ドグリーン機兵団
ドグリーン機兵団。
空を覆う鋼の軍団だった。
れなとれみ、グルテの戦闘の最中、突如現れたその軍団の物量は…まるではじめからその場にいたかのようなごく自然な様で、空を支配している。
「な、なんで?あんな沢山のやつら、今まで全く気づかなかった…」
上を見あげ続けるれなに、グルテは呆れた声で言う。
「当然ですよ。ドグリーンはテレポートの技術を開発しているのです。…かつてこのコゴエザリアを襲った血雪の戦い。あれも、ドグリーンのテレポートで不意打ちを受けたが故に、コゴエザリアの被害はあれほどのものになったのです」
それを聞き、れみが反応を見せた。
葵から聞いた事がある。
血雪の戦い…コゴエザリア最大の戦争と呼ばれる、雪が血で赤く染まったと言われる忌まわしき惨禍であると。
あの戦いにより、コゴエザリアは一部からは怨念の宿る雪が積もる地、とも言われているらしい。
グルテは続ける。
「ドグリーンの民が通信機で一声助けを呼べば、あれが出てくるのですよ。…例えば、王とか、がね」
王…。
ドグリーン王。
何人もの一般人を射殺していた、あの小太りの男。彼があれを引き寄せたというのか。
…だとすれば。
あのドローン達も、見境がないはず。
「れみ!!危ない!!」
れなは、れみを抱きかかえて飛行姿勢に移る。
…空中のドローンから、緑色の光線が発射された!いくつもの光の塊が連射され、寒冷地であるコゴエザリアの地面に熱を加えていく。
一斉に光線が発射され、激しい空襲が始まった。
家々が破壊され、見境なく瓦礫が散り、轟音が常に耳を通る。
コゴエザリアの大地そのものが困惑しているかのようだった。突然砕かれた平和に、まともな理由も明かされぬまま、命が脅かされる事に。
建物の向こう側から、悲鳴がつんざいた。
住人が一人射殺された…。
と考えるや否や、次の悲鳴が響く。次は建物の破壊音、そしてその中に混じりこむ悲鳴。
僅かに響く血の飛び散る音。
「やめさせないと!!!!」
れなが飛び出した。
まっすぐな正義感が、敵を止めようとしている。…が、その敵もまた正義感で動いているという事を考えると、何とも皮肉なぶつかりあいだ。
れなの拳が、一機のドローンを粉砕する。へしゃげたドローンは部品を吐き出し、地上へ墜落する。
れみも慌ててそれに続き、空中戦が繰り広げられる。光線をかわし、とにかく拳を叩き込み、一機たらずこの場から逃さない。
グルテは…両手を腰の後ろで組み、胸を張りながらそれを見守っていた。妨害する事もなく、まさしく観戦の二文字が何より似合う余裕の様で…。
その頃、街の中でも一際目立たぬ、入り組んだ住宅地にて。
塀に沿うように逃げ回る一人の男…ドグリーン王を、三人が追いかけていた。
ラオン、葵、粉砕男だ。
ドグリーン王は太った体で滑稽に走りゆくが、たとえ彼が理想的な体型だったとしても、この三人から逃れる事はできなかっただろう。
「待ちやがれ!あれだけぶち殺したくせに、逃げる気か!?」
ラオンが壁を蹴り、ドグリーン王へ急接近!彼の前に先回りし、ナイフを突きつける。
すかさずドグリーン王は後退るが、その背後から粉砕男の巨躯が立ちはだかり、ドグリーン王の背中を受け止めた。鉄のような筋肉の壁だった。
挟み撃ちにされたドグリーン王。容赦なく、彼の頭上から葵がハンドガンを突きつける。
撃つ気はない。が、これくらいのプレッシャーを与えておかねばならない。あんな簡単に人を撃てるようなやつなのだから。
「…王様?どういう事か説明してもらいましょうか。何故あんな事をしたのか。そして、あのドローン達は何なのか!」
空を指さす葵。そこに広がるドローン達は、今も尚建物を見境なく破壊している。
建物の破壊というより、人々を炙り出す事が目的のようだった。その証拠に、逃げる人々を優先的に撃ち抜いていってるように見える。
ドグリーン王は黙るばかり。目もそらし、細めている。これは…かなりの時間を無駄にする事になりそうだ。
葵はため息をつき、ラオンに言った。
「…仕方ないわ。ラオン!私達もドローンを破壊するわよ!」
ラオンと共に飛び出し、空中へ。一番力のある粉砕男はドグリーン王の拘束の為に残された。
今は尋問より、周りの命を守るのが先だ。
二人が高い高度へ到達する頃には、れな、れみは既に二十機以上ものドローンを殴り落とし続けていた。墜落したドローンがそこら中の建物にめり込んでいるが、住民達の被害も減ってくる。
「アタシらもやるぞ、葵!」
ナイフを構えたラオンは足先にエネルギーを集中…そして、高速で飛び出す。
まっすぐに連なるように並んでいたドローン達を、流れるように切り裂く!紫の閃光が走り、コゴエザリアの空が一瞬光る。それは、雷が地上を突いた時の光景とよく似ていた。
葵はハンドガンにエネルギーを込め、緑色に発光させた弾丸を発射、より強力になった鉛弾が、複数のドローンをまとめて撃ち抜く。
意志のないドローンだ。
感情があり、機敏な思考の下で動ける三人のアンドロイドの相手にはならなかった。
れみが、踏みつけるようにドローンへ蹴りを仕掛ける。
…気づけば、そいつが最後の一機だった。
「お掃除完了!」
子供らしい無邪気さで叫ぶれみ。
ようやく一息つけそうだ。あとはドグリーン王から情報を引き出すのみ…。
…と思われたのだが、ドグリーンは想像以上にしぶとい連中らしい。
突如、空間が光る。それは、先程ラオンが動いた際の先行とはまた異なるものだった。
緑色の光が、空間そのものに浸透するような…異様な光景が、一瞬広がる。
「…!?気を付けて!」
葵が即座に弾を装填する。長年の戦いの末に染み付いた戦いの勘が、体を勝手に動かすようだった。
ドローン達がいなくなった空が、何度か閃光を放つ。目障りな光に何度も見舞われ、四人は目を背ける…。
…そして。
光が一際強くなると…その中から、巨大なシルエットが現れた。
それは、円盤だった。
しかしただの円盤ではない。円盤から、鋼鉄の足と、鋏がくくりつけられたアームが生えている…。
円盤を頭部として、昆虫のような胴体まで生えており、機械で有機生命を再現したようなシルエットをしていた。
円盤には…窓がついている。その中に、何人かの人間が搭乗しているのが見える。
ドローンとは異なり、人間が直接操縦しているようだ。この人間もまた、ドグリーンの[勇者]なのだろう。
人間達は有無をも言わさず、レバーを押し倒す。すると、その円盤…ロボットは、アームを振り下ろしてくる!
単純な攻撃、そして明確な敵意を持っていた事もあり、簡単にかわす事ができた。とはいえ、その勢いは凄まじく、四人の髪が激しく揺さぶられる。
そして、この攻撃の真価はここからだった。
アームが叩きつけられた地点が、エメラルド色に光っているのだ。
それを見て、葵が叫ぶ。
「皆!あそこから離れて!!」
咄嗟にその場から離れる四人。
光っていた地点から…一本の光の柱が放たれた。それは天を突く高さでありながら瞬時に出現し、コゴエザリアの大地に聳える。
あのアームには、魔力が備えられているのだろう。その魔力を地面に注ぎ込み、あのように柱を出現させ、敵を真下から焼き払う…二段攻撃だった。
ならば狙うのは一つ。あのアームだ。
れなは空中で一回転し、アームに拳を向ける。弓を引き絞るように、彼女は腕を振りかぶり、目線を集中する。
見えない壁…大気を蹴った。
暴風に髪を揺るがしながら、彼女はアームへと飛んでいく。アームは彼女を殴り落とそうと振り下ろされるが、所詮操作しているのは人間だ。その動き方など手に取るように分かる。
「おらっ!!」
彼女の拳が、アームの関節部にぶつかる。
緑の稲妻を放ちながら、アームは一気にぎこちない動きとなる。
操縦席の兵士達が慌てる声がここまで聞こえてきた。
「くそがっ!!」
機械に握り拳を叩きつける。
次にれみがロボットの顔面…円盤部分の側面へと回り込み、蹴りを打ち込む。
ロボットの全身が揺らめく。たまらず片方のアームを地面に叩きつけ、またあの光を発生させる。だがもはやこのトリックは見破られている。
葵は光る地面に狙いを定め、発砲した。弾丸が、魔力を帯びた地面を刺激し…光の柱を放出する。
弾丸の角度、魔力の溜まり具合を全て瞬時に見切った一発だった。的確な判断のもとで放たれたその銃撃。結果は…。
「ぐあああ!?」
兵士達の叫びが鮮明に聞こえてきた。
地面から放たれた光線は…ロボットの装甲に直撃した。エメラルドの柱が、丹精込めて作られたであろう装甲をいとも容易く破壊する。
部品が飛び、屋根に突き刺さる。ロボットは必死にバランスをとろうと左右に揺れ動くが…追い打ちとして、ラオンがその足に斬りかかる!
ついにロボットはその巨躯を支えきれなくなり、派手に転倒。冷気を纏う砂煙が高く舞い上がる。それは、度重なるダメージで熱を帯びていたロボットを瞬時に冷やす。
ドグリーンの科学の軍は、たった四人のアンドロイドにあっさりと鎮圧された。
最大の敵と思われたロボットが現れたにも関わらず、ロボット出現後は一人の犠牲も出ていなかった。
場違いな拍手が僅かに聞こえる。グルテのものだろう…。
…が、これでも尚…。
戦争は終わらない。
「クソロボットが倒れたぞ!」
豪快な声が乱入する。
歩道を駆け抜ける、無数の人影が見えた。
それは…無数の兵士たち。青い鎧を纏い、銃や弓矢、槍を持っている。
コゴエザリアの兵士達だ。城での非常事態で出動が遅れていたらしい。
彼らだけではない。
反対方向へ目をやると…そこからはエメラルドの鎧を纏った兵士が群れを成している。
二つの軍団が、互いに迫り合っている。四人はいつの間にか、その間に挟まれていた。
「ああっ!しつこいんだよ!!もうやめろ!」
ラオンが叫び、彼らを止めようと、ナイフを握る手に力を込める。折角あのドローン達から人間を守ったと言うのに、今度は生身での殺し合いと来た。
一人のコゴエザリア兵がドグリーン兵目掛けて矢を放つ。鋭い矢はドグリーン兵の鎧に刺さるなり、鎧ごと体を氷漬けにした。
コゴエザリアの魔力で作り出された氷の矢だ。
氷像と化したドグリーン兵に、他の兵士が銃撃を仕掛ける。耳障りな銃声と共に、氷像は粉々になり、血しぶきが噴き出す。
兵士達は引き合い、それぞれの手段で殺し合いを始める。
槍で胸を貫き、銃で頭を撃ち抜く。
激しい戦闘で武器を落とせば相手の首へ両手を突き出して絞め上げ、顔面を何発も殴りつけ、倒れた敵の頭部を踏みつけ、意味もなく唾を吐き捨てる。壁に叩きつけては急所を殴り、槍で貫く。既に命を落とした遺体に何発も槍を突き入れ、無駄な血をまき散らす。
コゴエザリア兵は民を殺され、ドグリーン兵は王を危機に晒された。
それぞれの動機が、身を動かす太い糸となって、その命を散らす。
「このクソ野郎、ゲロどもが!!死ね死ねっ!!!クズどもが!死ね!!!」
「死ねっ死ねっ!!死ねええ!!」
敵兵のみならず、倒れた味方の遺体すらも踏みつけながら殺し合う。
「やめろ馬鹿どもおおお!!!!」
れなの壮絶な叫び。
ワンダーズが、地上へと飛び込む!




