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尋問

森林のライフル魔こと、あの男は、ガンデル、サイバーサによって取り調べを受けていた。

切り株と岩で机と椅子を模し、即席の取り調べ室を作り上げる。周囲にはカエルゾンビ達が配置され、乱入者への対策はバッチリだ。

ガンデルと男が、切り株を中心に、座り心地最悪な[椅子]に腰掛けて話し合っている。

男は…予想していた通りの事を口走る。

「俺はな!森に居座る危険なモンスターを退治していただけだ!俺は悪くねえ!」

突き出される男の顔。

ガンデルは実に不愉快そうに背中を反らし、左手で宙を扇ぎながら、独り言のようにこう続けた。

「あー…不愉快なやつだね。人間なんて大人しく僕ら闇姫軍の悪行を傍観してれば良いのにさ。何でこんな余計な事するかなあ。あ、馬鹿だからか」

「何だとこのクソガエルが!!」

切り株に拳を振り下ろす男。唾が飛び、ガンデルの中の不愉快ゲージはマックスに振り切られる。隣のサイバーサすら呆れきっている。

こんなやつの相手は手早く済ませよう…ガンデルは切り株に肘をつき、無愛想を形にしたような態度で聞き取りだす。

「君、変な組織と関わってない?」

「変な組織?知らねーよクソバカが。これは俺の独断だ。俺が一人で考え、一人で実行に移した。平和を守る為にな…?」

今度はゆっくりと覗き込む男。ガンデルの顔は、あくまで無表情だ。

こいつは、闇姫軍全体で調べている怪しげな人間の組織とは関係ないらしい。

ならば、用はない。適当に拉致して軍の労働力にでもしようかと考えたが…。



「クァァッ!!」

湿ったうめき声。

カエルゾンビの鳴き声だ。サイバーサが真っ先に向かい、鳴いている個体に駆け寄る。

「ど、どうした!?なんだその声!?吐きそうなのか!?エチケット袋いるか!?」

慌てふためくサイバーサ。カエルゾンビは何かに威嚇しているようだった。

唸っている先を見てみると…。


茂みを足で散らしながら、ガクガクと震える一人の女がいた。

恐らく歳は三十代程だろう。白い服を着ており、どこか科学者じみた格好…。

カエルゾンビの威嚇に完全に怯えている。その目、その仕草、そして漏れる震え声…。

明らかに普通の人間のものだった。

感じられる力にも、特別な魔力はない。

ただただ、普通。

(普通の人間…。ま、まさか…!)

サイバーサは確信した。


こいつこそ、闇姫軍が探索している組織の人間だ。

「お、お前…!」

サイバーサは鋏を向け、カエルゾンビと共に威嚇してみせる。人間は震えながらも、独り言を呟いた。

「な、何でこんなやつらがいるの…!?あのライフル野郎を仲間に引き入れようとしてたのに!」

「仲間に…?…とりあえず」

サイバーサの姿が、女の視界から消える。



…瞬時に背後をとっていた。女の震えが止まり、その首元に鋏が添えられる。

「お前も取り調べだな」





その頃…。



「ああ、やっと帰ってきたっ!」

テクニカルシティの目立たぬ施設…ワンダーズの事務所。


Fとクラナが、草まみれになってようやく帰還した。

山の依頼に向かったきり、しばらく音沙汰が無かった彼ら。凄惨な事件をその目にしてきたとは思えぬ程、整った足取りだった。

「やっと帰れたよぉーーーー!!!」

クラナは泥だらけのままれなに抱きつき、そしてれなはそれを気にせずクラナを抱きしめてあげる。

姉の姿を横目に、れみが前に出て、Fを見上げた。

「一体何があったの?」


Fは説明した。

一から全てを…。


あの女の事を中心に。


それを聞くワンダーズの視線は、いつになく神妙そのもの。れみが大きく頷きながら相槌を打ち、話のテンポを保っていた。

森林へ飛ばされた事、サイバーサと出会った事。

そこらで話は一度ストップした。


「なるほど…」

椅子に座ったまま、葵が呟く。


仮面の女、そいつが何かを企んでいるのは間違いないだろう。

もしかしたら、れなが以前遭遇したあの人間…普通の人間でありながら怪しい魔術を使ったやつも、その女と関係があるのかもしれない。

ともかく、危険な存在である事は間違いない。何せ、Fとクラナを…瞬殺なのだから。


同時刻。


ガンデル、サイバーサの前には、新たにもう一人、人間が座り込んでいた。

「サイバーサ、よくやったねえ。こいつは確かに良い証人になりそうだよ」

「が、ガンデル様に褒められた…」

忙しなく、小刻みに足を揺らして独特な喜び方をするサイバーサ。

とにかく、彼とカエルゾンビのおかげで有益な情報を得られそうな相手を発見できた。

「さて、楽しい取り調べといこうか。君、どっかの組織に配属していたりする?」

女は黙りこむ。


…が、割とすぐに口を開いた。

「…ふん。どうせあんたらにはどうにもできないだろうし、教えてやる。そう。私達はある組織に所属し、団体で活動を行ってる」

「何だ、割とすんなり吐いたな」

女は切り株に手を置き、口角をつり上げた。あまりに得意げで、挑発的な笑顔。

「どうせ、あんたらには、どうにもできないからね。あのお方が私達のボスである限り…」

「ほほーん、言うねえ。闇姫軍最高の頭脳を持つ僕にその態度とは良い度胸だ。それだけは認めよう」

ガンデルは背筋を伸ばし、腕を組む。こういうタイプの煽りには強いようだ。先程の単純な煽りに反応していたのは、高い頭脳が逆に相手の脳みその無さに苛立っていたからだろうか。

ガンデルは続ける。

「で、あのお方?何だいそいつは。闇姫様でも勝てないとでも言うのかい?」


「勝てないわね」

それだけ言う女…。


なのに、その顔に溢れる自信は相当なものだった。


闇姫に勝てる…?


横で聞いているサイバーサは、その言葉の凄まじさにしばし呆然としていた。

彼らにとって、闇姫はこの世で最も強い存在だ。根拠がない訳ではなく、本当に彼女以上の拳を振るう者は見た事がない。

ガンデルとサイバーサだけに限らない。他の兵士達もまた、闇姫を最大の信仰対象としているだろう。

その強さに、悪に対する芯の深さに、統率力、気品、部下の扱い方。


…そんな彼女を侮辱されたような気分だった。

それでもガンデルは微笑みを崩さない。

「…答えが分かってる質問をしようか。…君達の本拠地は何だい」

「バーーーカ」

女は大口を開けて、全力で馬鹿にした笑み。

そして…。



立ち上がり、近くで呆然と立っていた男に向かって飛び込んだ。

「…あっ!?お、おい、何しやが…」



…二人の姿が、消えた。

「あっ!」

サイバーサが、二人がいた場所へ駆け寄る。

…そこには、ただ草が生えているだけ。


ガンデルはため息をつき…切り株に拳を叩きつけた。


垂直に大地を叩きつける衝撃波と振動音。切り株は真っ二つに裂け、遅れた衝撃が無傷の部分すらもヒビ割らせ、バラバラに裂いてしまった。

「あーっ、イライラしたっ!」

その声には怒り、そしてそれ以上の解放感に満ちていた。

サイバーサは恐る恐るガンデルに聞く。

「あ、あの…やっぱりやつらが、例の組織の人間なのでしょうか?闇姫様はあの人間どもが脅威になるとおっしゃってましたけど…」

「間違いないねえ。悔しいけど、確かに僕らの脅威となるであろう連中だよ。闇姫様が言うのだから、本当に、間違いない…」

あんなただの人間が…。

…が、ただの人間だからこそ、納得できるものもあった。

あんな非力な存在でありながら、ただの信念一つで、モンスターであるガンデル相手にあそこまで言える…。

いい加減で、馬鹿な生き物。だからこそ、その行動には無限の危険性がある。


「…ガンデル様。申し訳ありません。俺がいながら、やつらを逃してしまいました…」

「いや、サイバーサ。君はよくやってくれた。よくあの人間を発見できたね。君とカエルゾンビBにはボーナスをやろう。あと、あのライフルクソ野郎に殺されたCの葬式もしてやらないとな」

ガンデルの顔は、いつの間にか微笑みを取り戻していた。


…そして、その手には。


「…あ、それは!」


片手の平に収まる程小さな機械…。

それは、闇姫軍のGPS発信機だった。


「まさか…」

ガンデルは頷き、人差し指を立てた。


「しょせんアホ人間だよ。簡単に引っ掛かったね」

モンスターの前で、人間は無力なのかもしれない。






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