4話【Hがしたい】
一週間が経った。
その中で、私は多くのことを理解した。
その1、私はアルミラ・ランドリスという少女に乗り移ってしまったこと。
アルミラは15歳の少女。前の私より5つも歳が離れており、小柄な体で、そしてとても可愛らしいお嬢さんだ。
その2、私は異世界に転生してしまったこと。
ここは私が住んでいた日本ではない。それどころか、地球でもないように思える。
文明は中世のヨーロッパ辺りだろう。化学はほとんど発展しておらず、前時代的な縦社会で、貴族制度も、王様さえも居る世界。
その世界で、アルミラは公爵家の一人娘という立場にあり、つまりは偉い貴族の偉い娘という訳だ。
そして一番大事な、その3。
アルミラは周囲から凄く怖がられている。
昨日の昼間のこと。
――コンコン。
アルミラの自室にノックが響く。
「どうぞ」
「し、失礼します」
オドオドとアルミラの専属メイドが戸を開ける。
リシャルテではない。彼女はカーナという茶髪の新人メイドだ。
カーナは猛獣の部屋にでも入るかのように、恐る恐るティーセットを乗せたワゴンを押して入ってきた。
「こ、紅茶をお持ちしました」
「わざわざありがとう、カーナ」
「お、恐れ入ります。あ、ありゅミラお嬢様」
カーナは緊張のあまり呂律が回らなくなったのか、私の名前を噛んでしまう。
それがマズイと思ったのか、カーナの顔は徐々に青ざめていく。
「緊張しているの?」
私が優しい声音で尋ねてみると、
「も、も申し訳ありませんお嬢様! ど、どうか命だけはお助け下さい!!」
勢いよく膝を着いて謝罪するカーナ。
その謝罪はまるで命乞いのようにさえ見えた。
「え、いや、そんな謝らなくても……」
「どうかお許しください! わ、私にはまだ十にも満たない弟がおります! 私が死んだら弟が……!!」
「うん、わかった、わかったから一旦落ち着いて。殺したりなんてしないから、そんな怖がらなくて大丈夫よ。……それよりどう? 一緒にお茶でもしない? カーナの煎れたお茶が飲んでみたいわ」
「ッ!? そ、それは、私の生き血でお茶を入れよというご命令で……!!」
「そんなわけないでしょ。ドラキュラじゃあるまいし」
「お、お願いします! どうかご慈悲を!!」
「いやだからね……。……はァ」
もうため息しか出ない。
何故こんなに怖がられているのか。それは私が乗り移る前のアルミラに問題があったらしい。
アルミラは極度の人嫌いであり、人を人とも思わぬ冷徹ぶりでメイドを沢山手に掛けたという。なんとも酷い話ね。
そしてその酷い話の皺寄せが、今のアルミラ、つまり私に来ているということ。
これは何よりも問題であった。
こんな調子じゃ、誰からも愛して貰えない。
私は、愛されたいのだ。せっかく与えられた2度目の人生だ。1度目同様、沢山の人に愛されたい。愛に溺れて生きたい。そして沢山の愛した人に看取られて死にたい。
けど、今の私は極悪非道な悪魔のアルミラ。そのレッテルを貼り付けられている。
どうにかして名誉回復をして、私を愛してくれる人と沢山出会いたい。現状じゃお嫁に一つ行けやしない。
でも、差し当たって一つ、問題がある。
「……エッチしたい」
自室で一人、ベッドに横たわる私はそうボヤいた。
かれこれ一週間、ずっとご無沙汰だ。
エッチなことをするのは私にとって愛を体で感じる手段の一種であり、同時に性欲の解消でもある。比率で言えば愛7割、性欲3割といったところだ。
今は愛も足りないし、性欲も溜まっている。10割が欠乏している状態だ。
一人でシても解消されるのは3割だけ。いいや一人だと満足出来ないから1.5割くらいかな? もちろん足りない。
それに私は人より性欲が強い方だし、それはアルミラの体になってからも変わりはしないようだった。
「エッチがしたいよぉ~……」
枕に顔を埋めながら、再びボヤく。
正直、我慢の限界である。
こうなったらもう……。