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森の破壊者

アンドロイド姉妹、れなとれみ。彼女らはある場所に立っていた。


そこは、彼女らの仲間…以前研究所で会話を交わしたドクロとテリーを始めとした戦士達が集う場所。テクニカルシティの中でも目立たない住宅地にひっそり…というよりも、しれっと佇む簡素な二階建ての建物、通称「事務所」。


ここもまた、無難な一般家庭のような作りになっている。

ソファーにテーブル、テレビ、観葉植物…過ごしやすさを重視し、科学の街とは思えぬ内観。れな達の憩いの場だ。


そして、この事務所を作り上げたのは…。

「やあ、二人とも」


大きな手を振り上げたその男…訳あって〔粉砕男〕と呼ばれる存在。

身長は2メートルを超えており、れな達を見下ろしている。色黒の肌が厳つく逞しい。

人間そっくりだが、やはり彼も人間ではない。粉砕男という名前が示しているように、彼はいわゆる怪人…人工生命体だ。

「待ってたぞ。早速依頼が来たんだ。皆で読もうぜ」

姉妹は彼を見上げ、頷く。事務所内へ足を運び、木製の香りが心を落ち着かせる。


事務所内のリビング。ここは最も仲間達が集合してくる部屋。

早速、れなの仲間達は一つのテーブルを取り囲んで神妙な面持ちを見せていた。


紫の長髪の少女が、ソファーの後ろに腕を垂らしながられなとれみを見る。

「遅えぞ。何してたんだ」

「やー、ごめん!朝ね、ニュースのアナウンサーがイケメンすぎて夢中になってて…遅れちゃった!」

ったく、とため息をついた紫髪の彼女の名はラオン。彼女はれな姉妹のいわば同志とでも言うべき存在…アンドロイド。ラオンの横では緑のサイドテールヘアーを大きく揺らす、少し大人びた女が腰掛けている。

荒々しい雰囲気のラオンとは対照的。彼女はにこやかに笑い、ラオンを軽くなだめる。


穏やかな…アンドロイドだ。


「まあまあ。確かに朝のアナウンサーの人かっこいいし、仕方ないわよ」

「アタシはそのアナウンサーを知らねえから納得いかんっ」

腕を組むラオン。

その向かい側で、ドクロは目を細めながら言った。

「前置きが長すぎる…早く話しましょーよ」




この事務所では、テクニカルシティをはじめとした様々な街から様々な依頼が届く。

彼ら、人呼んで〔ワンダーズ〕。人々から来る多種多様な依頼をこなしているいわば何でも屋だ。

モンスターと呼ばれる生き物との戦いを始め、特定のエリアの調査、悪霊退治、草むしり、料理、洗濯…。

何でも屋にしたせいで少々多忙になる事もあれど、生き甲斐でもある。

さて、今回彼等の元に辿り着いた依頼は…。


「またこのパターンか…」

…愉快な依頼も多いものの、今回なようなものもやってくる。そしてこれが来ると、当然気が滅入る。


…人間の身勝手な行い。


今回は…自然破壊を止めてほしいという依頼。人間が生きている限り、もはや無くならないのかもしれない。

場所はここより西に存在する名も無き森。規模は狭く、誰も寄り付く事はない場所らしい。しかしそれに味を占めたのか、近隣の住人は森林伐採を開始した。

森林伐採は決して悪行などではない。むしろ暮らしを作り上げる工程作業の一つであり、人を支える善行そのものだ。


が、今回の森林伐採は違う…必要ない量の木々を伐採し、必要ない量の犠牲を出しているのだ。動物たちは住む場を追われ、土壌は干からび、周囲の人々も木々が折れゆく音に耳を塞いでいる。

「よし。アタシが行こうかな。あと他に行けそうな人、いる?」

れなが立ち上がり、一通り見渡す。仲間達はソワソワと互いを見やりあい、そして…。


「私が行くわ」

葵が名乗りを上げる。サイドテールヘアーは大きく揺れ、隣のラオンの顔に被さった…。



二人は事務所の玄関から外に出る。

陽光は、部屋の電気とはまた違う種の安心感を与えてくれる。等しく、平等に街を照らし、人々を無意識の中で安心させる。

が…れな達の心境は穏やかではなかった。これから向かうのは、恐らく…頑固な人間の元なのだから。

二人は靴底の爪先で、コンクリートの地面を軽く蹴り上げる。すると二人の体が…スイッ、と空中に浮き上がる。

二人は戦士であり、そしてアンドロイド。このように空を飛ぶ事だってできるのだ。

目指すは西の森。



テクニカルシティの景観が離れていく。

地上の人々は、空を飛ぶ二人の少女を見上げるが、すぐに自分達の作業へ戻る。不思議な存在が根付くこの世界では、もはや空飛ぶ少女など地上を歩く人々とほぼ同等の存在なのだ。

いちいち気にしてられない、とばかりに歩きだし、スマートフォンを取り出し、店の看板を見上げ、同行者と並び…異なる動きを見せる人々。

これから会う事になるであろう人間に備えるように、れなと葵は平和な人々の姿を目に焼き付けた。

「皆、忙しそうだねえ」

れならしい、陽気な声だった。




しばらく飛び進んでいくと…次第に自然物が地上を覆い始める。黄色とも茶色ともとれる大地。その少し先に見える目的地の森。どこか遠慮がちに見える狭さだった。

「なんか狭いわね?」

葵が首を傾げ、急降下。慌ててれなもそれに続く。

葵の声は澄んでいて、大人びている。故に、今の何気ない一言もどこか品を感じさせた。


木々が近づいてくる…。



そして。



「よし、着地成功だねぇ」

森に降り立つ二人。

静かな森だった。風の音が透明感を保ちながら二人の耳を通り、人工知能へと浸透する。大気が澄んでいるのが分かる。花もそれなりに咲き乱れ、緑の草がクッションのように生い茂り…。


…自然観光の気分に浸ってる場合ではないようだった。

「れな。今の聞こえた?」

「え?なに?」

れなはわざとらしく耳に手を添える。葵は彼女の手を引き、ある方向へと駆けだす。



狭い森だ。少し走ればすぐに地形が変化し、でこぼこ道が多くなる。そして何より…植物の量が少なくなってきた。

呑気なれなも表情を引き締める。景観から、何が起きてるのかすぐに理解できた。

自然が壊されている。




そして。


「…あれは」

葵は目を細めた。

視界の先に見えるのは…巨大なロボットだった。

黄金の装甲に、右腕が鋏になっており、左腕は籠になっている。四本の足で重い体を支え込んでおり、重量感溢れるそのフォルムからは考えられない程素早く、効率的に森林破壊をしている。

そう、森林破壊。木々をへし折り、地面に荒々しく足跡を残していく様は、丁寧な伐採とは程遠い。素人だろうか?

「おい!」

れなが駆け出す。ロボットの前に堂々と立ち塞がり、動きを止めさせてみせた。

ロボットはギクシャクとした挙動、れなは実に滑らかな動き。同じロボット同士でもこうも動きが違うのか。

「…っ!何だガキ!!いきなり目の前に出るんじゃねえ!」

ロボットから怒号が響く。運転手は気が荒れているようだ。れなは負けじと大声を投げかける。

「聞いたぞ!必要ない分の木も切ってるみたいだな!これ以上森林を壊すならアタシが相手になるぞ!」

次々に言葉を吐き出していくれなに、慌てて葵が駆け寄った。彼女に制止をかけ、後に続くようにロボットに声をかける。

「いきなりごめんなさい…!でも、あなたが森林を壊しすぎていると依頼が来ているんです。この辺で止めてくれないでしょうか!?」

丁寧に、しかし早口で問いかける。


ロボット…及び運転手はしばらくの間黙りこんだ。


…そして、ロボットの鋏部分を振り上げる。

「え」

葵とれなは軽く抱き合う。


そして…鋏が振り下ろされた!

「どええええ!?」

土砂と草が悲鳴をあげる。二人は地面を転がり、その一撃を何とか回避、驚いた目のままロボットへ視線を当てる。

顔も見えない運転手だが、その声は二人を嘲笑ってる事がよく分かる。

「お前ら何も分かってないな。これは未来の為だ。未来の人類の為に今のうちに取れるもんを取っておいてるのさ。目の前にある必要な物は全て回収する。それが俺の理念だ」

つまりこいつは後から取っておくという事をしないのだ。れなは呆れたようにスカートを両手で軽くはたき、土埃を落とす。

両手を構え、膝を曲げ…戦闘姿勢をとってみせた。

「そっちが暴力振るうなら…こっちも拳で対抗するのみだ!」

そう言いつつも、れなの目は笑ってる。頭を使うのが苦手な彼女だが、戦場ではただ拳を振るうだけで良い…戦いは好きな方だった。

ロボットは更にもう一発鋏を振り下ろそうとしてくる。

れなは地を蹴って飛び出す。彼女の足はロボットとは違い、自然を傷つける事なく軽やかに飛び出していた。一気に距離を詰め、ロボットの鋏に拳を叩き込む。

その一撃で、鋏は青い稲妻を散らしながらショートし、開閉ができなくなってしまう。この攻撃で、れなは人間ではない事を運転手は確信したようだ。そして、その隣の葵も…。


乾いた音が響く。

葵は、隠し持っていたハンドガンでロボットの関節部分に弾を撃ち込んだ!

ここを撃たれた事でロボットの損傷は加速する。腕は完全に使い物にならなくなり、足をも曲げる。

「思ってたよりボロいな!」

次は運転席を狙い、れなはロボットの頭部と思われる部分へと飛び上がる。

が…運転手はすかさずロボットの籠部分を振り上げ始めた!

籠はハンマーのように機能し、れな目掛けて振るわれ…彼女を叩きつける!

「れなっ!」

葵が叫んだ間に、れなは近くの木に叩きつけられ、そのままへし折ってしまう。

自然破壊の一環として利用されてしまった気分だ。地面に落ちたれなは拳を握り、ロボットに向けた。

「こ、このアホロボットめ!」

彼女は駆け出した。

どうやらこのロボット、及び運転手は、れなを怒らせたようだ。

彼女は今までも多くの戦いを乗り越えてきた。戦いの技術ならば誰にも負けない程の自信があった。

そんな彼女にとって、こんな程度のロボット…もはや相手ではない!

「よくもぶっ飛ばしたなー!!」

飛び上がり、回転し、後ろ回し蹴りを仕掛ける!ロボットは籠を構えて防御しようとしたが、今度ばかりは防げなかった。

籠は瞬時にバラバラになり、破片が運転席に通じてる窓へと降り注ぐ。運転手の慌てた声が聞こえてきた。

葵はロボットの足に発砲し、更に動きを封印する。完全に停止したところへ、れなは両手を揃え、思い切り叩きつけた!

ガシャン、と音を立て…窓はバラバラに砕け散ってしまう。中から現れたのは、無精髭の男。

れなは彼の襟首を掴み、片手で引きずり出した。



  

その後。



「…けっ、アンドロイドか。どうりで理解がない訳だ」



男は膝をつきつつも、嫌味を吐いていた。

れなは彼を睨みつけながら続ける。

「無駄な自然破壊、そして私達への暴行!お前は逮捕して罰金一億万円だ!」

「れな、あんたちょっと黙ってなさい」

葵はれなの肩を掴んで動きを止める。怒るれなだが、地団駄を踏みながらも黙ってくれる。

「あんたねえ、私達だけじゃないのよ。あんたがこうして自然を壊すせいで多くの動物も迷惑してるの。自分の行いの規模を理解しなさいよ」

男はそれでもこちらを強く睨んでくる。説教される筋合いなどないとばかりに。

彼はあくまで森林伐採をしていたつもりなのだからタチが悪い。自然破壊などしていない、自分は未来の為にこうして材木を集めていたのだと。

他者、及び他生物の未来になど目もくれずに。

「お前らに説教される筋合いなんてねえよ。俺は皆の為に動いてたんだ。誰も分かってねえな。今のうちに多くの物を得て、すぐに役立てる。それが上手い生き方ってもんなのによ」



それからも同じ様なやり取りが続いた。男は一向に譲らず、結局オウム返しが繰り返された。最早話にならず、そのまま男は駆けつけた警察一行によって連行されていった。


結局、森林は壊されたまま。犯人も間違いに気づく事なく、むしろ己の正義を一方的に語り続けながら連行されていった。


「あーあ…何だか胸糞悪いなー」

折れた木々を見渡しながら、れなは深くため息をついた。葵もまた、ハンドガンを軽く整備しながら頷く。


ともかく、騒動自体は落ち着いた。

あの様子では反省する事もないだろうが、止められただけ良いだろう。


寂しげな風が吹き抜ける中、二人の戦士は森を去っていった。

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