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正義とは

ワンダーワールドCR。いつものワンダーワールドよりも一際ダークなエピソードを中心とした作品となってます。

尚、こちらはワンダーワールドⅱ、ワンダーワールドⅱー2をお読みになるとよりお楽しみ頂けると思っていますので、よろしければその2作もどうぞ!

何を定義として、正義とは決まったのか。


善行は人を癒す。心を癒やす。だから、善行…及び正義は、世界にとってあるべき存在として認識されたのか。


それ故、その正義と対を成す悪は不必要と見なされたのか。悪がなければ正義は成り立たないというのに。


そもそも、他者を傷つける弱肉強食が生物の本能として備わり、そこから理性ある生命の誕生に繋がった世界。

悪とは不必要か?悪とは、本当に「絶対悪」か?



…それは、我々の常識を超えた存在が当たり前のように地に根付くこの次元においても、永遠の議題として心に靄を残していた。






地球にて、戦争が起きていた。


規模こそ小規模、目的は炭鉱発掘場の奪い合い。昔から武力行使を主とする国々だった事もあり、戦争発展への道筋は短いものだった。


結果は、先に攻撃を仕掛けた国の勝利。その勝利という文字を構成したのは、当然犠牲となった兵士の血肉、無念、そしてお国への奉公心。




「…これはまた、酷い話だね」


科学が発展した街、テクニカルシティ。

テレビ画面越しにその戦争の惨状を何気なく見ていたのは、黄色いツインテールヘアーが特徴的な一人の少女、れな。そしてその隣には、姿も名前も良く似ているが、やや幼く見える少女、れみ。


人間そっくりな姿をしたこの二人…しかしながらその素性は全く異なる。


二人はアンドロイドなのだ。この科学の街で暮らし、ここで「生きている」、正真正銘の機械人間。

その意思は人間並み、あるいはそれ以上に色濃い。純粋な性格ながらも正義感の強い性格、姉のれなは天然、妹のれみはしっかり者…。性格の個性もはっきりとしている。


こうして自らテレビを見て、惨状に心を痛める事すらあるのだ。



アナウンサーの声が重々しく状況を伝える。はっきりと聞き取りやすいその声は、自然と聞く者を引きつけていく。姉妹も勿論動揺だった。


それに割り込むように、一つの音が部屋に飛び込んでくる。



インターホンの音だった。

「あっ、アタシが出てきまーすっ!」

れなが立ち上がり、意味もなく右手を挙げ、行進するように玄関へと向かう。彼女の行動は節々にこうした天然ぶりが発揮される。れみはもう慣れっこだ。


彼女らがいるのは研究所だが、その内装は一般家庭のそれと良く似ている、過ごしやすい場所だ。

靴箱が並び、どこにでもあるような一般家庭の、どこにでもあるような靴の香り。そして、親しみやすさすら感じさせる、どこにでもあるような扉。

「どちら様ー?」

目の前に立っていた来客は…。


白く、美しいバードテール、後ろ髪もまた純白で、風の流れに逆らわず、それでいて一本一本の髪の毛が規則正しく揺れている。

赤く釣り上がった目、口の中に僅かに見える八重歯。

「れな、あのニュース見た?」

彼女の名は…ドクロ。

見ての通り、れなの友人、そして戦友の一人だ。

ドクロだけではない。彼女の後ろにはもう一人、長身の男…いや、男と呼んで良いのかは微妙なところだが、ともかく背の高いある存在が立っていた。

「とりあえずお邪魔するぜ、れな」

その男は…骸骨男だった。

世で言うところのスケルトン。黒いスーツを着ており、青いネクタイが風に揺れる。

全く見てくれが異なる二人だが、訳あって二人は兄妹…死神の兄妹なのだ。

死神と言っても世に持たれる恐ろしいイメージとは真逆。魔力の扱いに手慣れ、いかなる相手にも屈さない頼れる仲間達。

彼等との付き合いはとても長い。れな、そして後ろの廊下から駆け抜けてきたれみは同時に手を振り、フレンドリーに出迎える。

「ハロハロ~ン。お菓子用意するねー」

れなの陽気な一言と共に、ドクロとテリーはお辞儀を一つした。



リビングにて。


丁度冷蔵庫に入っていたプリンを囲みながら、四人は顔を合わせていた。

尚、れなとれみのプリンには…どういう訳かシシャモが突き刺さっている。この姉妹はシシャモが大好物で、どんな物にもシシャモを添えて食べるのが流儀…というか、趣味の一環となっていた。アンドロイドの感性はよく分からない。

それはさておき、先に話題を挙げたのはドクロだ。

「あの戦争、終わったわね。どうなるかと思ったけど…」

スプーンを揺らしながら語るドクロの横から、テリーが続く。

「被害は甚大みたいだ。この街にまで被害が及ばなくて幸い…とは言っちゃいけねえな」

この戦争一つで、国家の勝手な言い争いの末に巻き起こった戦争一つで、幾つもの命が散らされた。

その事実は、どうあっても変わりない。



れなたちは戦士だった。

長年人間の為、地球の為、その拳を振るい、身を削り、休息を挟んではまた戦ってきた。その戦いの経歴ももう長い。そんな中、彼等が散々見てきたもの…それは人間の身勝手さ。

もはや人間とは、身勝手でなければ生きていく事もできない生き物…そんな考えが一瞬よぎる程に、地球では様々な争いが起きている。

そして今回も…戦争が起きた。


しかし、全ての人間が身勝手な訳では無い。それは重々承知だった。


「やあドクロちゃん、テリーさん。今日もありがとうね」

穏やかな声が部屋に流れてきた。目を向けると…。



白髪に白衣の老いた男性が、にこやかに笑いながら歩み寄ってきた。ドクロとテリーは先程と同じくお辞儀を一つ。


彼は…博士と呼ばれている。

れなとれみの父親同然の存在。テクニカルシティでも有数の科学者の一人。

れなとれみが知る「良い人間」の代表とも呼ぶべき人物だった。

彼は本当に優しく、穏やかで、れな達をよく思い、そして心配もしていた。

戦士であるが故に戦わざるを得ない彼等。身の安全は保証されていない。

こんな感じでテーブルを囲んで呑気に過ごす彼らだが、いざとなればその力を発揮し、いかなる脅威にも立ち向かう。勇敢であり、危なっかしくもある…。

今回も、大きな戦いが起こらない事を祈るばかりだった。

せめて、今画面の向こうに見えるあの戦争が、最後の戦いであると願って。




…が、そんな考えも世間では「甘い」と切り捨てられるのだろう。


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