躇、逃げ出そうとする本能。

それらを覆い隠す盾。それが、今のクラナの顔だ。

クラナを守るべく、Fはリューガに、拳を放つ。

リューガは、クラナに視線を向けたまま、Fの腕を掴んで止めた。

「…導狼の証ぃ?確か、強い心を持つ者に力を与えるという…。息子よ。どこで、誰にそれを授かった?」

言い終わるなり、高速でFの両肩を摑むリューガ。

眼前に、その不気味な表情が迫ってくる。

「教えてくれよ…?」


骨が悲鳴をあげた。

リューガは、そのまま、Fの額に頭突きを決めた。

Fの頭蓋骨にヒビが入る。額からは血が噴き出し、リューガの顔を直撃。

「ぐあああああ!!!!」

普段の冷静さも保てず、Fは吹き飛んだ。

「お兄ちゃん!!」

クラナがFに走り寄る。リューガは、足元を通り抜けるクラナの頭上から、拳を振り下ろそうとした。

殺気を感じたクラナは、振り返り際に攻撃を仕掛けようと手を構えたが…。


リューガの拳が、止まる。

自身に覆いかぶさるような感触が、彼を止めたのだ。


…見ると、博士が、リューガを押さえつける形で止めていた。

勿論ただの人間である博士がリューガを止められる訳が無い。しかし、ただの人間だからこそ、弱い生物だからこそ、そんなものに触れられた不快感は、底知れない。


「触るなクソジジイ」

その重い声には、リューガ特有の遊び心がなかった。

それでも博士は、止まらない。リューガの首に爪を突き立てる。




…彼は、ワンダーズと共にこの戦場へとやってきた。

一つの条件を、れみから出されて。



この戦いが始まるより前。彼らはある作戦をたてていた。

仲間達の中でもその伸び代が未知数であるFの導狼の証。それに全魔力を込めた状態で攻撃すれば、リューガに多少たりともダメージを与えられるのではないかと。

だがそれには時間稼ぎが必要だ。

その時間稼ぎ役として、ワンダーズは戦った。怒りに満ちながらも、全力を尽くし、そのままリューガを倒せればそれで良し、無理なのであれば、Fの力をリューガにぶつける。

そして博士は…。



全てが上手くいかなかった場合。


まさしく今の状況だ。


彼の白衣のポケットに隠された装置を使う事を頼まれたのだ。

その装置は、周辺の戦士達を呼び出す装置。

それは魔力発生装置の一種であり、戦士の戦闘本能に直接呼びかけ、刺激する効果がある。

これを使えば、周りの大勢の戦士達が現れ、それまでワンダーズしか気づかなかったリューガの邪気に気づき、立ち向かうだろう。


しかしこの装置は、出力が強い。

戦闘本能を刺激された戦士達の戦い方は、かなり荒くなる事が予想されていた。

そもそもこんな未知の相手に、説明もなしに無関係な戦士達をぶつけるなど、あまりにも理不尽すぎる。

それに、そんな戦い方をさせれば…リューガは、ますます調子づく。

[暴力に飢えた馬鹿ども]と。


だから、ワンダーズだけで倒したかった。


結果は…惨敗。



本来ならば、ポケットの装置を押すべきだ。

が…娘達の惨たらしい最期を目の当たりにし、勝ち目が見えない相手がすぐ近くにいるこの状況。戦士達を呼ぶ事はすなわち、更なる犠牲者を出す事に他ならない。


正気を保てるはずがなかった。

だから、今、彼は立ち向かってるのだ。


無関係な戦士達の代わりに…。


彼の目には、涙があった。

自分が今、無意味な事をしているとは分かってる。

しかし悲しきかな、人間としての本能が、彼を突き動かして止まない。

他人の為に動き、他人の為に命を懸ける勇気、決意、愛情。

それを、人間の悪意の集合体たるリューガが目の当たりにすれば…どうなるか。



「死ね!!」

一瞬で、博士の頭が粉々になった。

振るった腕を宙に掲げたまま、リューガは、目の前の首無し死体が倒れるまで、睨み続けた。


白衣が赤く染まり、膝を折り、前のめりに倒れる。決意を固め、不可能に挑戦した人間の最期というのは、呆気ないものだった。

地面に広がる血溜まりを見下ろし、リューガはやはり笑う。

「へっ!はははは…!何かやばい技を隠してるのかと思ったが、結局ただの老いぼれクソジジイかよ。ゴミみてえな野郎だな!能無しのクズめ!」

再び楽しげな笑みへと戻るリューガ。

血しぶき、そして無念のままに倒れる人間の姿を見た事で、ショーの感覚を取り戻したのだろう。



「おい…」

リューガの服の裾を、Fが摑む。

その背後では、クラナが拳を構え、いつでも殴りかかれるように備えていた。

何も言わず、父を睨むFに、リューガは口を尖らせた。

「ちょっとしつけえぞ。どんだけ殴られれば気が済むんだ?」

この驚くほどの諦めの悪さ。

もしこれが自身の後継者…息子と娘でなければ、博士と同じ運命に立たせただろう。

しかし、彼はこの往生際の悪さを気に入った。


どうしてここまで不可能に挑戦できるのか。


彼がF達に抱いた念は、それまで戦いを挑んできた者達とはまた違うものだった。





「良いだろう」

肩の力を抜くリューガ。

クラナが、一瞬警戒を解いた。


リューガのその仕草は、まるで戦いを放棄したかのように見えた。

しかし…むしろ、逆だったのかもしれない。

「テメエら、俺の後継者にならねえか。そうすれば、命だけは助けてやる」

『なるか、バーカ!!!』

兄妹の返事は、同時だった。

そして、一瞬たりとも迷いがなかった。


「ふーん、そうか」

自分から聞いた癖に、興味がなさそうな返答。

リューガは、諦めたように、そして新たな何かを始めるように…力を集め始めた。


両手を交差させ、足を軽く広げ…。


自分自身を地球の大気に呑み込ませるかのように、周囲と調和する。

リューガの魔力が、だんだん微弱に、縮んでいく。

「…な、何だ…」

Fはリューガから離れ、人形のように動かなくなった彼を心底不気味がる。


…クラナが、先に気づく。

魔力が弱くなってるのではない。


感知できない程、精密かつ、強力な力になっているのだと。


「お兄ちゃん!!バリア張って!!!」

目が飛び出さんばかりに見開いたクラナの顔は、未来を予知したかのように、危機感に溢れていた。

嫌な予感がしていたFは、迷う事なく導狼の証の魔力で、青い光のドームを形成。



次の瞬間、白い閃光が放たれ…。








…世界は、消えた。

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