表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/40

信じられない事は起きる

信じられない事は起きる。

この世界は不思議なのだから。




かつて、あまりにも多くの悪逆を繰り返した存在…リューガ。

殺生はなるべくして避けるワンダーズですらも手を下さざるを得なくなった程の存在だ。

死闘に死闘を重ねた末、ようやく彼は討たれ、永遠にこの世から追放されたはずだった。


地獄の業火で焼かれていたであろうリューガ。

彼がこの世に再び生を許される日が来るなど、世界の誰もが思わなかったし、望まなかった。


が、その日は来た。

人間の悪意の集合体。

最凶、最悪の存在が…今、ワンダーズの目の前にいる。




これは悪夢か。

それとも幻覚か。


あまりの衝撃に、誰もが口を聞けなくなった。


そんな彼らを見下ろすリューガの顔は…早速、邪悪だった。

「アホ面どもが」



唯一、比較的冷静さを保っていたのは闇姫だ。

とはいえ、彼女も冷や汗を浮かべている。

「…おい、クソリューガ」

「何だ、クソ闇姫」


闇姫は、ステージに登りだす。

一歩一歩歩みを進めていき…そして、リューガの目の前へ。


この顔、この態度。

懐かしい。そして、憎たらしい。

リューガには、見境がない。

[悪]である闇姫にすらも、自分なりの[悪]を見せつけ、彼女とその部下達を苦しめた。


闇姫もまた、リューガを憎む者の一人。彼に殺された部下もいるし、闇姫個人としてもリューガの事は気に食わない。

というより、今すぐにでも殺してやりたい程に、憎たらしい。


「リューガ…殺すぞ」

闇姫は、拳を突き出す。



リューガは…それを右手だけで受け止めた。

軽く押し返し、闇姫の体が浮く。


華麗に着地する闇姫。

リューガを殴った手を軽く振るい、舌打ちを一つ。

「やっぱ、簡単に殺せねえ」

残虐性だけではない。実力も、とてつもない。

これほどまでにタチの悪い存在も珍しい。

リューガは両手をゆっくりとあげ、足を交差させる。さながら、ステージに立つ一大スターのような愉悦さ。だが彼を彩るスポットライトは、不快なる悪意だ。

「また会えて嬉しいぜぇ?お前らも嬉しいんだろ?俺に会えた事が」

「誰が嬉しいか…!この野郎!」

そう叫ぶのはれみ。リューガは目だけを彼女に向け、流れるように言う。


「…姉無しじゃ、何もできねえくせに。イキリ雑魚が」

「うっ」

黙りこむれみ。

そんな彼女を身に寄せるのは、れなだ。

「アタシの妹を侮辱すんな!テメェみたいなクズに、れみの何が分かる!?」

「…なるほど、馬鹿の姉は馬鹿。何も変わらねえな」

リューガは笑みを歪ませる。


「テメェら正義の連中は、皆で力を合わせりゃどんな敵にも勝てる!とか謳うよな?それ、つまり一人じゃ何にもできない、価値のない無能だって言ってるようなもんなんだよ」

拳を震わせるれな。

リューガは一瞬目を細めると…両手を叩いて高笑い。

「ハハハハハ!!!はい、俺の勝ち!」

回りながらステージの中央へと移動すると、彼は改めて話しだした。


「さぁて。そろそろ説明するか。俺、ファン・マリス・リューガがなぜ復活したのか。答えは単純だ」

リューガは人差し指をたてる。


「人間どもの悪意だよ」





人間どもの悪意。


人間という生き物は、理性があるが為に悪意を振りまく。


悪意を撒かずにいられない人間など存在しない。

が、欲望に忠実になりすぎない限り、自制心を持つ限り、悪意というのは最小限に抑え込める。

だが、今の人間は、あまりにも自制心がない。

毎日毎日、世界の何処かで己の欲望のままに行動を起こす者がいる。

盗み、殺人、いわば犯罪の類だけでは留まらない。

罪の意識もない悪戯に、機嫌一つで引き起こされる八つ当たり、針のように鋭い陰口、挙げ句、苛立ちに流されるままに物を軽く蹴飛ばす。

大小問わず、悪意が溢れている。


悪意は、昔と比べて年々増加しつつある。






人間達がツケを払う時が来たのだ。



リューガの復活という形で。


「感動の再会だが、まあ復活の理由は単純だよ。お前らが守り続けてきた人間達がやらかし続けて、俺という忌まわれし存在が蘇った。お前らが、[守り続けてきた]人間達がな」

意味もなく頭を下げるリューガ。

本当に、人を煽るのが上手いやつだった。



ワンダーズ、そして闇姫までもが顔を強張らせている中、二階からそれを見下ろすFとクラナは、また別の驚愕を見せていた。


「…あれが…親父」

リューガの子。


その刻印は、これまで二人を幾度となく苦しめてきた。リューガの子というだけで命を狙われ、リューガの子というだけで人々から唾を吐きつけられた事もあった。

何故こんな目に?何故ここまでの事を?

疑問が絶えなかった。



…ようやく、少し分かった気がする。



「…これが、本当に俺達の親父の…魔力か…?」

邪悪すぎる力が、ウェーブのように一同に覆いかぶさる。中でもFとクラナは、リューガの血を引いている以上、その力をより鮮明に感じられるらしい。


仮面の女だった時の所業。

これほどの邪悪さを持っているならば、あの所業も納得できる。


そう、納得できてしまった。

自分たちを生み出した存在が、そういった存在であると。


「…くそっ」

それだけ。Fは呟いていた。


いつの間にかリューガは、目だけをFの方に向けていた。


「おやぁ」

体はワンダーズに向けたまま、リューガはFとクラナに意識を向けていた。



「そこにいるのは、もしや…俺の可愛い子供達か」

リューガの足が、浮き上がる。二人の方に向かおうとしているのだ。

クラナが息を呑む。

幼い彼女にとって、親とは本来心を寄り添わせる存在のはず。しかし、今の彼女がリューガに対して抱えているのは…紛れもない恐怖そのもの。

あんな惨劇を目の前で展開されたのだから、当然だろう。むしろ、そんな存在が親であるからこそ、恐怖は余計に増幅していた。

もしこれが、何の関係もない赤の他人であれば…少しは和らいでいたのかもしれない。


リューガは、二人のいる高さまで飛んできた。

クラナを庇うように手を伸ばすF…。彼の形相と、リューガの笑みは、真逆の意を感じさせる。



絞り出すように、父の名を言う。

「リューガ…」

「おい」

リューガが、一気に距離を詰めてきた。





…凍りつく。



「『親父』だろうが」





「…リューガっ」

Fは、屈しなかった。

ワンダーズから、リューガは今までにない悪党であると聞いていたが、今、この瞬間でようやくそれを理解できた気がする。

顔を近づけられた瞬間、リューガの邪悪さが一気に突き出されてきた。

その悪意は…物理的に表すならば、剣のように鋭く、壁のように範囲が広い。

それなのに、対象を包み込む、液体のような柔軟性がある。

温度は、全身の身の毛がよだつような低温。不快感が脳を瞬時に支配し、思考の幅を狭め、そして肉体にすら影響を及ぼす。

相手を確実に沈めこむ、悪魔のようなオーラ。いや、悪魔以上かもしれない…。


それでも、Fの心は屈しない。

彼はリューガを、親父と呼ばなかった。



リューガは首を横に振る。

彼は心の中でこう言っただろう。

[可愛くねえ]と。



…だが。



「…お父…さん」


クラナが、呟く。

幼い子供が、親を呼ぶ。当たり前の事なのに、Fにはそれが、何かの引き金になってしまったように感じられた。


「危ないっ!!!!」

下の階から叫んだのは、れなだった。




次の瞬間。



クラナ目掛けて、飛んできた。


リューガの握り拳が。




「ぐぎゃああああああ!!!!!!」

少女とは思えぬ悲鳴が響く。


苦痛により、本能が呼び覚ましたその声。


リューガの子…その本能が。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ