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5.あり得ない確率

 この世界の魔法は少し変わっている。

 

 今から語る知識は、この村が田舎だからか、それともそもそも存在していないのかは分からないが、魔法に関する参考書のような物が無いので、全ての独力で身に着けた知識だ。


 まず、一口に魔法と言っても『ファイアーボール』とか定義された形は無い。

 自分の中にある魔力を自覚し、それぞれ持っている属性を自分なりの形にするものを魔法と言う。

 故に詠唱なども存在せず、ある程度形になっているのといえば日常的に使われる魔道具くらいだ。


 そもそもこの魔力と言うのは馴染み深い、あらゆるものに宿っているタイプで、人間も例外ではない。例え鍛えていなくともある程度の年齢になれば誰でも火起こし程度の魔法が使えるくらいの魔力は持てるようになる。


 そしてここからは俺が見つけた事だが、魔力を完全に使い切り、枯渇状態にすると最大保持量が少し増える。

 別に枯渇させずとも増えるには増えるが、雀の涙ほどしか変わらないので、効率を求めるのなら枯渇状態の方が断然良い。デメリットは気絶する事だが、寝る前に行えば快眠出来て一石二鳥だしね。


 しかし、先ほど魔法はある程度の年齢になれば誰でも使えるようになるとは言ったが、戦闘に使える程のレベルの人間は、今のところ俺が知っている限りではこの村には居ない。

 精々魔道具店の店主の爺さんくらいか。


 そしてここから更に面白いのが……。


「説明が長い。早く教えて」


 ついついテンションが上がって早口で長々と語ってしまった。俺としたことが、前世には無かった魔法を初めて語れる状況に少し浮かれてしまっていたらしい。


 まぁいいか。とりあえず基礎の知識は教えたし、ここからは実践だな。


「じゃあまず魔法を見せるね」


 そう言うと俺は立ち上がり、アリシアから少し離れた位置まで歩くと、手を何もない虚空に翳して目を閉じた。


 今回は適当に分かり易く火の玉でいいか。


 イメージするのは、体の中にあるエネルギーが活性化し魔力として変換されるところだ。そこから変換した魔力を自分の持つ属性へと更に変換させる。そして最後に属性が付与されたエネルギーを望む形へと変えていく。今回は火の玉状になるようイメージし、一気に解き放つ。


「うわっ、なんか出た」


 なんでちょっと引いてんだよ……まぁいいけどさ。


 手から放出された火の玉は、精々子供の拳程度の大きさで、真っ直ぐに草原を突き抜け十メートル程離れた小川に着水し煙を一瞬上げて鎮火した。

 今回は大した魔力を込めていないので大きさも距離も火力も大したことは無かったが、今の俺が全力で魔力を込めればあたり数十メートルは焼け野原に出来るはずだ。


「今のが魔法だよ」

「なんか思ってたより地味」


 こんのガキャア……。

 まあ、確かに?込めた魔力が少し少なかったかもだけど?それでも今の魔法すら使える人はこの村には居ないし?ちゃんと攻撃になるくらいの魔法使えるのって俺だけだし?


 ……俺は子供相手に何をムキになってるんだ……。


「と、とりあえずやってみようか。じゃあまず自分の中にある魔力を感じてみて」

「ん、やってみる」


 お、意外と素直だな。結構な無茶振りを要求したつもりだが、まだ難しさが分かっていないのか、特に疑問も持たずに目を閉じて集中している。

 だが残念なことに、それくらいで魔力を感じられはしない。少し意地悪かも知れないが、ここは一度挫折させて俺が意外と凄いという所を見せておこう。


「分かんないけど、これ?」


 少しの間目を閉じて悪い事を考えていると、いつの間にかアリシアは目を開け俺に何かを聞いて来た。


 注意深くアリシアの様子を見てみると、体の周囲に薄っすらと蒸気のようなものを纏っており、間違いなく魔力を放出させていた。


「アリシア……もしかしたら君は天才かも知れない」


 この時、この年上系ナマイキ少女の渾身のドヤ顔サムズアップを、俺は生涯忘れないだろうと思った。


「早く次教えて」

「え?あ、あぁ。じゃあ次は属性を調べよう」


 まさかこんな一瞬で体内の魔力を感じられるようになるとは思わず、二の句が出ず少し混乱してしまった。

 なにせ俺は魔力を感じるという工程だけで一月近くも掛かってしまったのだ。多少の動揺は大目に見て欲しい。


 さて、仕切り直して次は属性を調べる。

 属性は大抵一人に一つだが、二つ持っている人も大して珍しくはない。ちなみに俺は火と風の属性がある。大したことないと思うかもしれないが、まだ属性を三つ持っている人は見たことが無い。三属性持ちは恐らくは相当に珍しいか居ないかだろう。


 アリシアの属性を調べる為に、最も手っ取り早い方法を取るため指示を出す。


「じゃあまずはそこに座って、さっきみたいに魔力を出してくれる?」


 アリシアは素直に頷き、もう慣れたと言わんばかりに集中した様子もなく魔力を放出し、涼しい顔をしてその場に座った。

 その態度に少しだけむっとしつつも、しっかりと調べる為に、俺は自分の両手をわきわきと動かしながらアリシアに近付いた。


「じゃあちょっと触るね」


 初めに言っておくと、これは属性を調べる為であって、決して邪な思いがある訳ではない。前世では女の子に触れる機会が無かったからここで少しでもポイントを稼いでおこうとか、ほんと、そんなんじゃない。


「え、無理。触ったら殺す」

「はい」


 だめだった。


 うーん……とはいえ触った方が分かり易いのは本当なんだよなぁ……どうしたものか。


「それだと少し難しくなるんだけど、それでもいい?」

「えー……じゃあ手だけ」


 どうやら体に触れられるのは無理らしいが、手を繋ぐのは良いらしい。子供の、というか女の子の感性は俺にはさっぱり分からん。


 兎も角、直接的に接触することは出来たので、後はやる事は簡単だ。

 まずお互いに接触している部分に同程度の魔力を流し、その反応に応じて属性が分かる。やってみた方が早いか。


 俺達はお互いに向き合うように座り、両手をお互いの体の前で繋ぎ合わせた。なんかキスする前のカップルみたい。


「なんかキモい」


 どうやら考えが顔に出てたらしい。今までで一番の侮蔑の眼差しを向けられた。一応真面目にやってるんだけど。


「それじゃあ両手に魔力を集めてみて」

「ん、やってみる」


 言われた事には素直に応じる。その性格のお陰なのか、生来のセンスなのか、俺が半年掛けて習得した魔力の凝縮もこの一瞬で習得していた。やっぱりか。


 想定していたよりも遥かに凝縮された魔力に驚きつつ、俺も負けじと魔力量を合わせて調整する。すると先程までは白い湯気のようだった魔力が少しずつ形と色を変え始め、やがてそれはハッキリと視認できるまでになった。


 俺の場合は淡緑(たんりょく)の炎が両手を激しく覆うような反応を見せた。これは風と火の属性を表している。それはいい、知っている。それよりこれは……。


「ねぇ、これで何が分かるの?」


 アリシアの両手は、俺と同じような炎を纏っている。そこはいい。違うのは色とその光度で、炎自体が真っ白な色をしており、眩しい程の光を放っていた。そしてその周囲を光の粒子がキラキラと包んでいる。だが……。


 あ、あり得ない……これは恐らく三属性持ちだ。どれくらいあり得ないかと言うと、ヤ〇チャが天下一武道会で一回戦を突破した時くらいありえないよ。


 そしてここで一番問題なのは、この魔力反応を見ても火以外の属性が分からない事だ。

 俺が知っている限りの属性は火・水・土・風・雷の五つだけだ。中にはこのどれにも当てはまらない特殊な属性を持った人もいるらしいが、この村にそんな変わり種は居ない。


 基本の五属性であれば、先程行った方法で大体分かるのだが、白く輝く炎は見たことが無い。


 これは少々手間になるかもしれないが、魔法を実際に使ってみて、その時に有った現象を見て属性を見分けるしかなさそうだ。


 軽い気持ちで請け負ったはずの魔法の訓練が、まさかこんな面倒なことになるなんて……今からでも諦めてくれないかな……。

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