転職の神殿「ハローワーク」
僕とリタは、魔族を倒したことで、周囲からまばゆい光が輝きだし、解放された真の神殿の前に立っていた。
石造りのギリシャっぽい神殿の入り口には「ハローワーク」という看板とのぼりが。
「ボス倒す前の偽りの神殿の方が神殿感出してるって、どういう事なんだよ!」
入口エントランス前には、門番が立っており、僕らに営業的な微笑みかける。
門番は初めて訪れた僕達に話しかけてきた。
「ここはハローワーク。いにしえより人の生きる道をつかさどる神聖な場所です」
「リストラされた哀れな大人が最後に行く切羽詰まった場所だよ。前世では」
「再出発のためのサポートを受けるための場所とも言います」
こいつ、たまにはいい事も言うんだな。
神殿の中は、異世界とは思えないほど現代的な雰囲気が漂っている。自動販売機や無料Wi-Fiの案内まである。
神官に話しかけると。
「どうしたことでしょうか……。私たちは深い眠りについていたような……。何者かがここを封印していたような……」
建物の奥で王妃様のような格好の人がいたので話しかけてみると。
「人生はRPG。行くもよし戻るもよし。あなたはきっと新たな能力が目覚めることでしょう」
騎士っぽい人が気安く僕に話しかけて来た。
「おぬしらも転職にやってきたのか?ならばいいことを教えてやろう。と思ったが、話が長くなるので向こうにいるシスターに聞いてみるんだな」
言われたとおりに奥にいるカウンターのシスターに尋ねてみると
「職業についてのご説明ですね。どれについて知りたいですか?」
と、一枚のパンフレットを差し出してきた。
「Z戦士にセガール・でんじろう……どんな職業かわからなすぎる」
解説スキルが僕に話しかけてきた。
「Z戦士は異世界の戦士で、セガールは伝説の武道家、でんじろうは科学者です」
おもわず苦笑いしながら思わず声が大きくなった。
「なぜこの名前になったの!?」
待合所に来てみた。
待合所には先客がいて、ミニバーのようなカウンター横の椅子に座った老人が、マスターに話しかけていた。
「ギャルになりたいんだが、転職してもレベルが下がらないって本当か?」
「ああ、転職してもレベルは下がらないし、途中でやめても無駄にはならないよ」
マスターは面倒くさい客をあしらうかのように会話をしていた。
ゲームの世界に迷い込んだのか僕は?
『あなたのスキルを調べます』というコーナーで立っている女性に話しかけてみた。
「アレク様はモンスターの経験値は通常の3倍になり、アイテムの値段は買値の7割引になっています。当然スキルの熟練度も3倍のスピードで上がっていきますよ!パーティーにも適用されるので、赤い彗〇のようにサクサクとプレイできますね」
赤い〇星って……しかもそのスキルの話しは第1話で調べたから知ってるって。
流浪の戦士っぽい厳つい大男が唐突に話しかけてきた。
「僕はポ〇モンマスターになっていろいろなモンスターを仲間にしてみたいのだが……スーパーハンターという魔物だけはなぜか仲間にならないらしい。気を付けることだな」
気を付けるも何も……解説さんわかる?
『重要キャラとのステイタスが被っているとの未確認情報があるとのことですが、詳しくは不明です。』
関係ない僕にはそれだけわかれば十分だよ!スーパーハンターって魔物には遭ってみたいけど。
神殿内には武器防具屋、預り所、冒険者ギルドもあった。
しかし……置いてある武器・防具は……ヒノキの棒・こん棒・布のシャツ・アニメに出てくる小学生の半ズボン。
なにこれ! がっかりだよ!
「せっかく来たんですから。転職してみましょう」
初回転職無料って書いてある。早速転職を試してみるか。
「ちょっと待て!2回目から有料かよ」
「プライムなら1か月何度でも無料だそうです」
「どこの通販サイトだよ!!」
高座には王様の格好をした神官が威厳を漂わせながら僕に話しかけた。
「ここはハローワーク。異世界では楽しい場所とは言いずらい所ではあるが……この世界では一番楽しいイベントと言っても過言ではない。そんなギャップの大きい場所である。生き方を変えたいと申すか?」
「はい……」
「ではどの職業にするのじゃ?」
パンフレットを見て探してみるが、ふと気になった項目を見て質問してみた。
「ここに載っていない他の職業も承りますと書いてありますが、なにか条件とかあるんですか?」
「紹介状をわしに出せばその紹介状に沿った職業に変えられるぞ。紹介状を集めるのも世界の醍醐味の一つじゃ」
解説が念話で話しかけてきた。
『捕捉しますが、今現在取ることが出来る紹介状はエンドコンテンツ内の魔物討伐。もしくは宝箱にそれぞれ1通ずつ存在します』
「エンドって……どこぞのゲームみたいに言わないでくれよ」
結局、無難な戦士に転職した。
うーん、強くなりたい。いろいろな意味で。