篝火編 第六話
著者:吉野玄冬 様 (ココナラ
企画:mirai(mirama)
見上げると晴天の空が広がっていた。外からは透明のドームに見えたが、内部からは投影された空模様が見えるようになっているらしい。
「……はぁ」
セイジが思わず天を仰いだのは、目の前の人の多さに辟易とした為だった。
宇宙港を出てすぐの区画はさながら繁華街で、雑然とした光景が広がっている。旅行者向けのエリアという感じだ。
「さー、らっしゃいらっしゃい!」
壁際には屋台や露店が立ち並んでおり、通りがかる人々に呼び掛けていた。
セイジはさっさとホテルの方角へと歩いていこうとするが、アカネは食べ物の匂いに釣られてふらふらと引き寄せられていた。目の前で調理することで客を引き付ける手法はいつの時代も変わらない。
「おい、離れるな」
「美味しそう……」
迷子になったら面倒だな、とセイジは小型の発信機をアカネの背中に取り付けておいた。これではぐれてしまうようなことがあってもすぐに見つけ出すことができる。
さて、どうしたものか。セイジはアカネの様子を見て考える。
このままホテルに向かう予定だったが、どうせ翌日まで時間を潰さなければならない。それなら適当に遊ばせておく方がマシか。ゾフィールからの報酬を思えば、多少の出費は痛くない。
「……分かった。お前がしたいようにしろ。金もいくらかならやる」
「ほんと? やったぁ!」
それからのアカネは片っ端から飲み食いし、満面の笑みで過ごした。
そうして適当に街をふらついた後、日が暮れる頃にはホテルにチェックインした。
深夜、部屋で眠っていたセイジはふと目を覚ました。
何か嫌な予感がして周囲を見回す。隣のベッドではアカネが満足気な表情ですやすやと寝息を立てていた。特に異変は見られない。
気のせいか……。
そう思った瞬間、耳をつんざくような音が部屋中に鳴り響いた。
「なっ……!?」
「……ひぁ!?」
セイジは驚愕し、アカネは跳び起きた。
すぐさま複数の足音が入り込んでくる。先程の音はドアが蹴破られた音だろう。
反射的に懐に手を入れてから後悔する。持ち込みできないので、武器を何も持っていない。
侵入者が入口の扉からこの寝室に到達するまで僅か数秒、その間にセイジはアカネの身体を抱えてベッドの下に身を隠した。
すぐさま扉が乱暴に開け放たれる。三人の不審な男が入り込んできた。手慣れた様子だった。
相手の死角から顔を出していたセイジは、その手に握られた拳銃らしき物を見て絶句する。
何であいつらは武器を持ち込めているんだ……!? くそっ、どうすれば……。
絶体絶命だ。このままではすぐに気づかれてしまうだろう。
セイジは必死に打開策を考える。けれど、リスクのない解はどう考えても存在しなかった。