篝火編 第八話
著者:吉野玄冬 様(ココナラ
企画:mirai(mirama)
「っ……」
目を覚ましたセイジは自分が床に倒れていることに気づく。
身体を起こすと腹部に痛みが走り、表情を歪めた。
周囲を見回したところ、そこはホテルの部屋だが、酷く荒れている。それにセイジ以外には誰の姿もない。
アカネはどこだ、と立ち上がろうとしたところで、複数の光景がフラッシュバックする。
銃を手にした男達が踏み込んでくる、捕えられたアカネがこちらを見ながら悲鳴を上げる、朱い塵となって消えていく男達の断末魔。
「アカネ……?」
何があったのかを思い出したセイジは呼び掛ける。きっと近くにいるはずだ、と。
しかし、返事はない。壁に手をつきながら急いで部屋の中をくまなく調べるが、彼女の姿は見つからなかった。
まさか外に行ったのか? だが、一体どこに……。
セイジは居ても立ってもいられずホテルを飛び出した。
近くにいた人に聞いて回るが、目ぼしい情報は得られない。
そうして繁華街の方まで来たところで、大事なことを思い出す。
「発信機だ……!」
屋台の辺りを歩いていた際にはぐれた時の保険として取り付けたのだ。
慌てて確認すると、街外れにある森林区域の方を示していた。そこでピタリと止まっている。
まさか死んでいる、とは思いたくない。なら一体そんな場所で何をしているのか。
自分が意識を失う直前に何があったのかを思えば、彼女がその場所にいる意味は何となく分かる気がした。
セイジは発信機の場所へと向かう。そちらに行けば行くほど人気が絶えていき、人工的な自然が豊かになっていく。
森林区域の遊歩道を少し進んだところでようやくアカネの姿を見つけた。彼女はベンチに一人、座り込んでいる。
「アカネ」
無事なことに安堵したセイジが呼び掛けると、彼女は飛び退くように立ち上がった。
「ち、近づかないでっ!」
それを聞いてセイジは足を止めたが、一切臆さずに告げる。
「さっさと港に行くぞ。これ以上は時間を無駄にはしていられない」
「駄目……」
「どうしてだ?」
「これ以上わたしと一緒にいると、セイジだって消えちゃうかもしれない……そんなの嫌、だから」
アカネは昨夜の現象に怯えている様子だった。彼女には意のままに人を消してしまえる力があるのかもしれないのだから、無理もない。実際、あれは朱世蝶の力だと考えられる。
なら、そんな彼女に自分は一体何が言えるだろうか。