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ライフル魔をぶちのめせ

「あー、サイバーサ忘れてきちゃったな…」

闇姫軍屈指の頭脳を誇るドクター、ガンデル。

彼は頭を掻きながら、部下の不在に今更気づいた様子だった。


ここは平和な農村だった。塀がそこら中に張られ、牛や豚が鳴いている。

そこに並ぶは、蛙型の奇妙奇天烈な怪人達。彼らは奇妙な見た目ながらも、妙に律儀に整列している。

ガンデルは一人一人のカエルゾンビの点呼をしていた。

「カエルゾンビA!カエルゾンビB!カエルゾンビC!」

一人一人が手を挙げていく。やはりゾンビでありながら、きちんと言葉を理解しているようだ。

「サイバーサ…あ、忘れてたんだった。忘れたって事を忘れちゃってたよ」

またもや頭を搔く。彼は確かに頭は良いのだが、こういう仲間への意識が低すぎるところが欠点であると、闇姫からもよく低評価を受けている。



「ガンデル様ァァァァァァ!!!」

遠くを見ると、こちらに向かってくる砂煙が見えてくる。サイバーサだ。

ガンデルはその場に居づらそうに、歪んだ笑みを見せていた。

砂煙は村に立ち込め、哀れな村人達が咳き込んで逃げていく。牛や豚はいつの間にか鳴くのを止め、呆然と目線を揃えていた。



…サイバーサは、ガンデルの前で立ち止まった。

「酷いですよガンデル様!!俺はこの日の為に鋏を研ぎ澄まして、一日の楽しみであるトイレ掃除も控えてたのに!」

「ご、ごめんねえ」

手を合わせるガンデル。サイバーサは息を切らせながらも、内心では腕を振り上げていた。


{か、かわええ~。許す!!)



サイバーサは、ガンデルに森林での事を説明する。

まず、Fとクラナに助けられた事を先に説明した。

「そうか…F、クラナ。彼らはワンダーズの仲間だったよな。とは言え、僕の部下を助けてくれた事には素直に感謝せねばならないね」

顎に手を添えて柔らかく微笑むガンデル。

敵と言えど、恩は恩。せめて感謝だけは伝えておこう。

それでも、敵は敵。生暖かい情を持つ気などない。これからも彼らとは、変わらず敵同士だ。


そしてもう一つ。これを話す際、サイバーサは「ここからが重要なのですが」と一言添えた。


「…私を狙撃した相手。やつはどう見てもただの人間でした」

「へえ。…君は半人前と言えど、サイボーグモンスターだよね。そんな君に弾丸を正確に当てるなんて、その人間、確実に手慣れてるね」

サイバーサは頷く。

あの人間、恐らく山に現れるモンスターを狙撃して回ってるのだろう。人助けと称して、害のないモンスターを撃って回ってるに違いない。何体かは命を奪った可能性も。

「うーん、腹立つね人間って。ボク達よりも悪いじゃんか」

「ええ。世界一の悪の組織は闇姫軍…。人間風情が悪を名乗る事など許せません!」

サイバーサは鋏の腕を開閉した。撃たれた時の痛みを思い起こしているのだろう。その僅かな仕草だけでも、深い怒りを感じさせた。


「よし。その人間を探すよ。怪しい動きをしている人間達とも何かしらの関係があるかもしれない!」

ガンデルの指示で、カエルゾンビ達がうめき声をあげ、サイバーサが「おおーーっ!」と鋏を振り上げた。

闘志ある掛け声を発したのはサイバーサだけ。何だか妙にむなしく空にこだました…。




それから、探索は開始された。

村人達の困惑もよそに農村を拠点に、ガンデル達は森林へと向かう。

怪しげな人間、ライフルを持っている…その情報さえあれば十分すぎた。

その人間がモンスター狩りをしてるならまだ森林にいる可能性が高い。そして、狙撃される可能性も大、だ。

しかしカエルゾンビ達は、実は回復魔術を使う事ができ、仲間を癒す事ができる。サイバーサの近くには三体のカエルゾンビが護衛として連れられている。万が一また狙撃を受けた時の為だ。

もっとも、サイバーサはもう同じ手、同じ弾丸を食らうつもりはなかった。次にまた発砲されたら、今度は弾をはね返すつもりですらあった。



森林は思っていたより深い。Fとクラナが迷っていたのも頷ける。こんな場所で狩りをするなど、その人間もよほどの物好きに見える。それに隠れられる場所も多い。姑息な人間が戦いの場に選びそうな場所だ、ガンデルの頭脳がため息をついた。

愚かしいが、よく考える生き物だ、と。


深い茂みに身を隠し、辺りを見渡す。慎重に、木々の端まで目を通す。

先程までは鳥や虫の鳴き声がやかましく響いていたが、なぜかこの時、それらが一切聞こえなくなってしまった。

それは…不穏な前触れだったのかもしれない。

「…」

ガンデルは目を閉じ、感覚を研ぎ澄ます。

闇姫軍最高の科学者である彼だが、戦闘力も高い。鍛えられたその体は細さに似合わぬ力と魔力、そして武道精神を刻み込まれており、闇姫からも認められている。

目を閉じる事で視覚を遮断し、その他の感覚へと精神を振り分ける。


…何かを感じる。


これは、殺意だ。

まっすぐで、隠しようのない殺意。それはあたりの物を押しのけながら、こちらを目指している。

黒いオーラが、閉ざされたはずの視界に映る。


「あ、あの、ガンデル様?」

サイバーサが、足を止めているガンデルを覗き込む。



「…伏せろ!!」

ガンデルが叫ぶ!

サイバーサは息を吐き、咄嗟に伏せたが…。



青い血が、頭から覆いかぶさってきた。


それは…カエルゾンビの血だった。

「う、うわ…」

しゃがんだサイバーサが、そのまま後ろに引っ張られるように尻もちをつく。

「ちっ、間に合わなかったか。脳までやられちゃ回復も意味がないな。ボクの可愛いカエルゾンビを撃ちやがって、クソッタレが…」

先程まで陽気さを感じられたガンデルの声には、はっきりと怒気が入り混じる。

倒れるカエルゾンビが視界に入り込む。

その頭はグチャグチャに歪められ、青い血が絶えず流れる。頭だけでなく、着弾していないはずの胴体にまで損傷が及んでいた。それを見たガンデルが、口角を垂れ下げる。

「通常よりも強いライフル弾のようだね。人間の科学で作るにはかなりの技術が必要だろう。こんなので撃たれたら…サイバーサ、君、二度目はないだろうよ」

「それでも!」

二度目はない。その言葉を聞きつつも、武人たるサイバーサは闘志を忘れない。いや、それどころか目の前で倒れた仲間を見て、更に意思を燃やしているようだ。サイボーグとは思えぬその意気は、彼の脚を立たせるには十分すぎた。

「ガンデル様!あんなやつの前にあなたを立たせはしません!このサイバーサ、闇姫軍の為に命を懸けて…やつと戦います!」

彼の、機械化されていない肌に汗が滲む。



茂みから堂々と顔を出し、周囲を見渡す。

「隠れてないで出てこい!正々堂々と戦いやがれ!」

彼の怒号が、衝撃波の如く付近に放たれる。



「…獲物が自ら顔を出すとはな!余程のクソバカ野郎のようだ!」

…茂みから出てきた。


あのライフル男が!


サイバーサが目を向けた時には、既に銃口がこちらに向けられていた!

「あっ、しまっ…」

不愉快な爆音。銀の弾が、茂みを揺らしながら飛んでくる…!




が、その弾によって破壊されたのは…。


男本人のライフルだった。

時が止まったように、理解を超えた瞬間が訪れる。


「…え?」

男は、目の前を見る。


立っていたのは…右手を構えたガンデル。

いや、構えていたのではない。既に振るわれた後の手だ。

サイバーサに飛んできた弾を、ガンデルは弾き返してくれたのだ。

この一瞬で、ライフルの角度と速度、最適な弾き方を脳内で導き出していた。

無言で睨むガンデルに、男はたまらずライフルを構えようとするが…。


「あっ!?」

その手には…何も持たれてない。

弾がぶつかった衝撃で、銃口がへしゃげたライフルは飛ばされ、地面に落ちてしまっていた。それすらも、彼の頭から抜けていた。

ガンデルは…手を軽く振るう。


それだけで、木々が大きく揺れた。

「…サイバーサ。ボクがこんな野郎に負けると思ってたの?」


…攻撃の瞬間すら見えなかった。

男は膝を折り、倒れていた。



「す、すげえ…」

サイバーサは、それだけを口にしていた。






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