篝火編 第五話
著者:吉野玄冬 様
企画:mirai(mirama)
セイジがゾフィールとやり取りを交わしてから数日が過ぎた。
「今日は~、これっ!」
アカネは宇宙船の自動調理機をバーチャルコンソールで動かしていた。
程なくして、食事用の卓に座ったセイジ達のもとへと、どんぶりの載ったトレーが二つ排出される。
どんぶりは湯気が立っており、中では麺とスープが艶めいていた。ラーメンだ。
とは言え、それは本物じゃない。万能食材と呼ばれる無味無臭の有機物を加工した物だ。見た目や食感だけではなく、味の再現度もなかなか高い。味は添加物で再現している為、実物とは何かが違って感じるのも間違いないが。
「いただきます」
「いただきます!」
セイジが両手を合わせて言うと、アカネも同様にした。
こちらが習慣として行っているのを真似するようになったのだ。
「おいしー!」
アカネは幸せそうな顔で麺をすする。知らない物を食べるのが楽しみな様子だった。
今では彼女もこの宇宙船の機能を一人で利用できている。未だ人なのかロボットなのかもっと別の何かなのかは不明だが、物覚えは良かった。
セイジは黙々と食しながら今後の予定について思う。
あの後、ゾフィールから安全な航路のデータが送られてきた。特に問題はなさそうだったので現在はそれに従っている。
食事を終えたところで、もうそろそろか、と正面モニターに視線を向けた。
「あっ! あれってもしかして!」
アカネも気づいたようで声を上げた。
周囲に何もない宇宙を漂う巨大な建造物。上部は透明なドームで覆われており、中にはビルや人工物だけでなく、自然が様々に広がっている。
「宇宙の港の一つ、“アゴット”だ」
人類が住んでいる惑星なら下りて補給も可能だが、生命居住可能領域に位置している惑星はそれほど多くはない。
なので、ああいう風に拠点を作ることで、惑星間や星系間を移動する際の中継地点に用いている。
既に停船の申請を出しているので、アゴット下部のハッチが開かれた。
宇宙船はそこに自動で進んでいき、やがて停止する。
「下りるぞ」
「うんっ」
燃料の補充は勝手にしておいてくれるが、翌日まで時間が掛かる為、今日のところは街のホテルに宿泊することになる。
高精度のセンサーを通って身体と所持物の検査を受ける。武器を持ち込むことは認められていない。
アカネがどうなるかと思ったが、センサーは何の反応も示さなかった。彼女は危険物ではないらしい。少なくとも、人類が認識する範囲では。
そうして、様々な宇宙船が停泊する港を後にすると、セイジ達は人で賑わう街へと向かった。