篝火編 第二話
著者:吉野玄冬 様
企画:mirai(mirama)
セイジはフリーの冒険家だ。
様々な宙域を飛び回っては宇宙気象の影響等で滅んだ惑星やコロニーからの資源回収を生業としている。
それは半ば道楽のようなもので、今の充足した社会に求められてはいない為、貧乏暮らしだ。ロマンを追い求めるとはそういうものである。
つい先日、次の探索対象を求めて唯一の資産である宇宙船にて航行していたところ、突如通信が入った。相手の情報が表示されず、一般の回線ではないことが分かった。
「……鬼と出るか蛇と出るか」
接続を許可し、モニターに映し出されたのは、椅子に座った壮年の男性だった。
見るからに威厳が感じられ、高い役職の人間だと思える。
『初めまして。君がかの高名な冒険家、セイジで間違いないかな?』
「誰だよ、おっさん。嫌味か?」
『いや、君のこれまでの業績を評価してのことだよ。少し調べさせてもらったが、大したものだ』
単なる世辞かもしれないが、セイジの道楽を評価する人間は珍しかった。
『私の名前はゾフィールと呼んでくれ。ぜひ君に依頼したいことがあってね、秘匿回線を繋がせてもらった。他言無用でお願いしたい。達成してくれれば、報酬をこれだけ出そう』
「マジかよ……こんだけありゃ、惑星の一つや二つ、余裕で手に入るぞ」
『この依頼にはそれだけの価値がある、ということだ。何せ、人類の未踏破宙域からやってきた建造物の探索なのだから』
「未踏破宙域からやってきた? そんなことがあり得るのか?」
『ソースは言えないが、確かな情報だ。ところで、君は朱世蝶伝説については知っているかな?』
「知らねぇ奴はいねえだろ」
終末の世界、朱世より飛来する真っ赤な蝶、その名は朱世蝶。
それは破滅の使者とも救世主とも成り得る……と、そんな内容の御伽話だ。
朱世蝶なる存在が現実に発見されたことはない。
『奇妙とは思わないかね? 朱世蝶伝説は人類が始まりの惑星、地球にいた往古の時代から存在していることが判明している。同時代の他の物語はどれも散逸しているか変質しているにも関わらず、だ。朱世蝶伝説だけがなぜこうも同じ形で遍在しているのか。まるで我々の遺伝子に刻み込まれているようではないか。私はこう考えている。それは神のメッセージなのだ。そして、人類の未踏破宙域から流れ着いた謎の建造物、それこそが朱世蝶なのではないか、とね』
あまりに胡乱な仮説だが、言いたいことは理解できた。
「……つまり、そこに行って調査してこいってことか?」
「その通り。現地のデータ収集を行い、結果を報告して欲しい。私のもとまで来てもらうかどうかはそれを聞いて判断するとしよう」
提示された報酬は大変魅力的だった。
加えて、本当に未踏破宙域からやってきたというのなら、個人的にも興味がある。
「分かった、引き受けよう。ただし、俺のやり方でやらせてもらうぞ。進めていく内に何か気に入らないことがあった場合は降りさせてもらう」