ゾンビ乱戦
その日、テクニカルシティでは、ラオンと粉砕男が動き回り、その腕を振るっていた。
忙しい事に、今日もまた敵が現れたのだ。
相手は…ゾンビとでも呼ぶべきか。
が、その姿はゾンビにしてはおかしい。
所々の体が抉れているものの、血色がまだあり、背中からは鉄のコードのような物が僅かにはみ出ている。生気や理性を感じさせない動きこそゾンビのそれではあるが、その魔力もまた、一般的なゾンビより生き生きとしている。
言うならば、肉体は死んでいるのに、心は自身がまだ生きていると勘違いしているような…生きたゾンビだった。
ラオンはナイフを顔の前に添えたまま、視界を埋めるゾンビ達を睨む。
「住民の避難が完了していて良かったな…こんな量を野放しにしてたら何百人も死んでたぞ」
無遠慮に襲い来るゾンビをまた一人切りつける。膝から崩れるように倒れるゾンビを見届けると、また次だ。
粉砕男はというと、豪腕に溢れる怪力を生かした範囲攻撃でゾンビ達を翻弄していた。腕を振るった衝撃でゾンビ達を吹き飛ばし、自身の体の大きさを利用した突進も挟んでいく。
「ラオン!こいつらも闇姫軍の仕業だろうか!?」
「分かんねえけど、何となく違う気がする!闇姫軍の連中って大体自己紹介するしな!!」
粉砕男は一体のゾンビを殴りつける。吹き飛ばされたゾンビが、後方の仲間達にも衝突、ドミノ倒しで倒れていく。
それでも彼らは立ち上がり、向かってくる。
先程の例えが正しいなら、死を乗り越えた肉体、自身の生を偽る強い本能、その二つがこの腐れ人形の異様なタフネスを実現しているのだろう。
ラオンは再びナイフを構えるが…彼女の後方から、一体のゾンビがしがみついてくる。
「ちっ、しまった」
あくまで冷静さを崩さない。
ゾンビはラオンを持ち上げると、近くのパチンコ店へと彼女を放り投げた。ガラスが砕け、まだ点灯している無数の機械が彼女にいらぬ歓迎をする。
「…っ、おいテメエ!アタシが最近パチ控えてるのを知っての上での犯行か!!」
ラオンは近くのアーケードマシンを軽く蹴りつけ、勢いよく向かっていく!
この勢いを避ける程の俊敏性はなかったようで、ゾンビはあっさりその頭突き攻撃に被弾した。
その後方にいたゾンビ達も、粉砕男が殴り伏せる。
衝動を抑えつつラオンはパチンコ店から退店。ナイフ片手に粉砕男に呼びかけた。
「粉砕男!一気になぎ倒すぞ!」
「おう、一気にやろう!」
二人は息を揃え、真っ向から突撃していく!ゾンビ達の胸を、首を、顔を殴り、切りつけ、ダメージを与えていく。
彼らから感じる魔力やその動き…死人である事は間違いない。それ故、二人の攻撃はいつも以上に苛烈だった。
一気に倒れていくゾンビ達。互いに覆いかぶさりあい、無造作に積み込まれていく。
数の暴力にも屈する事はない…今回も勝利を収める事に成功した。
が、何も戦いとは相手を薙ぎ倒して終わりではない。
この異様なゾンビ達…彼らがどこから現れ、何者なのかを突き止めるまで。
戦いは終わらない。
「そうなんてすよ!突然北の方角からやつらが現れて、雪崩のごとく街に押し入ってきたんです!」
テクニカルシティの中心に聳える見張り塔…無数のモニターに囲まれた近未来的な部屋を訪ねた結果、彼らは北から現れた事が分かった。
見張り番の男は熱く語りだす。
「午前十時頃、己の存在性から目をそらさんとする偽りの屍!やつらは互いを追いやり、一生命としての在り方である集団から足を踏み外す…いかに理性無き者と言えどこればかりは神より授かりし手、足、脳、髄に背いたと言えるでしょう!ああ許せない!こんな私の言葉を聞いて、貴方がたは私を見下すでしょうね!ですが私からしてみればイカれてるのは貴方がたですよ!第一として理性ある人間は授かりし脳を生涯の中で何回使うかで価値が決まる訳で…」
何やら止まらなくなったので、二人はさっさとその場から離れた。
「とりあえず北からやって来たんだな…」
それだけしか分からなかったが、逆に言えばそれだけの事が分かった。これからの調査において、北に焦点を絞っていけば良いのだ。
北のどこかに、あの得体の知れないゾンビを作り上げた何者かが潜んでる…。
これはワンダーズ全体に共有するべき情報だ。あれだけの数…彼らはまた姿を現すかもしれない。
「それにしても、気味の悪い野郎共だったな」
街にて、ゾンビ達はテクニカルシティの研究チームにコンテナトラックで回収されていく。
コンテナの上に、砂のごとく乱雑に積み込まれていくゾンビ達の姿は、どこか哀愁に満ちていた。人と同じ形だからだろうか、これがもし、もっと異質な外見ならばこんな感情は抱かなかっただろう。
つくづく自分達も勝手な思考の持ち主だ、と粉砕男が腕を組んでいた。
「…おい粉砕男。Fとクラナ、まだ帰ってきてないよな」
唐突にラオンが言う。
以前山での依頼に出向いたFとクラナ。彼らが出撃してずいぶん立つが、確かに何の連絡もない。
…ゾンビ騒動にすっかり気を取られていた。
とは言え、あの二人だ。余程の事が起きない限り、彼らが簡単に倒れる事はないだろう。
そもそもワンダーズは複数の依頼に分断して向かう事が多い。こうして離れる事も、既に日常だ。
言ってしまえば、あまり心配はしていなかった。
…油断していたのかもしれない。
この時は。




