10.対策と方針
紅と灰が特徴の魔法少女を取り逃した後私は、少しの間呆けていた。
数分後、突然の着信で正気に戻る。
「はい、瑞帆です」
『あ~、とりあえず怪人退治お疲れ~』
女性のような声で気だるげに話す声。魔法連盟のNo.2で、魔法少女の管理をしている人だ。そして、この人も魔法少女だ。
「ありがとうございます。それで、核となった人はどうしますか?」
『う~ん、ほっといていいよ~。どうせ起きないしね』
「で、ですが!元は人間ですし、今は怪人ではありません!」
『え~、瑞帆ちゃんは優しいね~。怪人になるような人間だしロクなもんじゃない気がするけどね~』
「更正の可能性もあります!」
『いや~、ダメだね。そのまま放置しといて後でこっちが回収するから~』
「……」
『ちなみにコレ、命令ね?』
「っ……はい、わかりました……」
『うん、素直が一番だよ~。聞き分けよくて助かるね~』
毎度、この方針は嫌になる。怪人だって元は人間だし、核になった人は必ずしも死ぬ訳じゃない。事実として怪人化した人が意識を取り戻したケースもあるのだ。
しかし、大半が脳死状態であることもまた事実だ。
何よりも私が気に入らないのは、怪人化した人の大半が魔法連盟に回収され、遺族には怪人災害で死んだと伝えられることだ。
遺体すら渡されず、中身の無い棺を前に涙を流す遺族を見た時、私は真実を打ち明けようとした。しかし、魔法連盟はそれにすら手を打っていた。
魔法的な契約を連盟加入時にかけられるのだが、そこにこう言う事態の口外を防ぐ内容もあったようだった。
考えてもしょうがないことだと、やりきれない気持ちを圧し殺し、私は自分の目的を思い出す。
「そう言えば、先程の怪人との戦闘中に覚醒者と会いました」
『えぇ~、それはすごいね~!』
嘘臭い大袈裟な反応をしてくる。今回のは知られていたようだ。私達魔法少女が変身中に見たものは基本、魔法連盟にも伝わる。これも契約に入っていた。
しかし、魔力の歪みや過剰な攻撃を受けると一時的に契約が薄れる事がある。なので過酷な戦闘後は見た物や聞いた物の報告が義務とされている。
ちなみに報告は義務だが強制力は無い。けれど、有用な情報を持ち帰ればお金や物が貰えるので余程の事情が無ければ皆報告する。
魔法連盟からの信用も得られるので一石二鳥だ。
「…情報は届いていたようですね」
『あはっ、ゴメンゴメン。瑞帆ちゃんが良い反応するからついね~』
「では、これで失礼します」
そう言って通話を切ろうとした私に慌てた様子で話しかけてくる。
『あ~!ちょっと待って!?』
「何ですか?私から出せる情報はもうないですよ?」
『あの~、その、実はね~。あの子が魔法?を撃ったときにね一時的な契約の破損が見つかってね』
「は?魔法少女の攻撃では契約の一時的な薄れすら無いと言っていませんでしたっけ?」
『アハハ~、私わかんな~い』
「キッツ、歳考えてください」
『え、瑞帆ちゃん?酷くない?私まだ20代だよ?』
「20代後半でしょ?」
『うぐっ…やめよ、この話。それよりもあの子の事聞かせてくれる?』
「わかりました。けど、私も知っている事は多くありません」
『良いよ~、ちょっとでも情報があった方が楽だからね~』
契約が破損した後の事を私は報告した。