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21.結局、風味が違うだけ

 オウカちゃんが少しだけ動いたのが見えた。


 気のせいかと思った。


 肩の傷を抉られる痛みに耐えながら、オウカちゃんを注視する。さっきまでは俺は焦りと後悔で目が濁っていた事を自覚する。


 しっかりと動いていた。胴が、少し浅いが上下している。息をしている証拠だ。オウカちゃんが生きているそれだけで十分だ。


 力が、体から溢れる。ジリジリと肌を焦がす様な力の奔流。


 間近で食らった傷を抉っていた怪人は、吹き飛ぶ。だが、しっかりと空中で体勢を立て直し着地する。先程の遊ぶような残虐さは消え、こちらを警戒し隙がない。


 やっぱりコイツは強い。力が溢れてきても、今の状態じゃアイツに分がありすぎる。どうにかオウカちゃんを拾って撤退、もしくはオウカちゃんだけでも逃がす。最優先は討伐ではなく撤退、それを念頭に置き動き出す。


 怪人の真似をするように、遅れて俺も飛び退く。直後に、倒れていた場所に剣が刺さる。怪人が警戒しながら牽制をしてきたのだ。


 そのお陰で、オウカちゃんの横まで跳んでこれた。オウカちゃんの状態を確認する。刺し傷等は無いが、左腕が捻り折られている。その傷を見た時再び頭に血が昇る。


 冷静に、と自分に言い聞かせる。だが、心が落ち着かず怒りで心拍数が上がり、右肩の傷から血が吹き出る。


 手を当て傷を押さえると不思議な事が起こった。左手を当てた場所から心地好い冷たさが広がり傷を凍らせた。そのままバキッと割れ、傷が治った。


 俺はこの西洋の騎士スタイルの戦い方を今、やっと理解した。敵を凍らせ砕くのは本来の用途では無かった。この氷、本来の用途は傷の修復と保護。武者のスタイルが一撃必殺ならこちらはゾンビ戦法。


 死ななきゃ安い、を地で行く紙装甲アタックヒーラーなのだろう。


 俺が気付きを得ていると、怪人は驚いたように言った。


「裂傷ヲ一瞬デ直シタノカ…?」


 怪人が喋ると思っておらず、予想外すぎて言葉を失う俺。しかし、怪人はそれに気付かず言葉を続ける。


「オマエノ能力ニ敬意ヲ払イ、名乗ロウ」


 スッゲー片言なのに、言葉の内容は頭に入ってくる。気持ち悪い感覚だ。


「コノ姿デハ名乗リズライナ」


 体に力を入れ、人型怪人は剣を一振する。すると、これまでの怪人としか言えない様な見た目から限り無く人間に近い体になる。


「これで、名乗りやすくなったな。我が名はスレイヤー、お前の名は?」


 突然、流暢に話し始め面喰らっていると、名を名乗れと言われた。


 てか、怪人て喋れんの?


 疑問は山程、湧いてくる。でも、ここはグッと堪えて名乗ろう。


 「私は氷見クオン、ハグレの魔法少女よ」


 「氷見クオン…覚えたぞ。だが、魔法少女?おかしいな、お前の力は我々に似ているが?」


 え、俺の変身て怪人寄りなの?確かにスレイヤーも騎士っぽい鎧着てるし似てるけどさ~。最悪の事実なんだけど。魔法連盟に加入とかもう無理じゃん!元々する気は無いけど。


 でも待てよ、これって好機じゃないか?


 元怪人のオウカちゃん、怪人寄りの変身をする俺。この二人で第三陣営を名乗れるようにならないか?いいね!!


 そうと決まれば先ずは、大事なことをスレイヤーに聞かなきゃならない。


 「おい、カエル擬きが食った人はどうした?」


 「うん?人間は全員無事だぞ。我は殺しはしない主義だ」


 「怪人の核になった人は?」


 「それも一緒に全部まとめて倉庫に突っ込んだぞ?」


 成る程、コイツ誰も殺す気が無いのか。だから俺もオウカちゃんも生きてる。でも絶対に性格は悪い。


 「おい今、性格悪いとか思っただろ!違うからな、お前の事をいたぶったのは戦いから身を引かせる為でだな!」


 何か、さっきまでは命のやり取りしてたのにどうでも良くなってきた。取り敢えず、オウカちゃんの傷治そ。


 オウカちゃんの左腕に触れ治す。表面が凍りバキッと割れる。傷痕一つ残さず治せた。この力は便利だな、ムッチャ疲れるけど…。


 「む、その娘は大丈夫なのか?」


 「やったのはお前でしょ、何で心配してんの?」


 「うっ…。その、だな。怪人の力が色濃く残っていたからそれ相応の力が有ると思ってな。お前と戦う上で、その娘まで参戦されたら加減が出来なくなりそうで、魔法少女にやるような無力化をしたのだが、まさかただの人間だとは思っていなかったのだ…。すまない…」



 頭の鎧を外し頭を下げるスレイヤー。本当に申し訳なく思っているのだろう。確かにオウカちゃんは怪人になってから間もないから、怪人同士だと誤認するのかもしれないが、これを許す許さないは俺が決めることじゃない。


 それにしても、スレイヤーって可愛いのね。スッゲー美人出てきてびっくり。金髪のキリッとした目のザ・騎士って見た目の美女。


 「オウカが起きてから謝って、私にその謝罪はいらないから」


 スレイヤーが頷き、沈黙が広がる。ならば、聞きたいことを聞いておこう。


 「スレイヤー、もう戦わないの?」


 「うむ、戦う必要が無い。いや、無くなった」


 「何故?」


 「お前は強い、そこのオウカ…と言ったか?その娘も強くなる。ならば、我が心を折って止める必要も無かろう」


 「これまで魔法少女を再起不能にしたのは誰?」


 「二割程が我、後は我と同格の者達だ」


 確信に至った。スレイヤーはナナちゃんが言ってた規格外の怪人の一体だ。道理であんなに強い訳だよ。


 「目的は?」


 「我らは、平和を望む」


 「魔法少女と協力は出来ないの?」


 「無理だな、魔法少女はともかく魔法少女を囲う組織が信用できない」


 その意見は激しく同意する。魔法連盟は信用ならんよな。けど、組織って言った?もしかして全部の組織が胡散臭いの?マジか。


 それは置いといて、今最も気になる事をスレイヤーに聞く。


 「スレイヤー達の核となった人間はどうなったの?」


 「あー、どう話したモノかな」


 「話せないなら無理には聞かないよ」


 「うむ、そう言うのとは少し違う。説明が難しいのだ。端的に言うと我等は皆、少しずつ差異があるが一ヵ所だけ同じ部分がある」


 「それは?」


 「それは、核となった人間がいないことだ」


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