表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/50

28話【資格と資質】

ふくらはぎが、まるで抉れてしまったような痛みだった。

初めて味わう激痛。強烈な痛み。

痛いを通り越して熱い。まるで焼けてしまうようだった。


「お嬢ッ!? ッ――!」

ガウルはフェンリルの体に飛び移り、そのまま垂直に飛ぶ。

2メートル程の垂直跳びの後、ガウルはフェンリルの首に狙いを定め、

「獣風情が……! ――死ねッ」

落下の勢いを利用し、激情の赴くまま、フェンリルの首を両断した。


「ッ!? ミラ!? あ、足から血が……!?」

レレさんの上に倒れ込む私。

彼女は私の体を抱き寄せ、血を流した私の右足を見る。私も、自身の足を見た。

右足のふくらはぎに、フェンリルの牙によって付けられたと思われる傷があった。

血がドクドクと出て、肉が露出している。もう少し深ければ骨まで見えてしまっていたかも。

「お嬢さん!?」

「大変だ!? すぐに集落に――」

「退けリザードマンッ!」

駆け寄る3人を片手で薙ぎ払い、私の元へと駆け寄ったのは、ガウルであった。


「お嬢ッ! すまない、俺が付いていて……!」

心配そうな顔。そして申し訳なさそうな顔をしていた。

「そんな顔しないで。っ、だ、大丈夫だから。ね? ちょっと、牙が掠っただけ――っ!」

「すぐに応急措置をする! ジッとしていてくれッ」

ガウルは私の背中を大木に寄りかからせ、座らせてから持ち運んでいた水で傷口を洗う。

「ッ……!?」

ズキズキと痛みが走るが、声をあげたら余計周囲に不安を与えそうだから声は押し殺した。

更にガウルは常備していた清潔な布を傷口に巻いてくれて、飲水まで差し出してくれた。

「……ッ、……しばらくはジっとしていろ」

「ええ、ありがとう、が、ガウル。おかげで痛みが……ッ、引いた……気がするわ」

「無理するな。相当痛むはずだ」

痛いのを隠して気遣ったのだけど、さすがに隠し切れなかったみたい。

本当は喋るのもしんどいくらい痛い。足がなくなってしまったかと、一瞬勘違いしてしまったほどの痛みだったもの。


「お、おい半獣男! み、ミラは大丈夫だよな!!」

「……貴様は黙っていろ。女」

ドスの効いた声だった。思わず身震いしてしまうほどに、怒気がこもった声だった。

「黙れじゃねぇよ! 大丈夫かって聞いてんだよ! ミラの足からあんなに血が――ガァッ!?」

ガウルのその怒りは、やがて有頂天に達し、レレさんの首根っこを掴み上げた。

「ガウル!」

その光景には、私も動揺せざるを得ない。

どうしよう。こんなに怒っているガウル、見たことない。怖い。もし、怒りで理性が効かなくなってしまったら……。


「ぐっ!? は、離せ!! 何しやがる!!」

暴れるレレさん。しかし微動だにしない。片手で掴みあげ、殺意にも似た怒気でガウルは彼女を睨みつけていた。

「大丈夫かだと? 貴様が……貴様がそれを言うのか」

「心配して何が悪い!! ミラはオレ様を庇って怪我を――」


「だからそう言っているッ! それもわからんのかッ! この屑がッ!!」


ガウルの怒声が森中に響き渡る。

「っ!? な、なんだよ! なんでオレ様がクズ――」

「剣を持ちながらッ! 守るべき相手に庇われッ! あまつさえ怪我を負わせるッ!! この所業をッ! 屑の所業と呼ばずなんと呼ぶッ! 言ってみろッ!!」

ビリビリと空気が振動する。空気がガウルの怒りに身震いしているようだった。

「ち、違う……庇われてない! オレ、……オレ様はちゃんと避けれて……ミラがいなくても……! オレは、……オレは……!」

潤んだ瞳で必死に否定するレレさん。

しかしそれが、ガウルの逆鱗に触れる。


「貴様はお嬢が死んだ時もッ! 同じように言い訳をする気かッ!!」


「ッ!?」

「ここは森だッ! 命のやり取りの場だッ! 誰が死ぬかもわからんッ! 何人死んでもおかしくないッ! そういう場だッ!! そんな場所で、子供の言い訳が通じると思うなッ!!」

「……!?」


「虚勢で自分を固めッ! 不毛な対抗意識ばかり抱きッ! 自尊心を守ることに必死ッ! 貴様の何処が戦士だッ!! 剣を持つ資格もないッ!! 戦いの場に出る資格さえもないッ!! 言ってみろッ!! 貴様の何処にッ! 英雄なり得る資質があるッ!!!」


「ッ!? ……お、オレ、……オレは、英雄に……」

「言えるのかッ! 言ってみろッ!! お嬢の目を見てッ! お嬢の傷を見てッ! 言ってみろッ!!」

ガウルは彼女の頭を私の方に向ける。

レレさんは泣きそうな顔で、私を見ていた。

泣くのを必死に我慢して、言い返すこともできなくて、悔しくて悔しくて、何も言えずに私を見ていた。

……ツラいわ。何もかも。

レレさんのそんな顔を見るのも。ガウルに汚れ役をやらせていることも。全てが。


「お、オレ……、オレは……。――ッ、……っ、……!」

「……! ……――」

ガウルは彼女の首を離す。

レレさんは力無くその場に座り込み、俯いて何も言わなかった。


「――……お嬢を連れて、俺は集落へ戻る。お前らは勝手にしろ」

私を背負ったガウルはそれ以上何も言わすにその場を去った。

誰も、ガウルと私の後には続かなかった。

――レレさんは、ずっと下を向いていた。

立ち去っていく、私たちも見ず。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ