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7.新しい手札

「まだお昼過ぎたばっかりだし、今から行くよ」


「行くってどこに?」


 思い立ったが吉日とは言うが、せめてどこに行くのかくらいは説明して欲しい。

 もう慣れたものだが、アリシアは俺になどお構いなしに手を引いて村の門の方まで歩いて行く。


 その間にも何か色々と考えを巡らせた顔で思案しており、こうなってはもう俺の話は聞いてくれないだろうと悟った。


 ただ無心で手を引かれる事数十分。遂に村を出る門の辺りまで来てしまった。

 門とは言っても、村自体が簡易的な柵で囲まれているだけで、子供の体でも台を利用すれば簡単に超えられる程度だが、何故か門だけはしっかりとした作りの門だった。


 そんな木製の少し立派な門を素通りしていくのかと思いきや、なんとアリシアは門へと真っ直ぐ向かって行く。


「ちょ、このまま村を出るの?」


「ん、いいから黙って付いてきて」


 付いてこいと言われても、思いっきり手を握って半ば引き摺る様に歩かれては付いて行くしかないのだが。


「おっ、どうした嬢ちゃん。門の外へは出せないぞ?」


 門まで真っ直ぐ歩いてくる俺達を見付けて、外側に立っていた二人の兵士の内の一人が俺達の方へと近付き声を掛けてきた。

 その門番は特筆する所のない地味な平の兵士といった風貌だったが、俺達の様な子供にも丁寧に対応してくれる辺り、人は良いのだろうと思う。


 だが勤務態度はあまり真面目とは言い難く、滅多に人の来ないこんな田舎村では無理もないが、兜は地面に置きっぱなしにしているし、軽装の鎧も少し着崩している。

 くすんだ鳶色の髪も伸びてどこかぼさぼさで、お世辞にも勤勉とは言い難い男だった。


「ん、違う。剣を教えて欲しい」


「え!?ちょアリシア何言って……」


 アリシアの思い付きとは、剣を覚えて戦術の幅を広げる事だったらしい。


 これには俺も門番の兵士も驚き固まってしまう。

 まさか兵士に剣を習うなんて予想すらしていなかった所為で、せっかく数年間鍛えてきた俺のポーカーフェイスも崩れて口をあんぐりと開けてしまう。こんな間抜け面晒したくなかった。


「え、えと……どこのお嬢さんかな?」


「ん、私はマエサルとリチアの娘」


 マエサルとはアリシアの父親で、リチアは母親だ。


「あー……なるほど。んで、なんで剣を習いたいんだ?」


 門番はアリシアの両親の名前を聞いて一瞬何かを考えた後、俺達に理由を聞いた。

 俺は別に剣を習いたいとは思っていないので、ここは言いだしっぺのアリシアに任せる事になる。


「この子の方が魔法が上手で勝てないから。だから剣で差を付けたい」


 それを聞いた門番は更に驚いたように暫く動きを止めた。幾ばくかの時間完全に停止していたが、正気を取り戻すとまたしても暫く考え込んだ後、俺達二人を真っ直ぐ見つめた。というかアリシアも親が居ない時には大人の前でも素なんだな。


「うーん……まぁいいか。どうせ暇だしな」


 いや、なんでいいんだよ。

 普通兵士が子供に剣を教えるなんてあり得ないだろ。これも前世の常識の弊害か?この世界では当たり前なのか?


「ん、ありがと。何をすればいい?」


 常識にとらわれないというか、頭の切り替えが早いというか、早速とばかりに門番に教えを乞うている。とりあえず手を話してもらってもいいですか。逃げないから。


「じゃあまずは村の外周ぐるっと走ってきな」


「ん、ライノ行くよ」


「そうだね、頑張ってね。ここで待ってるね」


「あんたも行くの」


 頭を殴られた。本当に面倒くさい。


 とはいえまた殴られるのは嫌なので、渋々付いて行くことにした。


 普通村を出る時は手続きを踏んで門番から許可を貰うのだが、今回は別に村を出る訳ではなく、村の周囲を回るだけなので許可は必要ない。というか外に出るよう言ったのは門番だし。


 軽くストレッチをした後、俺達は門番に見守られながら左回りで村を一周することになった。

 アリシアは意外にも俺の横に並走してくれて、よくある「マラソン、一緒に走ろうね」状態にはならなかった。てっきり付き合わせるだけ付き合わせて置いて行くものと思っていた。


 だがアリシアは知らない。俺は普段から偶に走り込みをしている事を。

 俺はチート級の強さを持ち、それを隠しながらも破格の力を持つ主人公を目指しているのだ。それが魔法ばかりの頭でっかちで体力はからっきしなんてあり得ない。故にある程度の体力は必要だと考え鍛えている。


 そうとも知らず、自信満々に自分の方が有利だと思い込んでいる。村を一周する頃には俺に追いつけずに悔しがるアリシアの顔が目に浮かぶようだ。


 そう思っていた時期が、僕にもありました。


「お、早いなお前ら。まだ三十分くらいしか経ってないぞ」


 そこには汗だくで門に体を預ける俺と、涼しい顔をして立っているアリシアが居た。


 何故だ、何故こうなった……!?


 初めはお互いに様子を見合いながら並走し、暢気に会話も出来ていた。だがアリシアが俺の様子を伺いながらペースを徐々に上げて行き、俺も負けじと速度を上げた。


 だがアリシアはそこで俺に追い抜かれるという妥協をする事無く、常に俺の前を走り続けた。そこで俺も折れればよかったのだが、普段から鍛えている俺が女の子に体力勝負で負けるのはと、要らぬプライドに火が付いてしまった。


「坊主はあれだが、嬢ちゃんはなかなかの体力だな」


 くやぢい!ここに来てもアリシアにセンスで負けるとは……。

 恐らく普段から走り込みなどしてないはずの同世代の女子に負けたこの屈辱は、生涯忘れないだろう……!


「ん……当然。まだまだ、動ける」


 おや?アリシアの様子が少し変だぞ?


 普段であればもっと淡々と話すアリシアが、いつもより気持ち小さめの声量で、言葉もどこかたどたどしい。

 これはまさかあれか、やせ我慢してるのか。


 よく見ると、一見余裕そうに見えた顔には薄っすらとだが汗が滲み、長い赤髪も数本肌に張り付いている。

 さらによく見てみると、肩が僅かにだが上下に揺れており、全く問題ないという訳でもない様だ。


「なに変な顔で見てんの」


「いやーべっつにー?」


 自分でも大人げないとは思うが、これは嬉しい。

 普段から澄ました顔で俺よりも高いセンスを見せ付けていたアリシアだが、その実は必死で俺に勝とうとしているだけで、本当はすれすれの勝利だったと思えばかなり気分が良い。


 恐らく俺のその視線の意図に気付いたのだろう、アリシアは僅か頭上から俺の事を睨め付ける様に見下ろすと、ハッキリと分かるほど狼狽えた。

 だが直ぐに気を持ち直したように視線を鋭くすると、俺の前世の姉がそうであったように強い眼差しで俺の目を射抜き返してきた。


「お前らなに見つめ合ってんだよ……まあいい。とりあえず木剣渡すから素振りでもしてな」


 俺達が心中で競い合っていると、門番は木剣を取りに行くと言って門の直ぐ傍に併設されている詰所に入って行った。

 その間にも俺達は無言の牽制をし続け、遂に耐えきれなくなったアリシアは俺の頭をいつもの様に殴り付け言い放った。


「あんたがどういうつもりか分からないけど、私には一生追いつけないから」


 かっちーん。こんガキャア……今はその才能のおかげで俺より優秀かもしれないが、いつか絶対追い抜いてやるからな。

 俺はこの人生での目標を主人公になる事に次いで、アリシアに追いつく事を新たに定めた。


「まあ今はそうやってお姉さんぶってればいいよ。後で後悔するからね」


 負けじと言い返したつもりだが、かなり強めに顔を殴られた。ぶってればいいよってのは殴れって意味じゃないのに。


「なんで喧嘩してんだよ……」


 木剣を二つ持った門番が詰所から戻ってくると、顔を殴られ頬を抑える俺に寄り添い喧嘩を仲裁してくれる。やっぱりこいつは良い奴だ。


 兵士用の物なので、俺達には少し大きい木剣を受け取ると、早速簡単な素振りを習う。

 基本的な立ち方と構えをまずは教わり、そこから力の使い方を教わる。


 動きとしては高校の時に授業で習った剣道に近いもので、上から下、右左と本当に基礎中の基礎と言った感じだ。

 なんだろう、少しだけがっかりしている。


 ファンタジー世界の剣と言えば、超高速で踏み込んでズバッて感じで派手なものを想像していたが、これなら前世でも出来る。


 やっぱり平の兵士に剣なんて習っても大して強くなれない気がする。どうせなら英雄級に強い人とか伝説の騎士とかが良かったな。


「坊主、剣を振る時は余計な事は考えるなよ」


 こういうタイプの人間って変な所だけ勘が鋭いんだよな……適当にやろうと思ってたけどそうもいかないみたいだ。


 そうして俺達は、暇を見付けては門へと通い、門番の兵士に剣の稽古を付けて貰った。

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