16.食料の危機
暇だ。猛烈に暇だ。何はともあれ暇だ。
やることがないのだ。オウカちゃんが家事をやるようになってから数日、俺は本当にやる事が無い。腹が減ったら何故か、タイミングよくご飯が出てくる。眠いなと思ったらもう寝袋がセットされている。至れり尽くせりで大変満足なのだが、今度は俺が罪悪感を感じ始めたところだ。
「オウカちゃん、何か出来るコト無いかな?」
「ああ、氷見さんは座ってて良いよ。全部私に任せて!」
「あ、うん…。ありがとう、助かるよ…」
ほらね?こんな感じで断られるのだ。確かに、俺が罰としてと言ったが、ここまでストイックにやらなくてと良いと思う。
それにしてもオウカちゃんは自分が戸籍上の話とは言え死んだ事になっているのに平気なのだろうか?家族にも死んだ事になってるのは、俺だたったら耐えられない気がする。
今の俺は、前世の自分の名前も家族の名前も思い出せないが。
それはいいとして、取り敢えずそれとなく聞いてみようと思う。もし、気にしているのならソレの解消も今後の目標になる。
「オウカちゃん」
「うん?どうしたの氷見さん。お腹空いた?それとも埃とかあった?直ぐ行くから何処か教えて~!」
「あ、いや、そうじゃないんだけど。その……寂しかったりしないかな~と思ってきいてみたんだ…」
「寂しい?……ああ!家族とかって事かな?」
「うん、その……戸籍上の事とか…」
「うーん、何て言うかな?あんまし気にしてないんだよね~。こう言ったら変だけど今はナナちゃん?って子に謝って償いたいと思ってるんだよね。そっちの方が最優先!って感じだから家族とか他の事は一旦横に置いてるかな?」
成る程、オウカちゃんの中ではナナちゃんを傷付けた事が結構比重重めになってるのか。まあ、そのナナちゃんは俺のことおもいっきり蹴ろうとしてたけどね。ついでに言えば、俺らの仮住まいの横っ腹に穴空けたのあの子だけどね。
取り敢えず、目下の課題はナナちゃんとオウカちゃんをもう一回会わせてオウカちゃんの蟠りを解消する事だな。それと風呂。
「あー氷見さん…。真面目な話の途中でゴメンなんだけど…。ちょっと別の話をしても言いかな?」
「うん、こっちの話は、オウカちゃんの意思が確認できたらそれで良いから、もう大丈夫だよ?」
「それなら、コホン。非常食の残量についてなんだけどね?あと一週間ちょっとかもしれない」
非常食が無い?
そんなはずはない。裏手の倉庫にタンマリ入っていた。俺もオウカちゃんも食べる量は大したこと無いはずだ。そんな俺の疑問に答えるように、オウカちゃんが口を開く。
「六割くらいかな?今朝見たらゴッソリ無くなってたんだよね…」
「盗まれたって事かな?」
「たぶん…。氷見さんは使ってないでしょ?」
「うん、お……私は使ってないよ?」
あっぶな、テンパりすぎて自分の事を俺って言うところだった。焦るとつい男口調になるな、気を付けないと。
それにしても、非常食を盗まれたのか…。しかもアレの六割って言うのは相当だぞ?
複数犯か?それよりも、今後の食料問題の方が心配だな。俺は、最悪食べなくても結構な間持ちそうな気はするが、オウカちゃんは高校生だし成長期だ。食べないと辛いだろう。
食料調達を何処で行うか思案していると、オウカちゃんの顔色がどんどん悪くなっていくのを見た。
「オウカちゃん、調子悪いの?」
何だか外が煩いがそれよりもオウカちゃんの体調の方が大事だ。
「氷見さん!に、逃げよっ!!」
「逃げる?なんで?」
「こっ、コレ!このサイレン!怪人が出た時の避難警報だよ!!しかもかなり危ない怪人のときの!!」
あー、煩いとおもったらそう言う事か。学校の避難訓練とかで聞かされるのかな?その辺全然分かんないけど、一つだけ明確なことがある。
俺とオウカちゃんは避難できない。
何故なら、もう怪人に目をつけられているから。