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26話【いざ動物狩りへ】

リザードマンの教育方針を一言で言えば「見て覚えろ」というもの。

先輩狩人の動きを見てそれを真似、自ら研鑽を積んで一人前の狩人になる。

それがリザードマンの指導法……なのだけど。


「いいか! 俺が1番多く動物を狩ってお嬢さんに献上する!」

「なら俺は1番大きい動物を狩ってお嬢さんに捧げるそ!」

「テメェらがそう言うなら俺は伝説級の魔物を狩ってお嬢さんにその栄誉も全て渡してやる!!」

「あァ!? 森に伝説級の魔物がいるわけねぇだろッ!!」

「馬鹿も休み休み言いやがれッ!!」

森に入って30分は経っただろうか、私とガウルとレレさんを先導するため、先頭に立つ彼ら三人衆は未だに喧嘩をやめない。

こんな姿を見て覚えるのはダメね。

「へっ! オレ様だったら伝説級魔物100匹は狩ってミラにあげれるぜ!」

あーあー早速真似しちゃってる……。

私の隣でレレさんが自信たっぷりに言っていた。

というか今知ったけど、この世界魔物がいるのね。まぁいてもおかしくないわよね。獣族もリザードマンもいるんだもの。


「おいミラ! 好きな魔物を言え! オレ様が狩ってきてやるぞ!」

するとはしゃいだ様子のレレさんが、私にそんな要求をして来る。

「うぅ~ん、私は魔物ははあまり欲しくありませんね。それより貰うなら、アクセサリーのプレゼントなどの方が嬉しいですね」

婚約指輪とか♡


三人衆はその言葉に聞き耳を立てていたのか、

「狩りは止めだ! 鉱山を探すぞ!!」

「俺は最高級の金で指輪を贈るぞ!」

「なら俺は伝説級の鉱物でブレスレットを贈るぞ!」

「ならオレ様は伝説級の金を100万個つけたネックレスを贈ってやる!!」

「ふふっ、それは重すぎて首にかけられませんね」

伝説級の金って何かしら? まぁレレさんが可愛いからなんでもいいわ♡

ガヤガヤとした狩り。まるでピクニックに行く6人組だ。


「はァ、これの何処が狩りなんだ」

思わず不満を漏らしたのはガウルだった。

「賑やかなのは嫌い? ガウル」

「そうではない。ただ騒がしいと動物が逃げる。それに魔物が来ることもある。狩りでは愚策も愚策だ」

「へぇ~、ガウルって狩りもした事あるの?」

「ああ、森で暮らしてた時期もあった。動物の狩り方には心得がある。だが魔物は危ない。もし群れで来られたらマズイ」

「それでも大丈夫でしょう?」

「この先頭を歩く三馬鹿を見てそう思うのか」

まぁ確かに今は頼りないけど、そうではなくて……。


「ガウルがいるじゃない? だから大丈夫だって言えるのよ」

3人を信じていない訳ではない。けど、ガウルへの信頼と比べるとやはり勝てない。だってガウルは、私を愛してくれている。それに私も、ガウルを愛しているのだから。愛に勝てるものなどないわ。

「守ってくれるでしょ? 私のこと」

コッソリとガウルの手を握る。大きい手。私より何回りも大きい。この手で私を守ってくれる。そう信じているから、怖くなどない。

「……約束はしよう」

「ふふっ、ガウルってば頼もしい♡」


「ぐぬぬぅ……!」

それを悔しそうに見るのは、ガウルとは反対隣で私と歩くレレさんであった。

「なんだよ……! オレ様だってミラのこと守れるし……!!」

拗ねちゃっているのかしら。ブツブツ文句を言っている。ブーたれた顔も可愛いわ。

そんな微笑ましい彼女を見ていると――。


「――ッ。全員警戒しろ」

背負った大剣の柄に手をかけ、ガウルは目の色が変わる。

何かを察知したかのように、ガウルの狼のような尻尾も逆立っている。

「な、なんだ護衛? 何を警戒している? 何も気配なんて感じない?」

しかしガウル以外は何の感じとれていないようだった。三人衆もレレさんも、勿論私もガウルが何を警戒しているのか分からない。

そして、何も分からぬまま――。


「ふんッ!」

突然、ガウルは大剣を振りかざした。横に一薙、その凄まじい威力に、森の大木が一撃で両断された。

「お、おい半獣男! 何暴れてんだよ!!」

「なんで急に木を切るんだ!? 護衛お前、気が狂ったのか!?」

ガウルの突然の凶行に、周囲は響めく。

「ガウル、何をしたか教えてくれる?」

私は何か理由があったと確信しており、冷静に尋ねた。

「これを見ろ」

そして、ガウルが地面を指さす。

そこには先程までいなかった、猿のような、でも猿とは違う歪な形をした生き物の死体が転がっていた。

胴が見事に両断され、血も内蔵も飛び出している。グロイわね。

よく見たら、ガウルの大剣にも血が付いている。この猿のような生き物の血だろう。

けど不思議ね。体長1メートル以上はありそうなこの猿のような生き物が接近していたのに、気づけたのはガウル1人だけだなんて。普通物音で気づけるわよね?


「これ……スニークモンキーじゃねぇか!? なんでこんな珍しい魔物がここに?」

三人衆の一人が死骸を見て驚愕する。

「ガウル、スニークモンキーって?」

「魔物の一種だ。姿を消し、音を消すことが出来る。厄介な魔物だ」

ネット検索みたいにわかりやすい答えだった。

「姿も音も消せるなんて、恐ろしい魔物ね。ガウルがいなきゃ全員やられていたかも……。あれ? じゃあなんでガウルは気づけたの?」

「匂いと殺気だ。奴は匂いは隠せん。それに魔物は襲いかかってくる時に共通して殺意を向けてくる。それに気づければ簡単に対処出来る。スニークモンキーは姿を消せる以外に強みはないからな」

「そんな達人級の能力じゃないと対処出来ないのを簡単とは言わないよ? でも……ありがとう。おかげで助かったわ」

「礼はいらん」

「体で支払ってもらうから?♡」

「……違う」

この感じはちょっと期待しているわね。まったく素直に言えばいいのに♡


「ふ、ふんッ! オレ様だって気づけてたぞ!」

「その割には動揺していたな」

「っ! そ、それは……お前を試してただけだ! お前がちゃんとミラを守れるかな!」

「いらん心配だ。お嬢は俺が守る。お前は狩りの学習に集中しろ」

「ぬぐぐぅ……!!」

全く相手にしないガウルに、憤った表情を見せるレレさん。

ガウルは他人に対してドライだからしょうがない、私には優しいけど。そこが特別感あって好き♡

だけど、あんまりレレさんの自尊心が傷つかないか心配ね。ただでさえ対抗心が強い彼女が、相手にもされないなんて扱いを受けたら暴走しかねない。

「レレさんにも期待していますから。次に格好いいところ見せてください」

「……! おう! 任せとけミラ!」

その為に、私がフォローしてあげよう。


「おい三馬鹿! オレ様について来い! とっとと獲物を狩るぞ!」

「お前が先頭にいてどうするレレ!?」

「それでどうやって狩りを学ぶ気だよ!!」

「ってか三馬鹿ってなんだ!?」

張り切ったように先陣をきるレレさんを、三馬鹿さんたちが追いかける。


「お嬢、一ついいか」

私もその後ろに続こうと足を進めた時、ガウルに呼び止められる。

「なに? ムラムラしちゃった? それなら狩りが終わったあとで――」

「それは……そうじゃない。赤いリザードマン。あのレレのことだ」

ガウルの口から彼女の話題が出るとは意外ね。

「レレさんがどうかしたの?」

「アイツは……このままいくと失敗する。今回の狩りは、あの女にとって失敗に終わる」

「どうしてそう思うの?」

「力不足もあるが、一番は心構えが問題だ。あの女は自尊心が高すぎる。無駄な対抗意識ばかりで、狩りに集中できていない。――狩りで獲物を狩れる者は冷静な者だけだ。だからあの女は失敗する」

「……やっぱりガウルもそう思うのね」

「お嬢もあの女が失敗すると思っているのか?」

「思いたくはないけど、そうなると考えているわ」


できることなら、ずっとレレさんには輝いていて欲しい。失敗なんていらない。彼女には花束のように綺麗な成功だけが似合う。

けど、そうはいかない。綺麗な花束を作るには沢山の努力が必要なもの。それが泥くさい失敗だとしても。

「あの女、下手すれば命を落とすぞ。例え今回生き残っても、いずれ狩り命を落とす。そういう奴の特徴を、あの女は全て持っている。今まで無謀に狩りに出て、生きていることさえ俺は奇跡だと思っている。……だがこのままいけば、確実に――」

「そうはならないよ。ガウル」

そんなことだけは、絶対にさせない。彼女を夢半ばで死なせることなんて私が許さない。


「そうならない為に、私がここにいるのよ?」

今日の失敗もこれからの失敗も、全て許容する。だけどせめて、レレさんが死んでしまうことがないように、私は最善を尽くす。

そして、命だけでなく、戦士としてのレレさんも、――死んでしまわないように。


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