19.
危なく、年下の子からお金を借りる話しになるところだった俺は、一刻も早くその場から立ち去るため適当言って出掛けたのだが。
最大の忘れ物に気づいて回収しに来た所だ。
そう、マツリを忘れていた。あの名も知らない少年が騒ぎを起こしてくれたお陰ですっかり頭から抜けていた。
というか、着いてきているものだと思っていた。
ナナちゃんのもとから逃げるために各部屋を見回っていて気づいたのだが、マツリはあの館に居ない。
なので多分、少年を捨てた裏山か、元拠点の廃工場のどちらかに今もいるかもしれない。
いや、精神が安定して自力で動けているのなら良いのだが、そうでなければ今頃腹を空かせているかもしれない。
まずは裏山から探しに行く事にして変身し、ものの数分で着いた。
「マツリ…いる…?」
恐る恐る確認するが、件の少年も姿を消しているしマツリも居なかった。
少し安心した。まあ、放置した奴がどの口でって感じだが、それでも心配は心配だ。
「次は、廃工場か…」
脚に力を込め廃工場に向かう。然程遠くないのですぐ着く。
「マツリ…いる?」
入り口から中を覗き込み確認する。暗くて良くは見えないが見える範囲には居ない。
中に入りくまなく探す。
建物の中にはおらず、倉庫に向かう。
この廃工場の倉庫は非常時の食料庫として置かれていたため割りと大きい。少し重めの扉を開き、中を確認する。
「クオン?」
日の光を受け、目を細目ながらこちらを見るマツリ。良く見ると所々怪我をしている。何があったのかは分からないが、その傷を見て罪悪感が溢れる。
「マツリ…ごめん…。置いて行っちゃってごめん!」
その場で頭を地面に付け謝る。そんな俺に掛けられた言葉は怒りでもなんでもなかった。
「クオンのせいじゃないよ?アタシ、襲われたの。所属から抜けようとした罰として…。それでボコボコにされてここに突っ込まれてたんだ…」
「ごめん…。私が早く来てれば…」
「ううん、無理だよ。だって今日までアタシの事を知っている人の記憶が改竄されてたから…」
「え…?」
「でもね?嬉しかった…。最初に気づいてくれたのがクオンで本当に嬉しかった…」
マツリの言葉に嘘はなく、ただ嬉しいと言う感情が込められていた。
「ねぇ、クオン?」
「なに?」
「アタシ、帰るとこ無くなっちゃった…」
これまで洗脳を施され生きてきたマツリ。歪な物とは言え唯一の心の支えが壊れ、頼る者も居ない。そんな子を記憶改竄されたとは言え忘れた俺に出来ることは…。
「おいでよ、うちに」
傷だらけの体に触るのは可哀想だったが、それでもこうしなければ何処かに行ってしまいそうで、つい抱きしめた。
「あり…がと…」
すすり泣くマツリを、安心させるように抱きしめる。
今回の事で、理解した。俺は魔法に対する防御が弱い。そして、目下知識が要ると。




