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31.救命

 スレイヤーに言われた通り、刀を構え合図を待つ。


 集中して、段々と視界の色が抜ける。


 スレイヤーと怪人の動きが、スローになって流れる。今なら何でも斬れると思える程に動きが見え始めたその時、合図が来る。


「クオン、今だ!」


 最速とも言える反射で刀を抜く。


 これまで俺は、自分の力を上手く扱えていなかったのだと理解する。俺の体に着いた具足が真に俺を主と認めたような感覚が走る。


 全能感とも呼べる感覚を味わいながら振り抜いた刀を鞘に納める。プシューと言う音を立て鞘が振り抜いた刀の冷却を行う。


「スレイヤー、あの人達は?」


「少し待て、確認する」 


 スタスタと確認に行くスレイヤーを、追い掛けようと足を踏み出す。すると、踏み出した足が言うことを聞かず、膝から崩れ落ちる。


「クオン、成功してい…た…ぞ…!?どうした、クオン!!」


「だい…じょう、ぶ…私の体が…全力に…はぁ…耐えられなか…った…の…」


 声を出すのも億劫で、体に力が入らない。目を瞑ったら、そのまま意識が飛びそうだ。


 まだ、ダメだ。ナナちゃんの無事を確認にしなきゃ。後、あの自称天才も捕まえなきゃ。


『度々、こんばんは。クオンちゃんとスレイヤーちゃん?』


 最悪だ。俺は満身創痍、スレイヤーはまだ行けそうだけど俺を守りながらだとヤバイかも。撤退も視野に入れないと…。


『大丈夫、何もしないよ。僕は君達を褒めに来てあげたんだ』


「は…?」


 俺は、ついそんな声をあげてしまった。スレイヤーは、声をあげたりはしなかったが俺と、心境は似たような物だろう。


『いい反応だね。それはいいとして、何を褒めに来たかって謂うとね…。その実験体を殺さずに助けたことだよ。もしかしてソイツ等が君達の大事なナナちゃんの両親だって知ってたの?』


 は?嘘だろ…?


 スレイヤーは納得した様子だが、キレてはいるのだろう。腰の剣に手がかかっている。


 俺は最初に、殺さなくて良かったと言う安堵。それから怒り、と少し忙しい情緒になっていた。しかし、体は動かないので声のする方向を睨む。


『うんうん、それぞれの反応ありがとう。人に話を聞かせる時はこうでなきゃね。最近の人は話をしてるとすぐに遮ったりするから嫌だよ…まったく』


 ぶつぶつと早口で何かを言い始めたので、わざとらしく溜め息を吐く。


「はぁ…」


『うん?ああ、ごめんごめん。そこの実験体の話だったね。何処まで話したっけ……ああ、そうそう。それは瑞帆ナナの両親だってとこまで話したよね。ソレね何処で知ったんだか、僕達の外には出せない研究の資料を持ってきてさ、娘に何をさせてるんだ~とか言って突っかかってきてね。あれが家族愛なのかな?馬鹿みたいだけど。本当に愛してるなら僕達の研究に使われる事を光栄に思うべきだよね。それに、瑞帆ナナの妹は怪人になったんだ。それだけで罪があるよ。だから、僕が有効活用してあげる事によって罪を清算出来るって言うのに何で分からないのかな?』


 殆ど息継ぎなしで喋りやがった。長い、早い、内容がキモいの三拍子揃ってる。聞くに堪えない最悪の内容だ。何が罪だ、何が有効活用だ、ナナちゃんの妹だって怪人になったのは理由があるはずなのだ。ナナちゃんは正義感の強い子だ、そんな子が大切にしている妹だ性格最悪とかではないと俺は思う。


『まあ、瑞帆ナナの妹、瑞帆サツキは僕が怪人にしたんだけどね!』


 「ど…うし…て…!」


『だって、僕が愛してやったのに断ったから。でも、見て欲しかったよ怪人になる瞬間のあの恐怖に歪む顔、最高に面白かったよ!!僕の愛を受け入れればあんなことにはならなかったのに、バカだよね』


 「ふっざ…けん…な、バ…カ…野郎…!!」


『おお、怖い。僕は退散しようかな。あ、そうだな、それはあげるよ倒せたご褒美ね。僕もう要らないし。じゃあね』


 それっきり声はしなかったが、ナナちゃんの両親が詰められていた箱から音がした。


 だが、俺とスレイヤーは一言も発しない。


 沈黙が続く。


 ゆっくりと口を開く。


 「スレイヤー、肩かして」


 「わかった」


 沈黙の間に多少回復して、話す程度なら出きるようになった俺は、スレイヤーの肩を借りてナナちゃんの両親が詰められていた箱の中を見る。


 子供一人分の大きさのプレゼント箱があった。リボンを外して蓋を開ける。中には恐怖に顔が歪んだ少女が一人、詰められていた。辛うじて息をしているのは分かる。状況的に見てナナちゃんの妹、サツキちゃんだろう。


 沸々と怒りが沸く。アイツや、それを良しとする魔法連盟に対して腹が立つ。


 ギュッと拳を握り耐える。


 「クオン、血が出ているぞ。少し力を抜け」


 スレイヤーの言葉に手を見る。拳を握った時に爪で肌を破いてしまったようだ。


 「ごめん、ありがと」


 頭を切り替えナナちゃんを救出する為に動く。何とか肩を借りなくても動ける様になった俺に、スレイヤーがニヤリと笑い話しかける。


 「クオン、朗報だ」


 「どうしたの?」


 「ナナの居場所がわかったぞ!」


 光明が射した俺達は、ナナちゃんの妹と両親を抱えて走る。俺は妹ちゃん、スレイヤーが両親と言う分担だ。


 限界を迎えた体だが俺の足取りは軽い。ナナちゃんに家族と再開させるんだと意気込みナナちゃんのいる場所へ急ぐ。




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