篝火編 第四話
著者:吉野玄冬 様
企画:mirai(mirama)
『ふむ、実に興味深いな』
宇宙船に到着したセイジが調査結果を報告すると、モニターに映し出されたゾフィールはそう述べた。
『朱世蝶が人の姿をしている……あり得ない話ではないな』
やはりあの朱色の髪と瞳をした少女のことが気になるようだ。ちなみに今は別室に閉じ込めている。映像作品や電子書籍等を閲覧できるようにしておいたので、退屈はしていないだろう。
『ぜひともその少女の移送をお願いしたい』
「了解だ。引き渡し場所の座標を送ってくれ」
『ああ。このポイントまで来て欲しい』
セイジは送られてきた座標データを確認する。それは銀河政府の科学技術局が管理している星系だった。その役職の高さは薄々と感じていたが、ゾフィールはそこの高官と見て間違いないだろう。
それにしても遠い。銀河の外周部から中心部に移動する必要があり、ワープ航法を用いても一週間は掛かりそうだ。途中で燃料補給も必要となる。
まあいい、とセイジは了承しようとするが、その前にゾフィールは言葉を継ぎ足した。
『あとはもう一つ。済まないがその少女と積極的に交流を図ってもらいたい。記録も全て取っておいて欲しい』
「なっ……!?」
セイジは思わぬ指示に愕然とする。子守りは御免だ。
しかし、拒否する前にゾフィールは機先を制してくる。
『その分の報酬は上乗せしよう。これでどうかな』
「ぐっ……分かった」
セイジは提示された報酬を見て、渋々と頷いた。
これだけあれば、存分に道楽へと身を費やすことができる。背に腹は代えられない。
『それでは、幸運を祈っている』
ゾフィールとの通信を終えたセイジは大きく溜息を吐くと、少女を閉じ込めていた部屋のドアを開いた。
「あ、セイジ!」
退屈そうに寝転んでいた少女はとてとてと寄ってきた。
「何か見たりしなかったのか」
「初めは見てたけど、気になることも多くて……」
少女が保有しているのは基礎的な情報だけで、文化的な部分への理解は低いのかもしれない。
ゾフィールの指示に従うなら、そういうことを教える役割になるしかないか。
セイジが視線を向けたまま黙り込んだことで、少女は小首を傾げる。
「今からお前の名前は、アカネだ。呼び名がないと不便だからな」
それはセイジの生まれ故郷に伝わる言語だった。朱世蝶から取った形となる。
「アカネ……アカネ……アカネっ」
少女──アカネは飛び跳ねるように喜んだ。
もう彼女をこの部屋に閉じ込めておく必要もない。船内についての説明をしなくては。
「とりあえず飯にするぞ。付いてこい」
「うんっ!」
煩わしいが、ゾフィールのもとに着くまでの辛抱だ。セイジは内心でそう呟いた。