雪に降り立つ邪悪
コゴエザリアとドグリーンの戦い…。
れな、ラオン、葵、れみ、粉砕男。五人が、戦争の中心部を押さえ込んでいるなか、ドクロとテリーは住民を避難させていた。
「早く逃げろ!俺達が守ってやる!」
「ひええええ!?!?骸骨が喋ってる!?」
「驚いてる場合か、さっさと港側に逃げろ!」
テリーが率先して、群がる住民達を集めていき、ドクロは周囲に敵がいないか監視する。
テリー…兄の姿は、普段ドクロにデレているあの姿と同一人物とは思えぬ程に、頼もしく見えた。
…と、ビルの陰から一つの人影が姿を現す。
ドグリーンの兵士だ。緑の鎧を着込んでおり、短剣を持っている。
「こんな所に住民が隠れてたか…。一人くらい生け捕りにして、陛下に何をしようとしていたのか聞き出してやる…」
彼は短剣片手に飛び出していく。
人間にしてはかなりの動きだったが…。
「何してんのよ!」
ドクロがそれを発見し、彼を突き飛ばし、地面にねじ伏せ、拘束した。動きが良くてもここまで殺意に満ちた動きをしては意味がない。
兵士はたまらず暴れるが、逃れられない。
「くっ…離せクソが!!クソゴミが!!殺すぞ!」
兵士は短剣でドクロを斬りつけようとするが…。
そんな彼目掛けて、何かが飛んできた。
それは…白い骨だった。硬い骨が短剣にぶつかり、刃をへし折る。
…テリーが、離れた距離から、魔力の骨を投げつけていた。
彼の空洞の目に、強い敵意が宿ってる。妹に手出しはさせまいという強烈な敵意…。
骸骨という異質な存在である事も相まって、兵士の目に映るテリーは威圧性の塊。たちまち兵士は縮こまり、動きを止めた。
まだ何かが現れるかもしれない。
ドクロは兵士を掴んだまま、周りを見渡す…。
その時だった。
ドクロ、テリーは、頭上から何かを感じ取る。
それは…強烈な魔力だった。
いや、強烈どころではない。
「…な、何よ、これ…」
ドクロは背中を丸め、息を荒くする。テリーも顔を歪め、骨の髄まで悪寒を感じ取る。
この二人が、この反応なのだ。人間達もただでは済まなかった。
ドクロの手元の兵士は、激しい動悸に見舞われた。
「えっ、ちょ、大丈夫…?」
ドクロが心配して力を緩めるも…兵士は彼女を突き飛ばし、折れた剣を構える。
「こ、殺すぞ…クソめ…」
「はあ、こんな時にも殺し合うつもり?」
少し気絶させようと、ドクロは軽く構えたが…。
直後、凄まじい風圧がその場に叩きつけられた。
暴風に殴られ、ドクロが近くの建物へぶつけられる。テリーは体の骨が飛ばされそうになるのを必死に堪え、不可視の魔力壁を展開し、人々を守る。
…しばらく風が吹き続けた。
そして…。
「…な、なんだあいつは…」
薄紫の、半透明の魔力壁。その向こうに佇む…一つの人影。
それは、赤い着物を着た女だった。
その顔は…仮面で隠されている。
「…誰?」
ドクロが、思わず間抜けな問いを漏らす。
仮面の女は何も言わず、ドクロとテリーを見渡す。
チラリ、と。
…そして、次に視線を移したのは…あのドグリーン兵だった。
折れた短剣を大事そうに構え、恐怖に引きつった彼に、女は一歩ずつ迫っていく。
「う…!く、来るなっ、クソ…!」
嫌なものを感じたのだろう。兵士は先程の華麗な動きを全く見せず、情けなく短剣を振り回す。
女は彼の前に立つと…。
その首を掴む。
右手一本で、物を掴むようなずさんな素振りで。
「ぎゃっ」
兵士はたまらず、女の腕に短剣を振り下ろす。
僅かに刺さる、折れた刃。
女は…微動だにしない。
彼女は左手で握り拳を握ると…それを、兵士の右手の先端へ打ち込んだ。
5本指、すべてに拳が当たる。嫌な音が響き…。
「ぎゃああああっっっ!!!」
…女は次に、兵士の肩に拳を打つ。
骨が砕ける音と同時に、兵士の右腕が完全に力を失う。激しく痺れるような苦痛が、兵士を苦しめる。鎧が意味をなさず、砕けていた。
女は兵士を地面に叩きつけ、今度は左足を掴む。
「や、やめろ!!」
ドクロが女に殴りかかろうとするが…。
…体が動かなくなる。
「えっ…!?」
彼女だけではない。テリーもまた、動けなくなっていた。その視線は女の方へ…いや、正確には兵士の方へ向けられたまま。
魔術をかけられていた…。
兵士は激痛にもがく暇も与えられず、地面に叩きつけられる。後ろ髪を掴まれて地面に何発も叩きつけられ、鼻血や折れた歯が、冷えた地面へ熱を与える。
「がっ…」
もはや言葉も出せない兵士の背中を女は踏みつけ、両足を掴み…。
…捻り折る。
膝が、真後ろに向けられた。
「あぐっ、がっ、がああっ」
「も、もうやめろ!!」
テリーが呟くが…。
後ろに折られた足が、今度は背中に丸ごと張り付くほどに折り曲げられ、もはや足の機能を成さなくなってしまう。あまりの激痛に兵士はとうとう気を失うが…。
女はここで、仮面の目に当たる部分から赤い光を放出した。
「…っ!?ぐがっ!!うああああ!!!!」
兵士の意識が戻り、痛みが戻る。
今のは、意識を取り戻させる魔術だ。わざわざ痛みを味合わせる為、意識を取り戻させたようだった。
苦しむ彼の顔を、女はしばらく見つめ…再び右手で彼を持ち上げ…。
顔面へ、拳を打ち込んだ。
何発も、何発も…。
血が肉に叩き込まれるような音。
曲のように、流れ続ける。
なるべく痛めつけ、なるべく多くの目に刻むように。
兵士が、目も当てられない状態になると。
女は、ゴミのように投げ捨てた。
しばらくの間踏みつけ続け、そして、蹴飛ばす。
「…っ!」
拘束が解けた。ドクロとテリーは、突然帰ってきた重力に体を引っ張られる。
攻撃してこい、という挑発のようにも感じられた…。
「…この野郎!!」
テリーは空中に魔力を集中し、無数の骨を召喚した。それらは浮遊してドクロの前に集まり、目眩ましのように彼女を守る。
ドクロは無数の骨に向けて手のひらを広げた。そして…自身もまた、魔力を集中する。
声も出さず、ドクロは手のひらから全力の魔波…紫と黒が入り交じった巨大な光弾を発射!
同時に今まで固まっていた骨達も散り散りになり、一本一本が異なる軌道を辿りながら女へと向かっていく。
光弾、骨…一つ一つが大気を震わせる攻撃が、一度に飛んでいく。女は逃げも隠れもせず、といった様子でそれらをただ見つめ…。
光弾が衝突、大爆発が発生した!
またもや暴風。先程の女が着陸した際の風で、もはや吹き飛ぶものは少なかった。
転がってる瓦礫、守られてる人々の身にこびりついた僅かなコンクリートの粉くらいだ。
…煙が晴れていく。
そこには…。
女の姿がなかった。
「なっ」
嫌なものを察知したテリーが振り返る。
…今まで守っていたコゴエザリアの民。
彼らの前に、女が移動していた。
「ぎゃああああ!!来るなぁぁぁぁぁ!!」
「や…やめろ…おい!た、助けろよ!お前ら!!」
一人の男性がドクロとテリーに目をやるが…次の瞬間。
女はその男の首に手を伸ばし、鷲掴みにする。
そして…首を引きちぎる。
血が飛び交い、人々は一気にパニックに陥った。逃げ出す彼らだが、女はそれを逃さず、瞬時に、次々へと殺戮を開始した。
腕を斬り落とし、足を引きちぎり、顔を引きはがし、体を貫き…。
女の肩が震えている。
…分かる。
この女、楽しんでいる。
「や、やめろ…!!」
ドクロが駆け出し、女へと向かう。
それを待っていたかのように、女は明らかに姿勢を変えた。
拳が握られている。
「待てドクロ!!」
テリーは骨を一本生成、ドクロ目掛けて発射し、彼女を突き飛ばす!
次の瞬間、女は拳を突き出した。
その拳圧は一直線上に伸び、正面の建物を貫き、地面をえぐり、煙を広げ…。
そして、軌道上に立っていた人間達を真っ二つに切り裂く。
…血の噴水は、遠くの方からでも容易に確認できた。島の端まで届いたらしい。
「凄い威力だ…」
女は拳を下ろす。
そして、動かなくなる。
こちらの出方を誘うように。…そのついでとばかりに、すぐ近くで怯えて動けなくなっていた女性を蹴飛ばし、転倒させ、頭を踏み潰した…。
隙あらば人殺しだ。
…今まで見た敵の中で、ここまで危険な相手はいなかったかもしれない。
「…お兄ちゃん、どうしよう」
思わず、ドクロは口にした。
頼りない発言である事は分かってる。だがこの相手はあまりに危険すぎる…仮面の女から放たれる、底知れぬ何かが、何もせずとも周囲を威圧しているのだ。
「…」
ついにテリーが黙りこんでしまう。
…が、諦めるのはまだ早かった。
「っ!」
女の邪気の隙間…遥か上空から、熱い闘志を感じた。
この力は…二人も散々感じ取ってきた、頼りがいのある…安心できる二つの力。
「…Fとクラナだ!」
コゴエザリアに飛び込む、青の光と桃色の光。
天高く昇る二つの白煙。
冷気が、瞬時に熱気へと変わる。
「…えらい事になってやがるな」
…Fとクラナが、目の前に現れた。




