5.
どうしようもないもどかしさを抱え、項垂れている俺の耳に、微かな音が入る。
「起きましたか?」
助けた男性は俺が声を掛けると、少し驚いた様子で俺を見た。
「体に不調はありませんか?」
少し怯えも混ざった視線だったが、気にせず話を続ける。出来るだけ穏やかに話すよう心掛けながら。
「…ああ、問題ない…」
俺の気遣いが伝わったのかは分からないが、男性はやっと返事を返した。
「では、私は少し食べ物でも調達してきますね」
「待ってくれ、俺一人になるのか?」
「そうですね、一時間二時間探し回る訳でもないので、一旦ここで待機して貰う形になります」
「そう…か… 」
少し不安そうな顔の男性を横目に聞く。
「あの黒い手が来ないか心配ですか?」
「……」
沈黙。
だが、この場合沈黙は肯定だ。つまり、この男性は、不安だから自分も連れていって欲しいと、考えているのだろうか?
考えを巡らせ、連れていくことに対して脳内会議をしていると、沈黙に耐えきれなくなった男性は話し始めた。
「無理にとは言わないが、俺も一緒に連れてってくれ」
少し覚悟の籠った目をしている。
「ええ、良いですよ。断る道理もありません」
俺の返答に安堵した男性から、唐突に自己紹介をされた。
「俺はショウジ、寺田ショウジって言うんだよろしくなクールな姉ちゃん」
緊張が溶けて、幾分フランクな喋り方になったショウジさんに、敢えて表情を変えず返す。
「ええ、よろしくお願いします。私は氷見クオンと申します」
因みに何故こんな話し方をしているかと言うと、八方塞がりの状況に絶望した時に思考が色んな方向に飛び、最終的に助けた男性が起きたらナナちゃんを真似て会話をするという遊びを思い付いた為だ。
「氷見…クオン…。おっし、わかった。これからよろしくなクオンの姉ちゃん!」
ニカッと笑い、やる気に溢れたショウジさんが立ち上がる。それに続いて俺も立ち上がり話す。
「取り敢えず今晩の食事を取りに行きます」
「おおー!!」
ナナちゃんロールプレイが楽しい俺は、仲間達を探しながら、ショウジさんでもう少し遊ぶことに決めた。




