7.
ドクドクと流れる血を見て、意識が飛びかける。
それを歯を食い縛り、耐える。流れすぎた血のせいで思考が纏まらない。数分持つか分からないレベルだ。
「…変…身」
思考が纏まる一瞬、気合いで変身する。
回復や防御に優れた騎士スタイルに変身した俺は、止血と平行して脚の結合を急ぐ。
脚の向きを合わせ、しっかりと押さえ付ける。
「痛った!!!」
思わず口から叫びが出るが、気にしていられない。痛みが引くまで回復をし続ける。
一分、まだ治まらない。五分、まだ治まらない。十分、まだ治まらない。十五分、まだ。二十分、まだ。二十五分、まだ。三十分、まだ…。
どれくらい時間が経っただろう。脚痛みは消え、感覚はまだ鈍いがしっかりと神経が繋がっているのがわかる。傷跡は残ってしまったが動くなら気にならないので、まあ良しとする。
マツリの方を見るとまだ呆然としている。
俺の脚を斬ったのがそんなに堪えたのかは分からないが、とても危険な精神状態だとは思う。
「…マツリ?」
「…」
「聞こえる?」
「……」
俺個人の話として、マツリを嫌ったりはしていない。脚を切られてもう少しで歩けなくなる所だったのは分かっているがそれでも何故か、嫌いになれなかった。
なので、もし助けが必要なら助けるつもりだが。流石に対価無しは、マツリのやったことに対してフェアじゃないので貰うけど。
「ほら、マツリが切ったとこくっついたし、動くよ。大丈夫だよ」
「……」
相変わらず喋らないが、ようやく頷いた。
でも、視線は太ももの傷に向かっている。
「ほら、取り敢えず移動しよう。日も落ちてきたしさ」
「…うん」
ようやく話した…。なんでこんなに情緒不安定何だよ。人の脚切って病むのは流石に勘弁だぞ。
マツリの精神状態が全く分からず、苦労している俺に誰かが声を掛けてきた。
「お、クオンか。ちょうど良い、探す手間が省けた」
久しぶりに近くで聞く声に振り向く。
「久しぶり、スレイヤー」
「うむ、数日振りなだけだから久しぶりと言う程でもないがな」
「確かに」
「クオンの方は変わり無いのか?」
「あー、まあ、たぶん?」
「何だ?歯切れが悪いな。そこの娘と関係があるのか?」
「うん、そうだね。スレイヤー、実はね…」
これまでの経緯と、状況を話した。
「成る程、そんなことになっていたのか」
「うん。彼女、なんかスッゴい精神状態が不安定でね。困ってる」
「精神状態の方は我に心当たりがあるぞ」
「え、マジ?」
「うむ、マジ」
スレイヤーの説明によると、マツリは精神支配が不完全にされていて、重度の洗脳状態と素面を行ったり来たりしているらしい。
「元々は精神の強い方だったのだろうな」
「前みたいに魔法を切ったりとかは出来ない?」
「無理だな、そもそも魔法ではないぞ」
「つまり?」
「単純な薬物投与と言葉による洗脳だな」
そっちか~。
最悪だ、魔法なら俺もスレイヤーも斬れるが、薬物投与とかは専門外。
「何とかならない?」
「何とかと言われてもな…。と言うか、クオンは気にしていないのか?」
「え、脚を切られた事?」
「うむ、敵意を持って襲ってきたなら、理由があれどクオンが助ける必要もないだろ?」
確かに。スレイヤーの言っている事は理に適っている。
「いや、気にしてないかって言われたら多少はむかっ腹も立つけど、だから助けないは別問題じゃない?」
「そうか?」
「うん」
「そうか。クオンが決めたのなら良しだ、我も気にせん」
「ありがと」
助ける前提で話を進めているが、方法がまだ見つかってない。
「ねえ、スレイヤー」
「何だ?」
「何か方法、知ってるでしょ?」
「仕方ないか…。しかし、方法と言っても確実性もないし保証もないぞ?」
「いいよ」




