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6.

 首に鎌を当てられたまま、十分以上が経った。


「まだ~?」


「…」


「はぁ~、だんまりは飽きたよー」


 マツリが、俺の首に傷を着けてから一言も口を利いていない。なので、マツリは不機嫌になっていた。


「首、縦に振るだけでいいんだよ~」


「…」


「あのさ~アタシ、命令でなるべく傷を付けるなって言われてるけど~。少しくらいなら痛め付けてもいいだからね?」


 その言葉と共に、鎌が動き首の傍を離れる。


 直後に広がる鋭痛。


 自分の足を見ると、太ももにグッサリと刃が刺さっていた。


「ぐっぅ……!」


「耐えてんの?じゃ、もう一回」


 真っ直ぐに刺さった刃を横に捻り抜く。その動作だけで、さっきの倍以上の痛みが走る。だが、抜かれた鎌はもう一度、狙いを定め振り下ろされる。


 避けるために横に飛ぶが、傷の痛みに動きが制限され、横に倒れただけだった。


 そして、無慈悲に下ろされた鎌は足首に刺さり、腱や骨に傷を付けていく。


「ぁ…!」


「あは、いいねその顔!」


 瞳孔まで開いたような目で、俺を見ながら傷から鎌を抜く。


「もう一回、聞くね?アタシ達の仲間になる?」 


「…はぁ、はぁ…なる…わけ…ねぇだろ!」


「……」


 ストンと感情が抜けた表情で鎌を振り下ろす。


 スパンッと言う音が響き、何かが切れた事だけを伝えてくる。体から熱が抜ける感覚、前に味わったナナちゃん救出のときとは違い、明確にわかる。


 そこでようやく、体に何があったかを知る。


 付け根から斬られた脚、吹き出た血に濡れうっとりとするマツリ。痛みはまだ来ない。強烈な熱とそれとは違う熱が抜ける感覚。


 恐怖だった。


 俺の顔は今、どんなだろう?


 きっと恐怖に歪んでいるんだろう。


「あー、脚斬っちゃった…」


 声が聞こえる。だが、脳が追い付かない。体の傷と、目の前の存在に対する恐怖。


「でも、しょうがないよね?クオンが抵抗するからだよ?アタシは優しくするつもりだった…。なのに、受け入れないクオンが悪いんだよ?ねえ、聞いてる?アタシ悪くないよね?」


 目の前で、マツリが言っていることが頭に入る。


 そして、マツリの目を見る。そこにあるのは優越でも怒りでもなく、怯えだった。それはきっと俺を斬ったことに対する罪悪感。そして、自分が途中、楽しんでいたことを否定したいが為の言い訳。


 マツリが少しだけわかり、怯えるのが馬鹿らしくなった。


 精神がうまく安定せず、折り合いを付ける形で生きているのがマツリなのだろう。何がトリガーかは、自分でもわかっていないのかもしれない。


 そう思うと少し可哀想だ。


 敵意の無くなったマツリを放置し、傷口の手当てを始める。


 脚ってくっつくのかな?


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