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サイバーサとの出会い

Fとクラナは、森林に留まっていた。

あれからしばらくの間身を休め、体の傷は治りつつある。

あれだけ刻まれた全身の傷も、今では綺麗な肌に戻っている。まだ目眩は消えず、所々に赤い傷跡は残っているが、もう既に戦う力は残っていた。

だが…下手に出る事はできない。


何故ならば、ここも安全ではないとつい先程分かったからだ。

「くそっ、嫌な野郎がいるな…」

Fは岩に腰掛け、柔らかい土の上で眠るクラナを見守りながら思案を巡らせていた。

彼はつい先程まで、回復を促進させる樹の実でもないものかとここらを軽く探索していた。

適当に木々を見回り、時々顔にまとわりつく羽虫を払い除けながら慎重に歩を進めていたのだが…。



ある茂みの向こうで、あるモンスターを発見したのだ。


そいつは…蛙のような怪人。

頭は蛙だが、服装は妙に整った新品同然の白衣を着ている。彼はその蛙面ではっきりとした人語を発し、周りにいる部下達に指示を出している。

その部下達もまた、蛙のような姿をしているが…白衣を着たリーダーと比較すると、全体的に痩せこけており、黒い簡素な服を着ている。

Fは彼らを知っている。

彼らは…闇姫軍のモンスター。特に白衣を着たあいつは、ああ見えて油断できない。

「ガンデル…」

直接関わった事こそ少ないが、あの蛙怪人、ガンデルはワンダーズと何度か戦ってきた厄介な相手だ。力もあるが、何より知能が高い、闇姫軍屈指の科学者とさえ呼ばれており、闇姫軍の兵器の六割は彼が開発した、とさえ呼ばれている。

そんな彼だが、案外こうして色んな場所に出向いては調査を進めるアクティブな面もある。今回も何かしらの調査を行なっているのだろう。

尚、付近にいる部下のモンスターは…恐らくカエルゾンビ。葵が以前、何気なくモンスターの話をしてくれた時があったのだが、その時のカエルゾンビの情報と一致している。

彼らもガンデルの発明の一角だ。


それからFは茂みに身を隠していた。

自分でも情けない事は分かってる。だがあのガンデルは先程も申し上げた通り強敵であり、今この状況で戦えば、どんな傷を負わされるか分からない。

「ちっ、一応導狼の証の力でワンダーズに伝える事もできるが、魔力で存在が気づかれるだろうしな…悔しいが、やつがここから消えるまで待つしかねえ…」

無駄な戦闘は危険…シンプルながらも大切な考えだった。

彼はクラナをまっすぐ見守っていた。下手に動かないのが一番だ。



ガンデルはと言うと…。

「ふーむ、このあたりに妙な人間は見当たらないようだね」

周囲を見渡すガンデルの手には、小型のキューブ型の機械が乗せられている。

これは彼が発見した人間発見器。人間から発せられる微細な魔力に反応し、その位置を伝えてくれるという、ガンデル自慢の発明品の一つだ。本来は実験体となる人間を探るものなのだが、これが中々汎用性も高く、人間以外にも特殊な波長の魔力を持つ者を発見するのにも優れている。


…その機械で、ガンデルは既に察知していた。彼らの存在を。

「…この林にいるようだね。あの兄妹が」

Fとクラナがいる方角へ目を向けるガンデル。Fの隠密も虚しく、居場所は既に突き止められていたのだ。

が…ガンデルはその方角から目をそらす。

「…彼らの力は強いからね。僕が相手しても、多少の傷を負う可能性はある。万が一の事があれば闇姫様に会わせるお顔がない」

彼もまた、Fと同じ思考だった。万が一に備え、彼は邪魔者をあえて野放しにする。

敵同士であるにも関わらず、お互いに良い結果をもたらしあっていた。

ふと、ガンデルは他の方角にも目をやる。

その視線の先には…村があるはずだ。人間達が集まる村。人間の密集地へ向かえば、ガンデルの目的も果たされるのでは…そう考えていた。

その目的とは…。


「近頃ここらに現れる怪しい人間ども…彼らを調べるように闇姫様からご命令を受けてるんだ。怠慢は許されないね」

近くのカエルゾンビに身振り手振りで指示を出す。


そう、最近怪しげな活動を続けている人間達。彼らを調べ、闇姫軍へ情報を提供するのが彼の役割だ。

どうやらこの森林はハズレの様子。ならば次に目指す先は村となるだろう。

「よし、君達。次は村を目指すよ」

ガンデルのどこか穏やかな声に、カエルゾンビ達は整列する。乱れきった動きであるにも関わらず、綺麗な一列を保って突き進むその様は、ガンデルの調教の凄まじさが伺える。

異様な行列が森林を抜けていく…その足音は、少し離れた場所で隠れていたFの耳にも届いていた。

「…どうやら行ったみたいだな」

立ち上がるF。ひとまずは安心してもよさそうだった。

とにかくこの森林からずらかり、ワンダーズにあの女の事を伝えないといけない。


「おいクラナ。起きろ」

クラナを軽く揺するF。

彼女はびくともしない。元から眠りが深いが、一際疲れ果てた今は余計に沈み込むのだろう。

「ったく、よくこんな場所で寝れるな…」

仕方なく彼女を抱きあげる。このまま抱き上げたまま下山するしかなさそうだ。


山は静かだった。風は木々の隙間を掻い潜り、平和を象徴している。

なのに…その風に、血の臭いが乗せられているような、そんな不穏な予感がしていた。


あの仮面の女の姿が頭から離れない。

あれほどの邪気は久々に感じた…。


(今夜は眠れないかもな…)

腕の中のクラナを見下ろし、顔色を確認して、また進む。

下手に飛べば何かに気づかれるかも知れない。だからこうして地道に歩く道のりをわざと選んでいた。

まだ先は長そうだ。


時々顔にかかる枝を手で払い除けながら、先へと進み続ける。

その途中だった。それが現れたのは。



「待てっ!」

何かが立ちはだかる。


それは、人型のサイボーグ戦士だった。

全身のあちこちが、赤や黄色のアーマーに覆われているが、何よりの特徴は左腕。

大きな赤い鋏となっている。目玉のような装飾がつけられており、どこか悪趣味な印象を受ける武器…。

足を止めたFは彼を睨み、クラナをより深く抱え込む。

「なんだテメエ」

「俺はサイバーサ!!闇姫軍の戦士の一人よ!この度、闇姫軍最高の科学者、ドクターガンデル様の護衛係として、この山に降り立った!」

鋏を開閉してボーズをとるサイバーサ。

こいつも闇姫軍か、と呆れたため息をつくF。こんな場所でも遭遇するとは、やつらとの縁はどこまでも続いてるらしい。

いや、そんな事よりも伝える事がある。



「そのガンデル、どっか行ったぞ」


しん、と沈黙…。


「…そ、そんな訳ないだろうが!!俺は忘れられてなんかねえぞ!!」

「いや誰もお前を忘れてるなんて言ってねえだろ。まさかお前、普段からあいつに忘れられてんのか?」

サイバーサは寄声を発しながら飛び上がり、鋏の腕を振り下ろしてくる!今の挑発、よほど効いたようだ。

鋏が地面に突き刺さり、Fは咄嗟に回避する。同時にサイバーサに蹴りを打ち込んでやる。

よろめくサイバーサ。鋏を振るってFを切りつけようと激しく攻撃してくるが…。

(素人の動きだな。恐らく精鋭ではない…)

サイバーサはひたすら鋏を振り回してくるが、Fは足だけでそれらを受け止め、払い、あしらっていく。クラナを落とさぬように上手く体を揺らし、バク転まで重ねた。

サイバーサは息を切らし、動きが鈍くなっていく。それを見たFは、一際大きく足を振るう。

「おいおい無理すんなよ!」

彼の回し蹴りが、サイバーサの頭部に直撃!これが決め手となり、あっという間にサイバーサはノックダウンした。


「あぐああっ…!」

草の上にドサリと転がり倒れ、無念そうに鋏を地面に刺し込む。

瞬殺だった。

闇姫軍も人手不足なのだろうか。最高峰の科学者の護衛には、サイバーサの経験は明らかに足りてない…。


が、直後の行動で、Fは彼を見直す事になる。


「…やれ。俺は負けたんだ。常に戦いの場にいる者として、俺はお前に倒されねばならん…」

仰向けになり、自身の急所を晒す姿勢になる。武人としての精神を心得ているようだった。

敵とは言え、この潔さは見上げたものがある。Fはしばらく彼を見つめた後、こう言った。

「誰も殺りゃしねえよ。お前は中々頑張った。出会いは唐突だが、お前のその精神、見上げたぜ」

サイバーサはFを見上げる。無機質ながらも、僅かに光が宿っていた。


「…ふっ、敵に情けまでかけられたか。俺は…何もかも修行をやり直さないとな」

立ち上がり、Fの目の前に立つサイバーサは、完全に戦闘態勢を解いていた。



…人間なんかより、ずっと話が分かる。

そう思ってしまった。


「…クラナ、起きねえな」

「その子か。あれだけ動いたのにな」

何気ない会話まで、自然と交差した。







「ぐあっ!!!!」

突然だった。


サイバーサは、突然膝を曲げて倒れてしまった。

Fの瞳孔が開く。

その視線の中には…サイバーサの後頭部から流れる赤い血が映っていた。

「え、おい!!」

Fは周囲を見渡す。



…茂みの向こうに、ライフルを構えた人間が立っていた。

帽子を被った一人の男だ。彼は、実に得意げな笑みでFに目を向けていた。

「兄ちゃん大丈夫かぁ?この辺モンスター多いからな、気をつけろよ〜」

助けてくれた…つもりでいるのだろう。

彼はライフルを片手に、大股歩きで森林の奥へと姿を消していった。その足取りはまるで酔っぱらいのよう…。陽気な挙動が、その存在感をFの目に刻んで消えない。


…Fは、右腕を捲る。その裏側から現れたのは、青い狼を模した入れ墨…導狼の証。

ここに込められた強力な魔力があれば、彼を助けられるかもしれない。

(頼む!こいつを助けてくれ…!!)

青く輝く入れ墨。

Fは念じた。強く、強く…。

導狼の証へ。神へ。自分自身へ。

そして…。



(師匠…!)





……。







「…おお、お前…」

弱々しい声が、Fの耳を撫でる。

いつの間にか目をつぶっていたらしい。



恐る恐る目を開くと…目の前には、サイバーサの顔があった。

目は開いている。息が荒いが、正常域だ。

導狼の証の力が作用したのだ。

いや、それだけではない。もう一つの力、及び魔力がサイバーサを助けていた。

「良かったぁー、助かったー!」

明るい声が、空気を緩める。

クラナだった。彼女がサイバーサに魔力を与えてくれていたのだ。兄妹の力が、サイバーサを救った。

「いつの間に起きてたのかよクラナ!?」

「だって、お兄ちゃんアタシを落としたんだもん。でも、痛がってる人が助かって良かったぁ!」

そういえば、サイバーサが撃たれた時、彼は両手を離していた…。



サイバーサは、Fとクラナに改めてお礼を言い、鋏ではない右手で二人と握手した。

「ありがとな、二人とも。だが俺は闇姫軍からは離れん。あくまで敵同士。が、憎み合いはしない。それでいいな?」

「大賛成だ。次に会うまで、絶対死ぬなよ」

森林での思わぬ出会い。

こんな場所に飛ばされ、面倒事だと思い込んでいたが…こういった事もあるから前を向けるのだ。

兄妹にはこの日、友人ができたのだった。






「…で、ガンデルは北に向かったぞ」

「あっ、そうだった!ガンデル様ーー!!!」

走り去るサイバーサ。

これからも頑張ってほしいところだ。






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