コゴエザリア壊滅
血雪の戦いを再現するかのようなコゴエザリアの地。
突如現れた謎の仮面の女により、多くの住民が殺され、血が不快な熱を運んでいく。
ドクロとテリーは追い詰められ、そして何より精神的な疲弊が強すぎた。
これ以上の無理はできない。
次の一手をどう出すか、躊躇していたところ…そこに舞い降りたのはFとクラナだった。
仮面の女は足を止める。
F、クラナを見つめているようだ。仮面によって素顔を隠しているので正確にはどんな顔をしていたかは分からない。
同時刻、コゴエザリアとドグリーンのぶつかりあいの仲裁に入ろうとしていたれな、れみ、ラオン、葵もFとクラナの魔力を感じ取り、久方ぶりの安心感に少しばかり肩の力を抜いた。
丁度兵士達の大多数を気絶させていたところだ。殺し合いも徐々に収まり、確実に、外に晒される血は減ってきている。
粉砕男はドグリーン王を捕らえたまま、れな達を見守っていた。
「くっ…俺も加勢したいが、あんた…人間とは思えない力だな…!」
手元のドグリーン王は尚も暴れている。
抑えられない程ではないが、普通の人間にしては妙に力が強い。それに、時々不自然に無表情になる…。不自然な面が数多く見られる。
だがそれ以上に気がかりなのは…Fとクラナの魔力と同時に感じられる力。
「…さっきから何なんだよこの力は」
額から汗が流れる。
突然コゴエザリアに舞い降りた邪悪な力…それは粉砕男をはじめとしたワンダーズ全員に、悪寒を与えていた。
「…お姉ちゃん。さっきから気分悪くない…?」
れみがれなのツインテールを軽く引っ張る。その顔は明らかに体調が優れない。
葵とラオンも同様の様子。アンドロイドである彼女らすらも、この異様な不快感に圧倒されている…。
「え?何か感じる?」
れなだけは、いつも通りの様子で周辺を見渡す。
ほとんどの兵士が気絶、あるいは敵兵と戦って戦死。悲惨な光景だが、ひとまずこの場は抑えられた。
が、一難去ってまた一難。その邪悪な力は、明らかに静観できるようなものではない。
「…思ってたより早く来られましたか」
建物の陰から、一つの影が現れた。
構えるワンダーズ。
死体を踏みつけながら現れたのは…グルテ。両手を腰で組み、胸を張り、威圧的な様子。
「我々の主様がいらっしゃったのですよ」
「主様…だと?」
ラオンがナイフを向け、威圧し返しながら聴いた。声は、この邪悪な力のせいで震えている…。対するグルテは、あまりにも堂々と振る舞っている。
「そうです。まあ、あのお方について長々と語れませんがね…。まあ明確な事を言いますと、貴方がたはもう終わりですよ。絶対勝てません」
自信そのもの、とでも呼ぶべき一言だった。
絶対勝てない。戦士として、あまりに聞き捨てならない言葉。
「…そいつがどんなアホヅラ下げてんのか、拝ませてもらうぜ!」
ラオンは、一気に飛行体勢へと映る。
れな達も彼女に続き、建物を乗り越えるように飛んでいく。
残されたグルテは、ほんの僅かに、クスリ、と笑った。
…Fとクラナはコゴエザリアの港にて、死闘を繰り広げていた。
いや、それはもはや死[闘]ではない。
一方的な死に、抗っていた。
Fは拳を打ち込みにかかるが、女は左手だけでFの猛攻を完璧に防いでしまう。
「ちっ。俺の拳をこんなにも簡単に止めるとは…。とんでもない力を感知して、れな達がいるこの場所へ来てみたら…こんなバケモンがいるとはな!」
Fは一旦距離を離す。
一方、クラナは魔力を駆使して四肢に桃色のエネルギーを纏い、普段以上に強力な打撃を連打していく。
クラナの足が女の首元に掠めるが…。
「あっ!」
足を掴まれてしまう。
「クラナっ!」
Fは彼女を助け出そうと、女の仮面に拳を叩き込もうとするが…。
女は足を振り上げ、Fを下から蹴り上げた。
衝撃で、顔が勝手に真上に向く。
自分は今、隙を晒している。
そう理解した頃には、女は既に次の一手に出ていた。
彼女は、右手に掴んだクラナをF目掛けて振るい、互いにぶつけ合わせる!
頭を直撃しあい、目眩が生じる。
それでも足の感覚でバランスはとれる。二人は互いの手を握りあい、支え合うようにして女から離れるが…。
「ぐっ!!」
Fが叫ぶ。
女は、彼の腹部を蹴り飛ばしていた。
不快感が大波のごとく彼を飲み込む。内臓を動かされるような、そんな不快感。
口から血を吐く。苦渋そのものと言えるその姿に、女は更に拳を叩きつける。
「F!!今助ける!!」
ドクロが叫び、女に向かおうとしたが…。
女の髪の一部が桃色に発光。そして…一本の髪の毛が、ドクロの足に突き刺さる!
「うぐ…!!」
歯を食いしばりつつも、何とか耐えるドクロ。
だが…その髪の毛は、ドクロの足を貫いただけでなく、貫通した先で地面に深く突き刺さって抜ける気配がない。
「お、おい…!大丈夫か!?」
テリーが彼女を助けようとするが…突然、体が重くなる。
(か、体が動かない…!?)
恐る恐る、女の方を見る。
仮面の目が…赤く光っていた。何かしらの魔術をかけたようだ。
クラナは皆の姿を見て、逃げも隠れもせず女へ立ち向かう。
「ち…ちくしょー!!」
彼女は深く踏み込み、ジェット機のごとく、後ろ足から加速し、女に飛び込む。
単純な飛び込みではない。真正面に見えない魔力の壁を展開し、反撃に備えていた。
そんな工夫も虚しく、女はまた、魔術を使う。仮面の目が、赤く光る。
クラナを守っていた魔力壁が、静かに消された。
大気に表れていた魔力特有の温度が消滅し、クラナの肉体だけが女に向かっていく。
工夫が消えた事で無鉄砲な攻撃となってしまう。女は軽く首を動かしてかわし、クラナの背中へ拳を叩きつける。
地面にめりこむ程に叩き込まれたクラナ。その小さな背中へ、女は容赦なく足を振り下ろし、踏みつける。
「ぐっ…や、ばい、かも…」
呻くクラナを片手で持ち上げ、顔面や腹部へ拳を叩きつける女。仮面に隠された表情は…笑っているのだろう。
「…クソッタレが…!それ以上、汚え手でクラナに触るんじゃねえ…」
Fの右腕…導狼の証が青く発光する。
だが、それすらも女には想定内だったらしい。
また仮面の目が光る。途端にFの全身が重くなる。
地面に引き込まれんばかりの重みが…。
(…重力まで操れるのかよ)
立ち上がろうとする意志とは正反対に、手が、膝が、地面に張り付いていく。
更に…動きを止められているだけではない。
「っ!!」
真上から響く轟音。
僅かに動く首を上にあげると…周囲の建物が、ゆっくり崩壊を始めているのが見える。
そしてその建物は、Fに向かって倒れてきている!
建物にかかる重力までもがコントロールされていた。
影に呑まれる。
体が動かない…。
そして、目の前には、尚も殴られ続け、口から血を流すクラナ…。
(やめろ…)
また新たな音が響いた。
今度は鋭い音だった。
頭上に閃光が走る。
(…!?)
崩れ落ちようとしていたビルが…真っ二つに裂けてしまった。
Fの左右に墜落する巨大なコンクリートの塊。黒ずんだ瓦礫が散り、僅かな破片が顔を軽く小突く。
Fの前に…紫の髪をなびかせながら…ラオンが降りてきた!
「ラオン…!!」
「今は何も話すな!集中するぞ!」
ラオンの声を合図にしたように、ラオンと共に現れた仲間達…葵、れな、れみが、Fの後ろから現れた!
葵はハンドガンにエネルギーを込め、緑の弾丸を発射!
その弾丸は女の頭部に命中すると、そのまま頭部を貫いた。
…が、女は微動だにせず、葵の方を見る。頭部の風穴は、すぐに塞がる。
葵はハンドガンを下ろし、女を深く睨む。
「これだけの力を放ってるんだもの。やっぱ、こんな程度で倒せる訳ないわね」
女はしばらくこちらを見つめると…両手を振り上げる。
すぐ後ろのドクロとテリーが、動き出す。
拘束魔力が解けたようだ。
ダメージ自体は通っている…。
今は何も話すな、というラオンの言葉を重んじて、二人は何も言わずに構えた。
地面が、様々な色に発光する。
赤、青、オレンジに緑…虐殺劇の直後とは思えぬ明るい色調の光。
不気味な魔術だった。
地面の光から…それぞれの色に合わせた光弾が出現し、飛んでくる。
「避けろ!!」
ラオンが我先にとばかりに赤い光弾をかわす。
次々に飛び交う無数の光弾。れなは自身に飛んできた黄色い光弾をかわそうとするが…。
「…えっ」
回避には確かに成功した。光弾の横を通り過ぎるように、彼女は確かに回避した。
が、光弾はかわされるや否や、唐突に速度をあげて突進してきた!
あまりの加速に、れなさえも対処できずに衝突、光弾は爆発し、れなを大きく吹き飛ばす。
背中から地面に叩き落され、痛みに歯を食いしばる。
「なんだ今の動き!?」
ふと、横を見ると、れみがオレンジの光弾をかわそうとしていた。しかし、かわそうとしたまさにその瞬間、光弾の表面に白い模様が出現する。
「なにこれ…!?」
訳も分からずかわすれみ。すると、光弾はれなにぶつかった時のように高速化、れみも避けられずに被弾した。
葵はピンクの光弾をかわそうとしていた。
そしてその時もまた、不思議な事が起きた。
光弾は突然葵から離れ、挑発するように上下左右に動く。
「…何なのこの光弾達」
葵はハンドガンを構え、撃ち抜こうとするが…やはり光弾は高速化し、葵にぶつかってくる。
ぶつかる前に必ず不可解な事が起き、そして回避不能な程の高速化。
今までの戦いの中でも特段理解が及ばぬ攻撃だった。どうやらそれぞれの光弾に[個性]があるらしい。
葵は次に飛んできた赤い光弾に警戒する。これはラオンが先程かわしていた…つまり、これだけは普通に回避できる。
…と考えていた矢先。
赤い光弾は、突然オレンジの光弾に変色した。
急いでハンドガンを構えたが、間に合わない。恐らく光弾を止めるのに攻撃する必要があるのであろう白い点々が出現、対処できず、また被弾した。
吹き飛ばされる葵。更にその軌道上に他の光弾もあり、それらにまでぶつかってしまった。
そして、そんな彼女に仮面の女は滑るように接近し…胸元へ拳を一撃叩きつける!
「ぐっ」
葵は、どこか無気力な声を発した後…目を閉じ、気を失う…。
「くそっ!!」
れみが光弾の隙間をかいくぐりながら女に近づこうとするが…そんな彼女の接近を感知したように光弾がれみ一人のもとへ集結、彼女を包囲した。
れながれみを助けようと手を伸ばすが…光弾は既に、れみに向かっていた。
全身に光弾が叩き込まれ、いくつもの爆発に巻き込まれるれみ!カラフルで目障りな爆発れみを隠し、更に女は回し蹴りをぶちかます。
れみも…膝をつき、気を失う。
「…れな!!ラオン!!」
ドクロが叫ぶなり、両手を女に向ける。
その手から放つ魔力波で、女の動きを固定してみせる。
固い鎖のように、見えない魔力が女を縛り付ける。はじめて明確な隙を晒させる事ができた。
更に…。
「大丈夫かーー!!」
けたましい声と共に、激しい足音を鳴らしながら現れたのは…粉砕男だった。
右手1本でドグリーン王を掴み、引きずりながら走ってきた。
「ドグリーン王の確保が優先だと思ってたが…葵とれみの力が急激に弱まるのを感じてな。すこしでも加勢が必要だと思ったんだ…!」
粉砕男が来てくれれば心強いが…彼は右手が塞がっている。
一気に畳み掛けるには、女が動けない今しかない。
「よし!!皆で一斉にやるぞー!!」
れな、粉砕男、ラオンにドクロ、テリー。
そして…。
「俺らもやるぞ…クラナ!」
Fとクラナ。
全員が同じタイミングで飛び出し、女に襲いかかる!無数の拳による拳圧が合わさりあい、円状の衝撃波が収束、女を挟み討ちにする。
…はずだった。
女は全員の顔をまともに見る事すらなく、ただ手を振り上げた。
たったそれだけで、彼女を中心に衝撃波が放たれる!!その衝撃波は、れな達が同時に巻き起こしたものを遥かに超える破壊力。
「ぐきゃあああ!!!」
全員が吹き飛ばされ、建物に叩きつけられる。
建物は倒壊、更に衝突時に放たれた更なる衝撃波で、周囲の建物までもが積み木の如く倒れていく。
コゴエザリアが揺れる。
女は、れな達の力が弱まるのを感じた。
「…」
そして…彼女は軽く着物を手で払い、埃を撒く。
肩の力を抜くように、両手をダラリと垂らす。人形のような不気味な挙動の数々…。周囲に散らばる鮮血が、余計に嫌悪のオーラを引き立てている。
彼女は軽く地を蹴り、離陸を開始した。
崩れた街並みが、ここからだとよく見える。
遥か遠方では、銃声や悲鳴が響いている。ワンダーズが気づかないうちに、また一つ戦争が起きていたのだ。
女はその方向を見据えると…右手をゆっくりと上げる。
手先に赤い光が集まり、何かが生成された、
…ライフルだ。
女は右手だけで大きな銃身を押さえている。
鋭い発砲音が、コゴエザリアを震わせた。
それも一発ではない。二発、三発、五発、八発、十二発。
とんでもない連射性。そして、正確さ。
戦争に夢中だった兵士達は、その狙撃で次々に倒れていく。
コゴエザリア兵はドグリーン兵に、ドグリーン兵はコゴエザリア兵に殺されたと思い込むだろう。実際は横から入ってきた部外者であるとも知らず…。
全員を射殺し終えると、女はライフルを消滅させた。
一気に静かになる。
「コゴエザリア、ほぼ全滅…ですね」
下の建物の隙間から、一人の大男が浮上してくる。
グルテ。この激しい戦争の中、器用に傍観席に座り続けていた男。
島が静まり返ったのに気付き、彼は主のもとへと現れたのだ。
「それにしても、あなたも飽きませんね。殺さなくていい者もいたでしょうに」
この女の前でも全くブレないその余裕。女は街を見たまま、沈黙を貫くばかり。
グルテはコゴエザリアの街を一通り見渡す。
戦争は…終わった。
少なくとも、一番激しい時間はもう過ぎた。
「あぁ、欲深い人間達…。物欲に留まらず、相手を殺す、という邪悪な欲望に踊らされるとは。しかしそれで良いのです。欲望の為、人間の性に抗わずに戦い続けた。立派な事です」




