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血雪の戦い

ワンダーズは、揃い揃って飛翔していた。


その日、街の上空を飛んでいた彼らに課せられた使命…それは、かつてない程に重大な任務だった。


ある時、事務所に届いた一つの依頼。

それは、コゴエザリア国の戦士からのものだった。

その手紙の色は赤い。緊急事態の際に用いられる、特急便の物だった。


コゴエザリアにて…大規模な混乱が起きているらしい。



「コゴエザリアって、特に特徴ない国だよな!?何があったんだ…!?」

ラオンが空中で、早口で発する。

粉砕男がそれに返答する。

「分からん。だがどんな国にも不測の事態は発生する。とにかく向かうしかないぞ」

既にテクニカルシティから離れた山岳地帯の上を飛んでいる。ここからコゴエザリアまで、そう遠くない。

どういう状況なのか、詳細は明かされていない。気軽な何でも屋であるワンダーズだ。詳細を伝えずとも、こうして出撃してくれる。


状況を書けないほどに、切迫した状況になっている事には違いない…。


ワンダーズの飛行速度は凄まじく速い。単に国境を超えるだけなら五分もかからない。

次第に海に出て、遠方に一つの島が見えてくる。その島は、青い建物が多く立ち並び、所々小規模な氷山が細かく立ち並んでいる。

あれがコゴエザリア…。北の氷の国。

目標を前に、れなが一気に加速する。

「うおおおお早く行くぞ〜〜!!」

大気を蹴る姉に、れみが慌てて続く。

「ま、待てや!!姉貴いいいい!!」

やれやれと、皆も加速しようとしたその時。


遥か遠方へ進んだれなが、突然悲鳴を上げた!


「ぎゃあーー!!!な、何だこれは…!?」




…悲鳴をあげるのも無理はない。

コゴエザリアの港。本来は海外からの客人を迎え入れるコゴエザリアの入り口。

氷海の上、何台かの船が既に停められており、仕事を待ち望んで帆を揺らしているところだった。


…そんな健気な船に、無数の人々が慌てた様子で❝集っていた。

「おい!頼む乗せてくれ!!」

そんな声が、鋭くこだます。彼らの後ろには…血濡れた遺体が、無数に、無造作に転がっている。そして、その遺体を蹴飛ばしながら近づくのは…。

緑の短髪、チョビ髭、小太りな体型の男…。

見るからに裕福そうな外見であるが、その顔は生気を失ったように無表情だ。何より、その片手には…銃が握られている。

彼は銃を構え…何の躊躇もなく、群がっていた人々へ弾丸を放った。

糸のように、血がまっすぐ散る。

一人一人を、順番に射殺していく。その射撃の腕は異様に高く、まるで順序立てられた動画のごとく、あまりに整った…虐殺劇。

更に放たれる弾丸。また新たな犠牲者が出ようとしていた。


が、その弾は…何かに弾かれた。


「…葵!!」

ワンダーズ1の銃使い、葵がハンドガンを構えていた。

弾丸に弾丸を当てていたのだ。

ここで、ようやくその男はこちらの存在に気づいたらしい。銃を向け、葵を撃ち抜こうとしてくる!

が、銃は葵にとって最大の得意分野。彼女は飛んでくる弾丸に向かって発砲し、相殺していく。

次々に放たれる弾丸を正確に見据えながら、彼女は一瞬で、ある弾丸を装填した。

それは…硬度に重視した、貴重な強装弾。装填が終わるなり、彼女は発砲する。

これまでは相殺し、砕け合っていた弾が、相手の弾を破壊しながら進んでいく。

そして…地面に衝突。男の足元の地面が、不快な音と同時に大きくひび割れた。

すると、彼は一気に青ざめた。自身の眼下に弾が落ちた事で、戦場の気質に圧されたのだろうか。あれだけ正確な銃さばきの割には、臆病な素人の様子。

彼はたちまち逃げ出し、建物の裏へと隠れる。


そして…おもむろに何かを取り出した。

それは、小型の機械…片手で握れるくらいの、小さな機械だった。

彼はその機械に向かって呟いた。その声は小さくも、空中にいるれな達にもはっきりと聞こえる、芯の鋭い声。

「…私だ!ドグリーン機兵団はまだか!?早くこちらによこせ!」

ドグリーン…その名を聞き、テリーがようやく彼の正体を確信した。

「…そうか、彼はドグリーン王だ。正真正銘の、ドグリーン国の王…!」

それに反応したのはドクロ。赤い目に疑問を浮かべ、兄に詰め寄る。

「え?王…?何で王様がこんな所にいて、人を撃ち殺してんの!?」

「分からねえ。でも…多分…」

彼は一瞬黙り、そして発した。


「…戦争が起きようとしている」






コゴエザリアの広場にて。

そこでは、また一つの虐殺劇が繰り広げられていた。


顔の左半分を機械化された大男が、コゴエザリア兵士達と闘っている。兵士達は槍で攻撃を仕掛けるが、全て弾かれ、すかさず放たれた弾丸で撃ち抜かれていく。

その男…グルテが使う銃は、異様な高性能。兵士達の鎧が意味を成さず、一発で破片を散らし、そして鮮血を散らす。

周囲の建物に返り血が飛び交い、一般人が逃げ、転倒し、腰を抜かす。そんな彼らにさえ、グルテは発砲し、的確に仕留めていく…。

絵に描いたような虐殺に、一人の兵士が震えながらも問う。

「…貴様、何が目的だ…」

グルテは、右目だけで兵士を見据える。その震えを感じ取り、面白がるように笑い、無情な答えを出してみせた。

「我らがドグリーン陛下が決められたのですよ。もうこのコゴエザリアには愛想を尽かしたと。貴国の制度や思想に長年付き合ってきましたが、もう付き合いきれないと…」

「何だと…!?そんな訳あるか!だって、両陛下はこれまでも」

兵士は…震える足を引きずるように、グルテに正面から突撃する。グルテは、わざとすぐには発砲せず、兵士の出方を楽しむように、その槍をかわしてみせる。表情は変えず、軽く体を傾けるだけ…余裕を見せつける事で、兵士の焦燥を煽るように。

「愚かな考えですね。仲良しこよしで政治が成り立つとお思いで?私達は人間です。…全てを決めるのは、権力者のエゴなのですよ!」

飽きた彼は、兵士の頭部に銃を突きつける。



だが、グルテの目の前から、兵士は瞬時に姿を消した。


「…ふむ」

兵士は…黄色いツインテールの少女二人に助けられていた。

…れなは、鎧を纏う兵士を軽々と抱きかかえ、彼を覗き込む。

「怪我、ない?なかったら、さっさと逃げろ!!」

有無をも言わさず、彼女は兵士を近くの建物の向こう側へと投げ飛ばした。

鎧が落ちる音、そしてそそくさと逃げていく足音。それらを聞き終えると、れなは拳を握り…グルテの向かい合う。

れなの横では、妹のれみが、険しい顔をしていた。目の前のグルテ…彼は、明らかに普通の人間ではない。

機械化されたパーツもそうだが、その表情は、積年の年季を感じさせ、それでいて強い悪意を感じさせる…歪みきった笑み。


「はじめまして、お二人とも。私はグルテと申します。お二人は、れなさんとれみさんですね」

「え?何でアタシらの名前知ってるの?」

れながとぼけた顔で首を傾げた。拳はそのままだが、間抜けな顔を敵に晒す姉の姿に、れみは額に手をやる。

しかし、その疑問はれみも同じだ。警戒しつつ、聞き直す。

「私達、どこかで会ったっけ」

「いやあ、訳あって貴方がたを知ってるのですよ。まあそんな事は良いじゃございませんか」

グルテは銃を取り出し、姉妹に向ける。分かってはいたが、やはり敵だ。


「貴方がた、どうせコゴエザリアを救いに来たのでしょう?そうはさせません。何故なら私はドグリーン陛下より、コゴエザリアを滅ぼすように命じられているのでね…」

「なんで、そんな事をする…!?」

れなの足に力がこもるのを、グルテは見逃さない。


グルテは…発砲した。

姉妹は同時に動き、かわす。弾丸が建物の青い外壁にぶつかり、小型の破片が散る。

れなはグルテに真っ直ぐ向かい、飛び回し蹴りを繰り出す!宙を舞うように飛んでくる足を、グルテは機械の左腕で器用に受け止め、右手の拳をれなに突き出す!

空中でバランスを変えて、れなはそれをかわす。姉の華麗な姿を見上げ、れみも即座にグルテに向かっていき、彼の足を突き飛ばす。

れみの小さな体格に合わない力に驚いた事もあって、グルテは転倒しかけるが、即座に手を地面に突いて重心を整えた。

そんなアンバランスな姿勢でありながら、彼はまたもや銃を構えて撃ってくる!

れみはかわすが、足に僅かに弾がかする。鈍痛が足先を突き、逆にれみがバランスを崩す。それを見たれなが何かを言う暇もなく滑り込み、妹を抱き上げて彼女をグルテから離す。


「なかなか速いじゃございませんか」

今度はグルテの方から向かい、またもやれなに拳を突き出す!

が、れなは肉弾戦が大の得意だ。これには負けてられない。

彼女はグルテの太い腕をものともせず、真横に受け流し、軽く飛び跳ね、グルテの肘目掛けて膝蹴りを炸裂させた。

関節を反対方向から強く打たれる痛み…百年以上生きているグルテにも痛いものは痛い。笑みを見せながらも明らかな苦痛を感じさせる表情を見せた。

腕を押さえながら後ずさるグルテに、追撃に更なる蹴りを仕掛けるれな。グルテは後方へ大きく飛ばされ、コンクリートに足を踏みしめる。

ここでれみが小さな身体で飛び込み、蹴りを仕掛ける!グルテのバランスを崩していたおかげで、今度はあっさりと命中した。

蹴りの勢いで空中へ跳ね返るれみ。彼女の横にれなも並び…。

『くらえ!!』

同時に衝突する衝撃。グルテはさらに吹き飛ばされ、背後の建物へと派手に衝突した。背中から押し上げる不快感と痛み。


グルテは、その感覚にすら笑みを見せた。よろめきながらも、その目線はしっかりと姉妹を見据えている。

「やはり強い…。ですが、もう少し周りを見たほうが良いですよ?」

「この期に及んで挑発か!?この野郎、クソ野郎、カスバカ阿呆め!!」

れみが足をばたつかせながらグルテに指をさす。


…が、そこでれみに制止をかけたのが、れなの一言だ。


「…ねえ、れみ。何か飛んでるよ?」

その声はあくまで冷静。しかし…状況は異様だった。



れみが、言われるがままに顔を上げる。




「…え、何あれ」



飛んでいたのは…緑のドローンだった。

それも一台、二台ではなく…何十、下手すれば何百もあらんばかりのドローンが、空を行進していた。



グルテだけは、それを見ても動じない。いや、むしろ誇らしげに、両手を広げた。


「…来たようですね。彼らはドグリーン機兵団。ドグリーン国が誇る勇者達ですよ。このコゴエザリアを滅ぼすべく、ここに集結したのです」

戦争が、いよいよ本格化しようとしていた。




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