30.最悪の発明 後編
胸に突き刺さった手に血が伝い落ちる。
激しい痛みが体を駆ける。しかし、それを上回る驚きで痛みを忘れた。
今、戦っている敵は何なのか。姿を見た後でも脳が理解を拒む。次第に理解し始める頭、それでもと、別の解答を探す心。相反する行動に気分が悪くなる。
胸に刺さった手を無造作に抜かれ吹き飛ぶ
そうだ、スレイヤーはどうしたんだろう。
そんな疑問と共にスレイヤーを見る。すると、動揺も何もなく、最初から知っていた様な反応だった。
「す、スレイヤー…」
「ああ、知っていた」
「な、何で…」
「何故言わなかったのかと聞きたいのか。簡単だ、お前は最初からコレを知って戦えたか?」
「……」
「無理だろうな。人為的な怪人化なんて相手にできない。それも、人の形を大部分に残したモノと来れば当然だ」
押し黙るしかない俺にスレイヤーは続ける。
「それで、クオン。お前はこれからどうしたい」
「え…?」
「だからだな、我はこう言っているのだ。救う方法はある、まだ絶望するときではなぞと」
こんな姿の人間は見たこともないし、救えるとは思えない。何故なら、手足が逆向きに生え、怪人の頭と人間の頭が枝分かれするように生えているのだ到底、核の人間は絶望的状況だろう。
だが、スレイヤーは言うのだ。救えると、その言葉を信じるのなら俺とスレイヤーの前に立つ女型と男型の怪人は助かるのだ。
「どう……すれば…いい」
まだ、ショックが抜けない。しかも俺は絶賛大怪我中だ。変身をしているからなのか、身体は修復を始めている。
「急かすな、先ずは傷を癒して体勢を立て直せ。話しはそれからだ」
ジワジワと治る傷に意識を向けて力を注ぐ。武者スタイルの方で出来るのか不安だったが、何とか上手く行ったようだ。傷の治りが少し早くなる。後、数十秒で胸を貫通しかけた傷が塞がる。とんでもない治癒能力だ。
傷の回復に専念していると目の前で音が響く。
「クオン、コイツらの足止めは割れがやる。だから、お前はそのまま話を聞け」
「…わかった」
「手短に言うぞ。お前のその変身は怪人化の先にある一つの完成形だ。そして、そのスタイルの時は特に切断と分離に特化している」
「私、怪人なの…」
「ああ、半分そうだな。だからこそコイツ等を救えるのだ」
「まあ、それならいいか…。それで、方法は?」
「助けたいと思いながら、その刀の全力でコイツ等を斬れ」
「え、死んじゃうよ?」
「大丈夫だ」
スレイヤーの目が本気を伝えてくる。どっちにしろ俺には解決策が無いので、やるしかない。
「わかった…やるよ」
「我の合図で斬れ」
「うん」
足の震えは無い。絶望もない。ただ、彼等を救いたい。今なら曇り無く言える。
「今、助けるよ…!」




