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4.姉の様な弟子

「久しぶりだなブラキ」

「よく来たな、狭い家だが上がってくれ」


 暖かい春の季節になって暫く、ほんのりと夏の気配をほど近く感じ始めた頃、この家に初めて客人が来た。人数は三人で、夫婦とその子供らしい。俺の家と構成は同じだ。


 因みにブラキと言うのは俺の父親の名前だ。母はティアという。


 客の男は田舎の小さな村にしては珍しい赤い髪を持った優男然としたイケメンで、その隣にいる女性は髪こそ暗い茶髪だが、お淑やかでどこか品のある立ち振る舞いを見せる美女だ。

 服装もこの辺りでは高級と言える仕立ての良い物を着ており、うちと違ってかなり景気が良いように見える。


 そんな人たちと、うちのどんくさい父がどう知り合ったのか疑問に思っていたが、関係性は意外にも幼馴染らしい。こっそり母が教えてくれた。

 相手方の夫婦は小さい頃からどんくさい父を何かと気に掛けてくれていて、大人になった今でも陰ながらこっそりとサポートしてくれているらしい。本当にあざます……。


 挨拶もそこそこに、大人たちが狭い部屋で小さいテーブルに夫婦一組で向かい合わせに座り、俺は両親がいる奥側に立った。この家には椅子は五脚しかないからしょうがないね。


 全員が座ったのを見ると、無難な世間話が始まる。

 どこの世界でもこういう場合は世間話で茶を濁すんだなーなんて適当な事を考える。最近森の様子が変だとか景気がどうとかと、毒にも薬にもならない話で一通り口を滑らかにしていく。


 そしてそのまま話題は家族のことへと移り、話の流れでその場の全員の視線が俺に集まる。話を殆ど聞き流していた所為で身構えていなかった俺は少し緊張してしまう。


「君がライノエル君か。初めまして」

「どうも初めまして、ご存じライノです」


 やべっ緊張して変な挨拶になってしまった。


 本当はここでビシッと賢いアピールを決めて「おぉ、とても優秀な子じゃないか!こんな優秀ならば俺達も面倒みてやらないとな!」的な展開を期待したのだが……。


「あらあら、ライノ君は少し緊張してるのかしら?」


 変な挨拶の所為でおばさんに少し笑われてしまった。肌触りの良さそうな生地で出来た袖を口許にそっと当ててくすくすと笑っている。


「ほら、お前も挨拶しなさい」


 俺の顔が少し赤くでもなっていたのだろう、何とかこの空気を変えてやろうと、気まずい空気を払拭するようにおじさんが咳払いを一つ挟み、後ろに隠れていた少女の背中を優しく押した。


 存在には初めから気付いていたが、誰も触れないので居ないものとして扱った方がいいのかと思っていたがそんな事はなく、おじさんの椅子の後ろからひょこっと顔を出したのは、少し釣り上がった目が特徴の気の強そうな赤毛の少女だった。


 その少女の背は俺より少し高く、顔立ちはそれなりに整っているが如何せん田舎臭さが抜けない惜しい顔をしている。

 少し視線を下げて見ると、やはり服の仕立ては良いもので、俺の着ている布を継ぎ合わせて作った手作りのボロ布の服とは大きく違い、専用に仕立てられたのかと思う程にぴったりの水色のワンピースを着ている。


 ただ一つだけ残念なのは、おじさんは綺麗な赤毛だが、少女はそれとは違い少しくすんだ色の赤毛で、あまり手入れをしていないのか腰に届きそうな長髪も所々がハネてしまっている。


 少女は初め、人見知りで隠れているのかと思ったが、おじさんに促されて俺の前までズイと詰め寄ると、頭の先からつま先までを頭上から値踏みするように見下ろすと、本当に小さく、俺以外には聞こえない大きさで鼻で笑った。


 これには流石に驚いた。下に見られ舐められるのは慣れっこだが、初対面でここまであからさまに見下されるのは初めてだ。

 ここではっきりと明言しておくが、ぶっちゃけ俺は年下派だ。前世では傍若無人な姉に振り回されていた事もあって、所謂甘えて来る妹系が好きなのだ。だがそれがどうだ、出てきたのは目付きが少しキツいナマイキ年上系。真反対だ。


「ほら、ライノ君が困ってるだろう?早く挨拶しなさい」


 俺を見下し完全に上位者としての威厳を持ってしまった少女の顔は、おじさん達や俺の両親の角度からは見えていない。それ故この少女が現在俺を見下している事を知らないおじさんが、少女に挨拶を催促する。


「ん、アリシア。よろしく」


 うわーなんだろう、マジで姉さんと同じ匂いがする……。


 その少女、アリシアは先程と同じ、俺を見下した顔のまま声色だけは明るく振る舞い俺に自己紹介をした。恐らく両親などの大人の前では猫を被っているのだろう。

 だがそのやり口が前世での姉と被ってしまい、知り合って早々に苦手意識が生まれつつある。


「よ、よろしく。じゃあ俺はお茶でも淹れてこようかな……」


 そんな訳で予期せぬ事も起こったが、俺にとっても恩人と言える人達が家に来たという事で、俺も出来る限り何か役に立とうとお茶でも淹れようとキッチンへ向かう。別に苦手だから逃げてるとかじゃないんだからねっ!


「待って。君、年下でしょ?私と来て」

「ふぁ?」


 アリシアは俺の事を見下ろしたまま、お茶を淹れる為背を向けた俺の手をパッと掴み、開きっぱなしになっていた玄関を俺の手を引いて連れ出してしまう。


「あらあら、アリシアったらもうライノ君が気に入ったのね」


 いや、あらあらではなく止めてください。


 混乱したままの俺はそれでも何とかなるまいかと、おばさんに目だけで助けを求めてみたが、柔らかな笑顔のまま手を振るのみで助けようとはしてくれない。

 遂には必死の懇願虚しく、出会って二秒で苦手だと思った少女にかなり強引に手を引かれてドナドナされてしまった。

 両親も止めてくれないどころか笑顔で見送ってやがるし、マジで勘弁してほしい。


「暗くなる前には帰って来なさーい!」


 俺よりもほんの少しだけ大きい手に引かれながら、後ろから聞こえた母の大きな声に振り向いて何とか返事を返すと、アリシアは握っている手の力を強め、歩く速度を少し早めた。まるでもう逃がさないとばかりに。


「歩くの遅い。男ならちゃんとして」


 うっわマジで姉さんそっくりだこの子。特に男ならとか言って自分の都合押し付けるところとか。


 アリシアはかなりせっかちな性格なのか、俺にとっては小走り程の速度でずんずんと先を歩いて行く。

 一体どこまで行くのかと思ったが、家を出てから数分程で目的地に着いたようだ。


 着いた場所は、ただでさえ村の端にあった家から更に端に行った、柵と森との境にある殆ど人が居ない小高い丘だった。


「ねぇ、あんた名前は?」

「え、知らないで連れてきたの?」

「知ってる。でも年下は年上に自己紹介しなきゃいけない」


 帰りたい。


 何故俺はこんなよく分からない子に絡まれてるんだろう。

 とはいえここまで来てしまっては付き合ってやるしかない。そうしなければこういうタイプは執着して来るし、余計酷い事になる。俺は知ってるんだ。


「えっと、ライノエル、六歳です。よろしく……」

「ん、私はアリシア、七歳」


 俺が自己紹介すると、アリシアは満足げな顔で一度頷き、自らも自己紹介をした。てか歳一つしか変わらないのかよ。


「私男の子と遊んだことないの。いつも何してるの?」

「遊びって言うか、普段は魔法の訓練をしてるかな」


 丘に腰を下ろし、俺の事も座らせようとズボンを掴んで引っ張りながら質問をしてくる。おいやめろ。そんなに引っ張ったら俺の未発達の魔法がズボンから飛び出ちゃうだろ。


「なんで?男の子ってみんなそうなの?」


 なんで、か……説明するの面倒だな。


 そもそも俺には友達が居ない。家があるのは村の端っこだし、両親も知り合いが沢山いる訳でもない。だから同年代の子とまともに会話するのはアリシアが初めてなのだ。

 そして魔法の訓練については、いつかは誰かに聞かれると思ったが、まさかラノベの主人公を目指してますという訳にもいかず、こういう時に備えて一応の説明は考えていたのでそれをそのまま伝える。


「ほら、魔法って便利だろ?鍛えれば鍛える程、出来る事や成れるものも増えるし、それにもしいつ戦う事になるかも分かんないしさ、そういう時に備えてって意味でも鍛えて損はないだろ?」


 用意していたセリフをすらすら言えたことに多少の満足感と達成感を胸に抱いてうんうん頷いていると、突然眼前にアリシアの顔が迫った。


「じゃあ私にも教えなさい」

「え、嫌だけど」


 面倒くさいので普通に断ると頭を殴られた。痛い。


「教えなさい」

「えー……でもなぁ……」


 正直今のレベルになるまでかなり苦労したし、姉さんに似ているアリシアに何かを教えるのは俺のストレスがやばい事になりそうだから普通に嫌なんだが……。


「教えないならボコボコにする」

「はい……」


 割と本当に面倒くさいが、これ以上殴られるのは嫌なので教えることにした。とはいえ俺だって魔法を極めた訳じゃないしまだまだ発展途上だ。センスが無ければ基礎だけ教えてあとは自力で頑張ってもらおう。


「それじゃあまず、属性を見てみようか」


 齢六歳で姉の様な弟子が出来ました

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