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9.おいおいラブコメ展開か?

 家を飛び出して行ったアリシアを追い、俺もおばさんにお礼と挨拶をして家を出た。

 先程見せたアリシアの反応は恐らく恋をしている乙女の様に見えた。


 まさかあのアリシアが俺に恋心を抱くとは、少し考え難い事ではあるが、この頃の歳の女の子が唯一の同年代でいつも一緒にいれば、まぁ自然な事かとも思う。


 家を出てアリシアの姿を少し探すと、そう遠くない所で惚けて立っているのを見つけた。

 その顔はまだ少し赤みががかっていて、心なしか目も虚ろに見えた。


 人に、それも女の子に真っ直ぐな好意を向けられることにあまり慣れていない俺は、少しだけ躊躇いつつも、気にしていない風を装い声を掛けるべく駆け寄る。


「どうしたんだい?顔が赤いようだが?」


 なんかいつもより少しキザっぽい気がしないでもないが、どうにか普通に声を掛ける事が出来たことに内心ほっとする。


「ライノ……?私なんか変かも……」


 そう言うとアリシアは自分の胸の辺りをぎゅっと握り、上気した顔を下に伏せる。

 そのまま息も荒くなり目もどんどん虚ろになり始めた。


 ちょっと待て、これってまさか……


「ごめん、ちょっとおでこ触るぞ」


 俺はある可能性を考え、アリシアの近くに行き前髪を掬う様におでこに手を滑り込ませる。


「あっつ!これ熱あんじゃん」


「はぁ、はぁ……ライノぉ……」


 おでこに手を当て簡易的に熱を測って見ると、かなりの高熱だった。

 そして遂に限界が来たのか、力が入らない様子でその場に膝を付いたアリシアが下から俺の顔を覗き込んで来る。


 そのいつもとは違う、弱り切った年相応かそれ以下にも見えるアリシアの様子は、俺に今までにない感覚を与えた。

 だが今はそんな事を考えている場合ではない。こんな異世界の田舎村で高熱など発症すれば最悪命にも関わる。


 俺は一旦アリシアを自宅へと運び、おばさんに状況を説明してから薬を買う為に家を出た。


 幸い自宅から直ぐ近くだった事と、まだ午前中という事で薬屋も閉まっていない事もあって最悪にはならないと思う。


 強化された脚で十分程で薬を買ってきた俺は、おばさんに看病されているアリシアの元まで見舞った。


「あ、あれ?なんで元気に?」


「ん、魔法で治した」


 ……そうだ、治癒魔法があるんだった。


 俺はアホなのか?何故そんな簡単な事を見落としていたんだ。


 自分のバカさ加減に軽く絶望していると、おばさんが優しく俺の肩に手を置いてサムズアップした。意味は分かんないけどありがとう。


 そんなこんなでドタバタした午前を過ごし、一応休んだ方がいいと言うおばさんの言葉に従い、アリシアは今日の訓練は病欠にする事になった。


 俺はいつもなら前を歩く背中が無い事にほんの少しだけ寂しさを感じながら、門まで一人で歩いて行った。


 ……


「珍しいな、今日は坊主一人か?」


「アリシアは今日は体調不良で休みだよ」


 午前中にあった出来事を掻い摘んで話すと、アーサーは少し驚いていた。剣の稽古を付けている身として、アリシアのタフさを知っているからこその反応だろう。


 今日は俺一人での訓練と言う事で、いつも行っている内容の復習と基礎体力を鍛える事にするらしい。


 いつも俺達がやっている訓練内容は、一般的な王国兵士の訓練課程を単略化したものだ。

 兵士の訓練には行軍や軍事兵法などがあり、それらは俺達には必要のないものなので、槍や弓など剣での戦闘に必要のないものを取り除いた基本的な戦闘技術を学んでいる。


 まずは軽く走り込みの為に村の外を三周ほどを三十分程度掛けて走り込み、少し休んでから木剣を使って素振りをする。

 相変わらず特徴のない型で、上下左右斜めに切ったりよく分からない部位を想定して突いたりと、いまいち何のためにやっているのか分からない素振りを繰り返す。


「なぁ坊主、この型ってどういう意味があるか分かるか?」


「正直全然分かってない」


 本音で応えると、アーサーはやっぱりかと溜め息交じりに答え、どうしたものかと言いながら暫し目を閉じ考えに耽った。


 その間にも一応言われた内容の素振りを淡々とこなし、俺も一応何故素振りがこの形であるのか意味を考えてみる。

 まず、木剣の握りは両手だ。右手右足を前に出し、無駄に力むことなく自然な形で構える。そこから最短の距離で相手を切りつけ、最短の距離で突く。


 やはりよく分からない。意味と言われてもこれ以上の事は何も思いつかず、いつもの様に惰性でこなす。


「まずはそうだな、坊主はいつも剣を振る時、何を意識している?


 意識……意識か。特に考えたことが無いな。

 強いて言うのであれば言われた通りに動こうという事くらいか。


「なるほどなぁ、そりゃ嬢ちゃんに抜かれるわけだ」


「どういう事?」


 本当に意味が分からず、素で聞き返してしまう。


「いいか、俺達兵士の剣ってのはな、如何に自分が死なずに相手を殺すかが基本なんだ。だから言われた通りに棒を振ってるだけじゃあ敵は殺せない。どういう事か分かるか?」


 いや、さっぱり分からん。


 つまりはこういう事か?何も考えず、ただ我武者羅に剣を振り回すだけじゃダメで、自分が剣を振る意味を考えろって事か?


「分かってきたじゃんか」


 下手くそな説明を頑張って理解してみたが、どうやら大体合っているらしい。

 確かに、言われたことを理解し実践する事は大事だが、それが全てではない。その先にある意味を考えなければ上達しないと言うのも頷ける。


「あとはもう一つあるんだが……これは口で言ってもしょうがないな」


 どうやら俺に足りていない事はまだある様で、アーサーは一つ頷くと近くに置いていた、今はアリシア用になっている木剣を手に取ると、構えの姿勢を作った。


「構えな。今からは気抜いたら死ぬと思えよ」


 言われて、何が何だか分からないが渋々構えると、アーサーの纏う雰囲気が一瞬で変わった。


「ひっ……」


 それは殺気だった。


 前世も含めて味わう本物の格上からの殺気に身が縮まる。そんな俺の大きすぎる隙を見逃し、しっかりと構えを作るまで静観したまま待ってくれた。


 一度呼吸を挟み、どうにか少しだけ冷静さを取り戻すと、何とか構えを作り直す。


 いつもアーサーに言われている事ではあるが、俺は少しこの世界の住人にしては危機感や警戒心が弱いらしい。

 剣を持つからには、いつ如何なる時も死ぬ覚悟と殺す覚悟を持てとは、口を酸っぱくして言われている事のはずだった。


 だが、いざ強者から殺気を向けられてしまうと、やはりどうしても身が竦む。それでも、この数年遊んでいたわけではない。

 気合を入れ直し、何とか心を戦闘態勢に切り替えると、先程の恐怖などの不純物を取り除き、構え直した。


 お互いに向き合ったまま鏡映しの様に構える。俺は冷静になり始めた頭で現状を分析しようと頭を回そうとするが、それが新たな隙となり、今度は見逃されなかった。


「お前、俺の前に立ってから五回は死んだぞ」


「ごはぁ!」


 気が付くと俺は仰向けに倒れていた。


 腹からはまるで中身が全て破裂して外に漏れだしたかと思う程の激痛が走り、視界がチカチカして意識が途切れ途切れになる。


「早く起きろ、愚図が」


 何をされたのか、自分が今どんな体勢なのかも分からないが、頬や体の全面に感じる土の冷ややかさから、恐らくうつ伏せに倒れている事だけは分かった。

 だがそれを理解するに時間を使いすぎた。いつまでも倒れたまま起き上がらない俺の横っ腹を、アーサーの脚が思い切り蹴り上げ、その勢いがあまりにも強すぎて起き上がると言うよりは蹴り起こされる。


 無理矢理に立ち上がらされた脚は自分でも笑える程震えていて、それが痛みからなのか恐怖からなのか、自分でも分からなかった。


 そこから先は、俺が初めて味わう地獄だった。


 またしても腹を突かれ、顔を殴られ、足を蹴り払われ、投げ飛ばされる。

 このままだとヤバいと本能が無意識の行動として現れ、魔法を使おうともしたが意識の一瞬の隙を突かれて更に攻撃が苛烈になるばかり。

 その攻撃の全てが死んだと思う程の威力と恐怖を俺の身に刻み込み、初めはあった理不尽への怒りも、痛みへの恐怖すらも意識と共に薄れ始めた。


 だけど、一つだけ許せない事がある。それは今俺を痛めつけているアーサーに向けてでも、弱い自分にでも、この状況を作り出した理不尽にでもない。


 神だ。神がしっかりと仕事をし、俺にチートさえ授けてくれれば俺はこんな痛い思いをしなくて済んだんだ。

 そう思うと、力が入らず、地に付いたままの膝が持ち上がる。手放しそうになっていた木剣を握る手に力が籠る。


「そろそろか……」


 俺は湧いてくる力に身を委ね、今まで以上の殺気を放ちながら歩み寄るアーサーを真っ直ぐに見据える。


 怒りは無い。恐怖も無い。只、今あるのはもう大丈夫だと言う確信から来る安心だけ。


 お互いの剣が届く間合いまで来たアーサーは、少しだけ何かを考える様に目を細めた後、まるで死刑の執行を行う断罪人を思わせる迷いのなさで上段から切り掛かった。

 それを下から掬い上げる様にして迎え撃つ。その時の俺の剣は今までで最速であり最強だった。


 お互いの剣が空中でかち合う。辺りには凄まじい程の音と衝撃が撒き散らされ、人間から発生したことが俄かには信じられぬ現象を起こしている。

 だが木剣ではそれ程の衝撃を吸収しきれず、一瞬の膠着の後、まるで初めからそこには何も無かったかのように折れた木剣の根元だけが交差する。


「ようやく掴んだな」


「なんなんだ?この力」


 冷静になって考えて見ると、木剣をいきなりへし折るってなんだよ。いきなりパワーアップしすぎだろ。


「それが身体強化だ、坊主。嬢ちゃんは直ぐ出来てたんだがなぁ……」


 あぁなるほど。どうりでアリシアに一度も剣では勝てないわけだ。


 今までアリシアやアーサーに全く歯が立たなかった理由に納得すると、俺は糸が切れた様に意識を手放した。だけど最後まで俺の手には折れた木剣が強く握られたままだったらしい。

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