表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/37

アゴグサンとジェネリーチ

ワンダーズに避けられた依頼の一つ。

そこに今回挑むのは、粉砕男とテリーだった。



「この辺りは崖が多いから気を付けろ。あとヒルと巣食っている。テリー、お前は骨だから大丈夫だろうが、一応注意だ。午後13時から他の依頼に向かうから、今回のは早めに終わらせるぞ」

淡々と、どこまでも真面目に語る粉砕男。


ここは沼地。

依頼内容は、ここにある汚染物質の除去。

その汚染物質が何なのか、詳しくは語れなかった。が、とりあえず手紙に付属されていた薬品で沼を浄化できるらしい。

テリーが片手に持つ瓶がまさにその薬品だ。

泥濘んだ土の上、時々響く不気味な鳥の鳴き声。長居はしたくない場所だ。

「テリー、もう少し足早に行こう。しかし沼の淵に足を踏み込まないようにな。さて、この薬品、一滴で沼を丸ごと浄化できる、とはあったが果たして本当なのか…」

「…粉砕男!もうちょっとさ、肩甲骨がほぐれるような世間話の一つでもしようぜ!!」

噴き出したように、テリーが言った。

ここについてから粉砕男は固い話ばかり…ただでさえジメジメした場所だというのに、これではますます空気が重くなる。

世間話とは思っている以上に大切なもののようだった。

粉砕男は軽く笑いながら手を振った。

「はは、悪かった。じゃあ話すか。今後の政治情勢について」

「やっぱいい…」

そんな会話が繰り返されつつも、二人は何とか足を進めていた。



沼はかなりの広さだが、その所々に黒や紫の不気味な水が溜まっている。これが汚染物質である事は言われなくても明らかだった。

テリーはそれに近づき、手元の瓶の蓋を開ける。

瓶の中身は僅かに泡立つ透明な液体。本当にこんな物が、このどす黒い液体を浄化できるのか…?

「まあ、やってみないと分かんねえよな」

隣で頷く粉砕男。テリーは、水滴を一滴、水溜りに垂らしてみた。


全く異なる液体同士が、波紋を通じて一つとなる。



…するとどうだろう。

あれだけ汚れていた水溜りは…みるみるうちに色が澄んでいく。

目視でも容易に分かるほどに、はっきりとした浄水光景だった。

テリーも粉砕男も、思わず背を伸ばす。

「…すげえな。これは確かに…」

途中で言い終えるテリー。これだけの浄化効果、一体どのように作り出されたのだろう。

彼は瓶を、空洞の目で見つめる。まだ液体は多く残っている…これがあれば沼の浄化は容易だろう。



本格的に取り掛かろうと思った、その時だった。



「テリー!避けろ!!」

「え?」

テリーが振り返る。


…視界に飛び込んできたのは、四本の赤い触手!

テリーはかわそうとしたが、間に合わない。

粉砕男が咄嗟に飛び出し、立ちふさがり、代わりに触手を受ける。


「ふ、粉砕男!すまん、大丈夫か!」

「だ、大丈夫だ」

彼の胸には四つの窪み状の傷がつけられた。血が滴るが、この程度なら彼の人工肉体の前では掠り傷に過ぎない。

とは言え、彼の筋肉の鎧を無視できる程の触手…。

その触手の根本に控えていた主が、こちらを睨むように佇んでいた。


「…何だこいつ!」

それは…全身を真っ赤に染め、触手を備えた大きなヒルのモンスターだった。

それだけではない。ヒルモンスターの側には、もう一人のモンスターが控えていた。


「どうだ?うちの可愛いジェネリーチは…」

そのモンスターは、ヒルモンスター…ジェネリーチよりも人間に近いフォルムをしていた。

二股に分かれ、触角のようなものを生やした頭部、そして顎の先端が異様に尖っている。

テリーはその顔を見て、拳を握る。

「お、お前はアゴグサン。確か近頃、『顎自慢しすぎ』の容疑で指名手配されている悪徳モンスター!」

「わざわざ説明ありがとよ」

アゴグサンは自身の顎を両手で一撫で。そしてジェネリーチに手を置き、得意げに手を振る。

「俺の事はさておき、このジェネリーチちゃんは中々可愛いだろう?今、そこの野郎の血を吸って、力は万全だ」

クックック、と怪しく笑うアゴグサンに、粉砕男は警戒を固める。


その時…ジェネリーチの背中に変化が起きた。

赤く、肉肉しい背中が不気味に泡立ち始めたのだ。その泡立ちは徐々に激しくなり…やがて、何かが背中から飛び出した!


それは…赤い腕だった。

無数のイボがついており、血のように赤い不気味な腕。テリーと粉砕男が驚く間もなく向かってきて、二人を殴り飛ばす!

「ぐっ!」

危うく後ろの汚染された沼に落ちそうになる。立ち上がりつつ、粉砕男がジェネリーチを睨みつけた。

「あの腕…俺と同じ魔力を感じる。どうやら俺の魔力で生成したもののようだ。さっき吸った血から魔力を採集したんだろうな…!」

それを聞き、歯を食いしばるテリー。あの腕は、粉砕男と同等の怪力を持つという事だ。

粉砕男はその腕に正面から向かい、自身の拳を突き出す!ジェネリーチの拳もまたそれに応戦し、突き出される。

二つの拳が炸裂しあい、沼の水面から飛沫が散る。力はやはりオリジナルが上なのか、ジェネリーチは僅かながらよろめいた。

すかさず、テリーが骨の腕に魔力を集中させ始める。

その腕は少しずつ形を変化させていく。指が互いに寄りあい、一つの形へと変わっていき…。

骨の刃へと変形した。

「今加勢するぞ粉砕男!」

彼は刃を振り下ろし、ジェネリーチに攻撃を仕掛ける。

が、ここでアゴグサンが前に出た。彼はその刃に対し、顎を振り上げて受け止める!

何と硬い顎だろうか。テリーはその衝撃で後ろに飛ばされ、舌打ち。

更にアゴグサンはポケットに手を突っ込み、何かを取り出した。

それは、赤い液体が入った瓶。…爆発瓶だった。

テリーは両手に再び魔力を纏い、今度は盾のように広げてみせる。硬度を増した腕が急所である頭蓋骨を守り、爆発をものともしない。

アゴグサンは距離をそれを見て離しつつも、まだ余裕を崩さない。

「ふん、闇姫軍の科学で作り上げた爆発瓶、無駄になっちまったか」

「闇姫軍?お前ら、闇姫の手先なのか」

テリーは再び腕を刃に変え、少しずつ横に歩く。アゴグサンはジェネリーチの後ろに隠れ、覗き込んでくる。動きは弱気だが、あの笑み…まだ武器を持ってる事が伺える。

「ああそうさ。俺たちはこの辺りを領土にするよう命令を受けている!この任務に成功すれば、俺は次のシフトで5連休を頂けるよう約束されてるんだ!!」

そう言うと、彼は更にポケットから何かを取り出した!

今度はナイフだった。投擲に特化した形状をしている。

先ほどの爆発瓶で投擲武器への警戒を固めていたところだ。今度は食らうことなく、刃の腕をぶつけてナイフを弾く。

「そうか…って事はもしや、この沼を汚染したのもお前らか!?」

「は?それはちげーよ!」

アゴグサンはジェネリーチを軽く叩く。

するとジェネリーチは背中の腕をより激しく動かし、粉砕男を連打。粉砕男は何とか筋肉と腕の硬さで耐え抜いているものの、その打撃はなかなか侮れない。

アゴグサンは顎を向け、突撃してくる!やや上に向いた目線のまま、こんな事を教えてきた。

「この沼を汚染したのは誰あろう人間どもじゃねえか!俺達はここを占拠した後、ここを綺麗にする予定なんだ!ヒルも綺麗な水で暮らすもんだしな!!」

…薄々分かっていたが、人間達の仕業だったようだ。その人間達の尻拭いを自分達がさせられている…複雑な気持ちになるものだった。

とは言え、一度受けた依頼はもう断れない。最後までやり切るまでだ。

「疑って悪かったな。だが闇姫軍にここを渡す訳にはいかん!」

テリーは一気に飛び込み、アゴグサンの前で着地。拳を握り、振り上げる。

アゴグサンの余裕はここで突然崩れてしまった。

「げっ!おい近い近い!!そんな近くじゃ俺の投擲武器が役に立たねえ!!」

「自慢の顎で何とかしろよ!!」

アゴグサンは顎を構えるが、もう遅い。骨の拳が彼の腹にめり込み、重圧に突き上げられる!

アゴグサンがダウンするや否や、ジェネリーチは触手を放ち、テリーを狙う。今まさに相手していた粉砕男はテリーに危機を伝えようとしたが…。


「俺は骨だ!血なんかねえよ!」

彼は骨の刃で、触手を斬りつける!残らず切り落とされる触手、ジェネリーチは最大の攻撃手段を失い、動揺したように身を震わせた。それでも諦めず、拳をぶっ放す!

テリーの横に粉砕男が並び、互いの拳を同時に突き上げた!

二人分の衝撃に、ジェネリーチは真上に吹き飛ばされる。この一撃、確かにトドメとなったようだった。

ジェネリーチは地面に叩きつけられ、横のアゴグサン共々ダウンを食う事となった。



両者ともに敗退…闇姫軍の企みは阻止された。

アゴグサンはジェネリーチを連れ、その場からそそくさと逃げ出していく。

「ち、畜生。覚えてろ…俺の顎で、いつの日かお前らを二人を脅し、命乞いを行わせ、串刺しにしてくれる…」

鋭い眼光、そしてクセが強すぎる捨て台詞。茂みへ飛び込もうとする両者を見届ける粉砕男とテリーだったが…。

アゴグサンが、足を止めた。


「…勝者への報酬として、一つ教えてやろう」

組んでいた腕を解く粉砕男、身を乗り出すように前に出て、「は?」とだけ発するテリー。

アゴグサンはニヤリと笑い…顎を撫でながらこう言った。

「お前らが浄水の時に使ってるその瓶。それはな…大量の樹木を倒した時に発生した樹液から作ってるんだよ」

そう言い残し…彼は茂みへと消えていった


…大量の樹木。

二人の頭に思い浮かんだのは、以前れなと葵が出くわした自然破壊騒動。

まさか、あれがこの浄水薬品に繋がっていたのだろうか?




「…難しい話だな」

二人は、まだたっぷり余ってる薬品をただ見つめた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ