5.
「おーい、聞こえてる?そこのツインテの君だよ?」
聞こえてはいるし、話し掛けられているのも理解している。だが、彼女の横に浮かぶ鎌が刃をギラつかせ返答次第では斬り掛かると意思を伝えてくる。
変身してなかったのは握手だったな…。そう思っても遅いが、ついタラレバを考えてしまう。
「私はクオン、返答に遅くなってごめんなさい」
「おお、聞こえてた~。クオンね覚えたよ!」
「貴女は何て言うの?」
「あ、ごめん。名乗り忘れてた~!アタシは神宮寺マツリ、魔法少女ハンターをしてるの!」
魔法少女ハンター?
ヤバくないか?
警戒を深め疑問を頭に浮かべる俺に彼女は慌てて訂正する。
「あー!違うの!えっと、ハンターって言うのはー、うーんと…しかと?的なことをする人の事らしくて…」
しかと?
「スカウトの事で合ってる?」
「そうそれ!天才じゃん!」
アホの子だ…。
俺の中で神宮寺マツリを用警戒対象から警戒対象まで落とした所で、首筋に冷たい感触が伝わった。
「つめたっ!」
「動かないでね?」
耳元でする声に驚き、下がろうとした俺をマツリが背中に手を回し止める。
衝撃で動いた首に鋭い痛みが走る。
「いっ……は?」
首を囲む様に鎌の刃が置かれていた。
動けば死ぬ。その予感に間違いはないだろう。この場から逃げろと頭は警鐘を鳴らす。だが、動けば死ぬのだ。この矛盾に体は行動を止めこの状況の元凶を睨む。
「ごめんね?聞きたいことがあってさ」
「人に物を聞く時はもっと穏便に話をするものじゃないの?」
「あは、確かに~!どうでもいいけど…。そんでさ、クオンは魔法少女だよね?」
どうせ目星は着けていたのだろう。そもそも、最初に落ちてきたのだって俺を狙っての事だろうし、どう答えても満足の行く答えを得られるまで終わらないだろう。
「はぁ…変身は出来るよ」
「じゃあ、魔法少女だよね?」
「違うらしいよ」
「どゆこと?」
「変身して見せようか?」
「いや、いいよ。だって逃げるでしょ?」
クッソ、駄目か。行けるかと思ったが案外警戒しているらしい。
「諦めてくれた?じゃあ、お話ね」
「…」
「つれないな、まあいっか。あのね私の所属する団体に入ってくれない?」
「きょひ……権は無いんだね?」
あっぶねぇ~。拒否って言おうとしたら鎌が動き出したぞ!?
対話をする気はない、つまりこれはアレだな?言質を取って契約を結んでしまえって戦法だな?
確かに、脅して言わせても承諾したことに変わりないのか。ヤダな~そう言うの。エロ同人の導入みたいじゃん。はぁー、俺は純愛じゃなきゃアレルギー出るんだからやめてくれよ。
「拒否権は無いね。ごめん、先に言っとけばよかったね?」
「ホントにな」
「あは、その鎌の説明もいる?」
「要らない。どうせ、特定の言葉に否定の意思を見せれば首を跳ねるとかでしょ?」
「正解ってことでいいよ~」
正直、強がっているだけで詰みに変わりはない。どうしたもんかな?
「ねぇー、早く首を縦に振ってよー。時間は有限なんだよ?」
ニマニマと煽るような笑みを浮かべ、鎌を揺らし、俺の首の薄皮を斬る。
「完成~!傷口チョーカー!かわいいね~」
鎌の刃に反射した俺の首には、赤い線が一周していた。




