20.シロップはブルーハワイ派
朦朧とした意識の中で、自分の状態を確認する。
息をする度、少し痛む。肋骨にヒビでも入ったかな。全身を確認するべく腕に力を入れ、立ち上がる。だが、腕に激痛が走り体を支えれられない。
体勢がうつ伏せなせいで確認しづらいが、右腕に力が入らない。加えて、さっきの行動で脳が怪我を認識したので断続的な痛みが襲っている。
体の状況を確認した私は、記憶の方に異常がないか確認する。
確か、さっきまでは……。氷見さんがカエル擬きを凍らせてた。その後、どうなったんだっけ?
うーんと、顔色を悪くした氷見さんが心配になって、近寄ったんだよね。でも突然、目の前が真っ暗になって気付いたらこうなってた。
て、事は氷見さんが危ない!!
無事を祈りながら、顔を少し上げ辺りを見る。すると、少し先に髪の束が見えた。
氷見さん!!
髪束を追って氷見さんを探す。
その先で私は、肩に剣を刺されながらこちらに向かって這う氷見さんを見た。
「…おう……か…ちゃん……!」
途切れ途切れの言葉。私の名前を呼んでいる。私の傷より氷見さんの傷の方が重傷だ。だが、彼女の目には映っておらず。ただひたすらの後悔が映っていた。
私は氷見さんを誤解していたのだろう。彼女は強くて、誰の手も借りずに生きれる類いの人だと思っていた。
それは間違いだった。氷見さんだって人なのだ。それもとびっきりお人好しの類い。
私は、氷見さんにどうにか生きていると伝えようと体を動かす。さっき立ち上がろうとした時と同じ様に、体は動かず痛みが走るだけ。
それでも、私は体を動かそうと痛みに耐える。
出会って間もない私を、こんなにも大事に思ってくれていたのだ。そんな人に絶望してほしくない。そんな思いに応えるように、少しだけ体が動く。
震えた程度の動きだった。伝わるかは賭けだ。
祈るように氷見さんの顔を見る。
驚いたような、安堵するような、そんな顔をしている。伝わったんだとわかる。悲しみで貯まった涙だったが流れる意味は変わっていた。
ああ、良かった。同姓の私ですら綺麗だと思った人に、悲しみの涙は流してほしくない。私も安堵したようで、少しづつ意識が薄れる。体はとうに限界を迎えている。
薄れゆく意識の中で、膨大な力を氷見さんが放出するのを見た。
ああ、起きたら精一杯の手料理を振る舞おう。




