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22.不可解な命令

ストックが完全に尽きました。

 やばい、やばいやばいやばいやばい!


 俺は一人俯き、誰にも今の顔色を気取られぬようにしながら、ダラダラと冷や汗を垂れ流している。


 というのも、ここ最近起こっている魔獣の活発化の原因が俺かもしれないという可能性に辿り着き、最悪罪人として連れていかれるかもしれないのだ。

 もし本当に原因が俺なら、断罪されなかったとしても罪悪感は想像を絶するし、何より被害が出ている人たちに顔向けできない。


「おや、どうしましたか?顔色が優れないようですが」


 目の前に座っている、俺を断罪する可能性のある騎士からの問いかけに、蒼白となっているであろう顔を向ける。

 そこで俺は、ラトランスの碧い瞳に映る自分の顔を見て、幾分か冷静さを取り戻した。


 それでもまだ呼吸は乱れ、額からは玉の汗が吹き出し、目は焦点が合わず忙しなく視線を動かしているが、冷静に思考するくらいの落ち着きはなんとか取り戻しつつあった。


「僕も調査隊に入れてください」

「「「……は?」」」


 いや、全然冷静じゃないなこれ。

 俺のいきなりすぎる発言に、この場に居る全員が呆けた顔で俺を見つめる。それを見て、自分の発言が如何に突飛なものであったか理解した。


「な、何言ってるの!前回は結果的に人助けになったし、あなたたちにも怪我がなかったけど、また危険な事するつもりなら本当に許さないわよ!?」


 放心していた面々から、一番最初に復帰し声を上げたのは、やはり母だった。

 来客たちは未だ混乱と困惑が強い中、母としての義務と責任を負った彼女は思考よりも感情が先走る。


 隣に座る俺の肩を両手で強く握り、無理矢理に視線を合わせて真剣な面持ちで『教育』をするため俺に語る。「危険」「許さない」と。

 だが、俺だってそんな事は言われなくとも分かっている。今の実力でもう一度森に入るのはまだ危険だし、正直行きたくない。


 それでも、やらかしてしまった可能性が高いうえ、最低でも確認はしておきたい。ここは少し手間だが、どうにか説得するしかない。


「でも騎士や兵士の人たちも居るし、無茶はしないって約束するから」


 理屈ではなく、相手の感情に訴えかけるように、純粋な子供のおねだりの如く表情を作って泣き落としにかかる。

 すると母は一瞬怯み、まるで我が子の我儘を真っ向から否定するヒスママのような心地となった事だろう。


 更にそこから畳み掛けるべく、俺は目の前に座る騎士へとその視線を向け標的にする。


「それに森に慣れてる人が居た方がこの人たちも助かると思うんだ。ただ案内するだけだし、危ない事なんてないよ」


 黙って聞いていたラトランスは、突然その矛先が自らに向いたことに狼狽し、咄嗟の言葉に詰まる。

 そして俺と母の顔を交互に見渡し、母の縋るような目と視線が合うと、次に俺の目を真っ直ぐに見詰め返してくる。


「……私としては確かに森に詳しい人員は欲しい所ですね。それにB級とはいえ魔獣と遭遇し生き残る実力と運もある。子供という点にさえ目を瞑れば、これ以上ない采配です」

「で、ですが危険では……」


 高い確率で否定するであろうと踏んでいた母は、思わぬラトランスからの肯定にギョッとして固まってしまう。


「ただし、試験に合格すればの話ですがね」


 なるほど、どうやら俺の力を試すらしい。

 未だ放心状態から抜け切らぬ母を家に残し、俺たちは家の外へと出て手近な広場へと向かう。


 その途中、俺の家へと向かっていたアリシアと遭遇し、なぜか本能的な嫌な予感に従い咄嗟に隠れようとしたが、敢え無く見つかってしまった。

 隠れようとした俺に目くじらを立て、いつもよりも割り増しされた力で頭を小突かれてから、仕方なく現状を説明する。すると当然……


「ん、私も行く」

「でも危険だs「殴る?」分かりました」


 こうして、変な騎士のおっさんの試験にアリシアも加わることになった。最近似たような事があった気がしないでもないが、ただのデジャヴとしよう。そうしないと俺のプライドやらメンタルが持たない。


 数分ほど歩き、俺たちはいつも訓練に使っている村の端にある広場へと来ていた。

 試験をするとは聞いたが、具体的に何をするのかは定かではない。それでもアリシアは何かを察しているのか、到着してから一息つく事すらなく準備運動を始めている。


「それじゃあ早速やりましょうか」


 そう言うと、連れていた二人の兵士に目だけで合図し、兵士たちはサッと距離を置いた場所へと陣取った。

 アリシアの方は既に臨戦態勢で、内容すら告げられていないのに相手を倒す気になっている。一応相手は王国の騎士なんだけどな……


「試験は簡単、二人揃って私の攻撃を全て躱してください」


 え、それだけ?


 俺もアリシア程ではないが、何か戦いに関する技術や単純な強さを見せるものだと思っていただけに拍子抜けしてしまう。

 だが、試験内容が簡単であれば合格の可能性はそれだけ上がる。ここはとりあえず無難にクリアして、森に入ってからの事に集中することにしよう。


「それでは行きますね」


 い、いきなりだな……


 ラトランスは少し腰を屈めて前傾になる独特な構えを見せると、一言俺たちに声を掛けてから、まるで獣の突進の如き苛烈さで真っ直ぐに飛び掛かってきた。


 大人五人分の距離を一瞬にして詰め、まるでいつも俺がやっているのと同じ動きとすら思える踏み込みで彼我のリーチを埋める。


 弛緩した空気からの一変した緊張状態。俺は直ぐにはその変化に対応できず、咄嗟に最も重きを置き、慣れた防御方法として魔力壁を眼前に展開させる。


 まさに間一髪。目と鼻の先にはラトランスの拳が鼻先で障壁に阻まれ止まっており、もし反応できなかったのなら今頃は鼻血を撒き散らしながらのたうち回っていた事を嫌でも想起させる。

 ちらりと横目でアリシアの様子を伺うと、既にそこに姿は無く、『攻撃を躱し続ける』というお題に最も合理的なポジション、つまりラトランスの背後へと既に移動していた。


 未だ目の前にいるラトランスの追撃が来る前に、素早くバックステップで距離を置いた俺は、先程とは打って変わって緊張した面持ちで目の前の騎士を睨め付ける。


 そうだ、相手はあんな(なり)をしているが、一定以上の地位と高い実力をもつ本物の騎士なのだ。油断していたわけではないが、自分の想定以上に気を引き締める必要がありそうだ。


 俺の顔つきが変わった事を認識すると、ラトランスは一瞬驚いたような顔を見せ、それでも直ぐに顔を戻して先程と同じ、素早い踏み込みの姿勢を作った。


 左半身を前にして半身の体勢を作り、両の拳は腰へと下ろして打ち出す準備を作る。その姿からはまるで引き絞った弓や、導火線に火の付いた大砲のような威圧感すら与える。

 充分に警戒し、いつ間合いに入られても対応できるよう相手を見据えて集中する。


 だが、踏み込みは来なかった。


 半身のまま、一瞬更に腰を落としたラトランスは半身のまま顔だけをくるりと後ろに向け、自分を中心に前後に陣取るようにして立っていた俺たちの位置を気配だけで確認し、背中を取り油断しているであろうアリシアへと突進した。

 これには流石のアリシアも面食らったのか、いつもの無表情を驚愕へと変え、対応までに刹那の時間を取られる。


「うっ……くぅぅ……」

「なるほどなるほど」


 真っ直ぐに突き出されたラトランスの左拳を対応の準備が出来ぬまま、咄嗟に眼前で腕を交差させてどうにか防御する。

 なんとか防いだものの、魔力障壁どころか身体強化すらまともに施せていなかったアリシアは、人体から出たとは思えぬ低い衝撃音を腕から響かせ、今頃両腕は痺れるような痛みが駆け巡っている事だろう。


「ライノエル、アリシア!今すぐあの小川まで全力で走れッ!」


 ラトランスからのいきなりの大音声にピクリと身が縮み、一瞬呆けてその場に立ち尽くしてしまう。


「早くしろ!」


 そして再びの呼び掛けで直ぐ我に返り、言われた内容が頭に沁み込むよりも反射的に体を動かす。

 頭が真っ白な中、もう既に俺より小川側に居たアリシアは駆け出しており、それを追いかけるようにして俺も川へと走り出した。


 いったい何なんだ。

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