2話【ランドリス家の悪魔】
ランドリス公爵家には、悪魔と呼ばれる公女が住んでいる。
アルミラ・ランドリス。ランドリス家の長女にして、ランドリス家の跡取りとも言われる少女であった。
しかし彼女には、致命的な欠点があった。
帝王歴285年、イージス帝国が首都ベネルガンデ。ランドリス家の公爵邸、その庭園にて。
一人の少女が優雅にお茶を嗜んでいた。
「アルミラお嬢様、本日の紅茶は隣国から取り寄せた最高級品となります」
彼女の後ろに控えたメイドの一人が紅茶の説明を始めた。すると――。
「原産地となる地では――」
「誰が説明をしろと言ったの」
棘のある言葉が、メイドの口をつぐませる。
「え……私はただ――」
「ただ、何かしら? 私がお茶を楽しんでいる時に口を挟むのは無粋だと思わないのかしら。そんな考えにも至らない頭なんて付いている意味あるの?」
「お、お嬢様……一体何を仰って……?」
「……そこの騎士。この無粋な女の首を刎ねなさい」
近くにいた護衛騎士に命ずると、騎士は歯がゆそうに唇をかみ締めながらも黙って剣を抜く。
「ッ!? お、お待ちくださいお嬢様!! どうかお許しを!! お嬢さ――」
ザシュッ!
横なぎの剣筋が、メイドの頭を綺麗に切り落とす。
誰一人、悲鳴をあげなかった。
声を発すれば、次に首を刎ねられるのは自分であると理解しているからだ。
「……フゥ、血の匂いでお茶が不味くなるわ。それを早く捨てなさい」
お茶を飲み、騎士を顎で使い、人を簡単に殺す少女。
アルミラ・ランドリス、15歳。彼女は異常なほどの人嫌いである。
純白の穢れを知らない髪。それとは対称的な漆黒の瞳。色白な肌は透き通った陶芸品のようで、整った顔はまるで絵画から飛び出してきたようであった。
だが、その性格はあまりに残忍極まりない。
人の命を虫けら程度にしか感じられない性格破綻者。
そうしてランドリス家内外で囁かれる彼女の異名は、
ランドリス家の悪魔。
残忍な悪魔が乗り移った、人の形を模した悪魔。
メイドや令嬢から恐れられ、そう評されるようになった彼女。
アルミラが公爵の座に着いてしまえば、どんな恐怖が待ち受けているのか。周囲はそれを恐れるばかりで、公女という高い地位に着いている彼女に手出をすることは出来なかった。
そんな……ある日のことであった。