CR
仮面の女に対し、死の覚悟の下、戦いを挑んだワンダーズ。
その最中、思わぬ加勢に入ったのは…あの闇姫だった。
「闇姫!!何故ここに!?」
れなが眉をひそめて足を踏み込む。
仮面の女を蹴りつけた闇姫…。その行動は、少なくとも女に味方する意図は見当たらない。
しかし、闇姫である事自体が、ワンダーズに希望よりも先に、疑心、不安を持ちかけてきた。
闇姫は後ろの女に振り返る事もなく、れなの前に立つ。
そして…彼女の横頬を、殴りつけた。
「いって!?!?いきなり何すんだよこの野郎!!おバカ!」
殴り返そうとするれなの両足を、れみが掴んで止める。
闇姫はポケットから熊柄のハンカチを取り出すと、れなを殴った拳を念入りに拭く。
そして…深くため息をついた。それは、彼女の意思の、とある起点だったのかもしれない。
闇姫はれな達に背を向ける。
今度は、壁に叩き込まれた仮面の女へと、その鋭い目を向ける。
「テメエらと手を組むなど、控えめに言ってゲロ案件だ。だが我儘を言ってる場合じゃねえ。アタシらの力で、このクソ仮面をぶっ潰すぞ」
闇姫自ら共闘を持ちかけてきた。
昔から敵対し続けてきた彼女が、プライドの高い彼女が、自ら。
「…なんで?」
葵の声は疑心に満ちていたが、その銃口は闇姫ではなく、相変わらず仮面の女に向けられていた。
闇姫は舌打ちを一つして…仮面の女へと飛び込む。
「…わからねえのか、馬鹿どもが。こいつがやばいからだ!!」
再び、黒い影となって女へと直行する!
拳がぶつけられ、施設の壁が丸ごと崩壊した!
ワンダーズが立っていた足場も瞬時にひび割れ、あっという間に崩壊していく。
闇姫についていかなければ、自分達も巻き添えだ。
「仕方ない!闇姫に続け!!」
粉砕男が壁を蹴り、女へと飛び込んでいく。
闇姫と粉砕男、二人の拳が仮面を狙う。
女は両手を構え、それぞれの手で二人の拳を受け止める。左手で粉砕男を押し返し、右手で闇姫の手を捻り折ろうとする。
「甘い、クソめが」
闇姫は逆に女の手を掴み、肘目掛けて膝蹴りを打ち込む!
嫌な音が響き、女の腕が脱力する。骨をへし折ったのだ。
(…あいつにも骨があるって事か。なら、普通の戦法でもギリギリ通じる!)
テリーは、崩れ落ちる足場から飛び上がりつつ、右手を刃に変形させる。
女目掛けて飛び込み、刃を突き出す。単純な動作…女は彼を蹴飛ばして食い止めようとしたが…。
女の蹴りが繰り出されるより前に、彼女の頭上からドクロが踵を叩き込む。
真上からの衝撃で、女の頭部は自然と下へと押し流される。そして今度は、その流れに反発するように、れみが女の顎を殴りあげた!
吹き飛ばされる女に、テリーが再度刃を突き出し、全身を滅多刺しにする。
これでも尚、女は足を振るい、その衝撃で一同を薙ぎ払う。
施設がいよいよ全崩壊を始め、床と床、壁と壁が互いに離れあう。その隙間から、瘴気界の全容がついに姿を現し始める。
そこは…霧に満ちた空間だった。
灰色と白、時々黒。それらの色が淀み、ひしめき合う不穏な空間。その霧の向こうに何があるのか、あるいは何もないのか…未知の世界を分かりやすく表現したような場所。
崩壊した施設…足場は、空中に浮いていた。
あまりの瘴気で、無重力空間と化しているらしい。
流されそうになる人間達を、ドクロとテリーが魔力で空中に固定、一つの足場へと集める。
れなとれみは、闇姫と並んで女に打撃を仕掛け続けていた。
とにかく、休む暇を与えない。
女は両腕を構えて防御に集中。中々効果的なダメージを与えられないが、それは逆にこちらの攻撃もきちんと通じている事を示唆している。
咄嗟に、闇姫は女の胸倉を掴み、引っ張る。
「恥ずかしがってねえで、アホ面ぁ晒しやがれ」
仮面に叩き込まれる闇姫の拳。
…仮面が、ひび割れる。
飛び散った僅かな破片をかわしながら、ドクロは感じた。
女の魔力が、乱れた事に。
(闇姫の拳でも一発で砕けないなんて…。それにこの魔力…)
ドクロの思考が、突然ストップしたような感覚がよぎった。
この魔力…。
感じた事がある。
何か、恐ろしいものが待っている気さえしてきた。
「皆…気をつけて!!」
彼女が叫んだ瞬間、闇姫の拳が更に撃ち込まれ、仮面は半壊。
魔力が、より鮮明になる。
霧に覆われていたその力が…禍々しさ、邪悪さ、陰湿さ、不快感…あらゆる嫌悪を混ぜたような力が、噴き出すように…。
「ぐっ…」
そして、れなの脳裏に、嫌な顔がよぎる。
れな、闇姫。
二人は拳を合わせ、同時に殴りつけた!
ついに、仮面はバラバラになる。
破片が、床に散る。
女は、顔を抑えながら後ずさった。
…。
彼女は、顔を押さえたまま歩き出す。
明確な隙だった。
隙なのに…手が出せない。
何か、強烈な圧が放たれていたのだ。
闇姫ですらも、手を出せなかった。
女は歩き…身を引きずり…。
ステージの中央に立つ。
「久しいな」
顔を上げた。
…長い黒髪。僅かに釣り上がりながらも、不思議な透明感のある瞳。
左目は赤く、右目は青い。
女は、目を細めた。
「反応が悪いな…。ああ、お前らにとってはこっちの姿の方が、馴染み深いか」
女の髪が、少しずつ短くなっていく。
背中を通り、肩を通り、後頭部へ。
短髪になると同時に、着物までもが変化を始めた。
材質の随から変化を始め、色合いまでもが全く異なるものへと変わっていく。
着物に染み込んだ赤い色彩が、左側へ追いやられていき、一方右側には、青い色彩が現れる。
振り袖が埋め込まれるように短くなり、帯も消えていく。
オーラで揺れていた衽は動きが落ち着いていき…滑らかに変形。ズボンの形へと変化。
そして。
声は、男のものとなった。
『………リューガ…?』
サーカスの再来だった。




