2.初めて回すガチャってレア度の演出分かりにくいよね
うわぁ眩しい!……えっ?
目が焼ける程の光を受けたと思ったら、次の瞬間には反転したように闇が視界を埋め尽くしていた。
暫く混乱した後、どうやら自分は目を閉じているらしいと気付いた。意を決して両目を開いてみると、そこには今まで見たことがない建築様式の天井が視界に広がっていた。
「あうあうあうあー」
クソッ。ラノベ名物の『知らない天井だ』をしたかったのだが、何故か上手く喋れない。
「あらあら、目が覚めたんですね」
異世界転生したらしてみたい事ランキングの上位に入っている楽しみを遂行できなかった事に落ち込んでいると、突然聞いたことの無い言語?を誰かが呟いたと思ったら、俺の体が何か大きなものに抱えられて、ふわりと視点が上がった。
「あら、今日は泣かないんですね~」
まだ眼球すらまともに動かせない中、何とか集中して視線を動かすと、どうやら俺は見知らぬ女性に抱き抱えられている事が分かった。
その女性は栗色の髪を短く切り揃えてメイドのような恰好をしており、年齢もまだ若くかなりの美人に見えた。恐らくは使用人だと思うのだが、今俺を抱き抱えているという事は……。
なる程。赤ん坊スタートのパターンか。
既にある程度自由に動ける年齢でチートを持ってスタートというのが俺の好みの展開なのだが、赤ん坊からの新しい人生もなかなか乙なものではないか。
だが、ここで一つだけどうしても確認しておかなければならない事がある。それは……
家柄ガチャだ。
異世界転生ものに置いて、赤ん坊スタートの多くは良い家の出かどうかは最重要と言っても過言ではない。
例えば貴族や王族。そうでなくとも裕福な家である必要がある。
その理由は幾つかあるが、最も重要なのはやはり金銭面だろう。
生まれた家が金持ちならば、その分今後の活動がかなりやりやすくなるし、何よりイベントも発生しやすい。
そして二つ目は、重要人物との繋がりだ。
良い家柄というのは様々な人と繋がりがある。ここがどんな世界かはまだ分からないが、もしも戦いが身近な世界ならば指導してくれる人は欲しいし、何よりイベントも発生しやすい。
こういったように、良い家柄であるならかなりありがたいのだが、どうやら俺の今世はかなりの強運のようだ。
メイドの女性に抱えられ、細かく上下する視界の中部屋の中を見回してみたが、かなり広い。その上置かれている調度品はかなり質が良さそうだし、暖炉の上には家紋まである。恐らくはそれが貴族の証だと思われる。
やったぜ。家柄ガチャSSRだ。
重要項目の一つをクリアしたことに安心した俺は目を閉じて、次の事を考え始めた。
それは、結局チートは貰えなかったという事だ。
だがまだこの世界が争い事が日常だとは限らないので、一先ずそれはいいとする。もう一つ問題なのは、今俺を抱えているメイドとは別のメイドが、手の平を暖炉にかざして火の温度を調節しているという事だ。
あんじゃん、魔法。
俺が懸念していた事の一つ、もしかするとただ文明レベルが低いだけの異世界という懸念も無くなり、一先ず安心する。
せっかくの異世界だ。魔法は是非とも使ってみたいし、出来る事ならかなりの使い手になりたい。
それにメイドが当たり前に魔法を使っているという事は、貴族や一部の選ばれた人間にしか使えないものではないという事だろう。
これはこの先の人生が楽しみだぞ。もしかすると全属性が使えるとか、オリジナル属性持ちなんて事も……今はまだ分からないだけであり得るかもしれない。どうやらこの世界での俺は運がいいっぽいからな。
そんな風に俺がこれからの人生設計に花を咲かせていると、奥にある大きな両開きの扉が開き、四人の男女が部屋へと入ってきた。
見たところ二組の夫婦のようで、先を歩く二人の男女がこの家……というより屋敷の主人とその妻で、あまり派手ではないが仕立ての良い服を着こなす金髪の美形夫婦だ。
その後ろをへこへこしながら付いて歩く、どこかパッとしない見るからに田舎の平民然とした夫婦がこの屋敷に来た客人らしい。
「この度は本当にありがとうございました」
「なに、礼を言う必要はない。私たちで決めた事だ」
何を言ってるのかはさっぱりだが、みすぼらしい恰好の男が何度も頭を下げながら家主、恐らく俺の父親に感謝の言葉を送っている。
「あら?もうパパとママが分かるんですか?ほら、あれがあなたの両親ですよ~」
それからどうにか目をぎょろぎょろと動かして二組の夫婦が話しているのを見ていたが、俺の視線がそこに固定されている事に気付いたのだろう、気を利かせたメイドが見やすい位置に固定してくれた。このメイドは大きくなったら俺の専属にしてくれないかな。顔めっちゃ可愛いし。
「ですが本当に、難産だったうちの女房の面倒を見てくれただけでなく、育児まで……本当になんとお礼を言えばいいか……」
「うむ……私はな、自分の領地に住む民には出来る限り不自由をして欲しくないのだ。それに子供は財産であり夢だ。それを失う位ならば、私はいくらでも力を貸そう」
「領主様……!」
うーんなんだろう、なんか感動してるみたいだな。
メイドさんたちも心打たれたみたいな表情してるし、何言ってるのか分からないのがマジで悔やまれるな。
それから直ぐに、みすぼらしい方の夫婦が俺とメイドさんの元までやって来ると、男の方に俺が手渡され、めでたく俺達は屋敷を後にした。
うん、なんか俺、あの屋敷の子供じゃなかったっぽい。
なんでや、なんでや……。
せっかく当たりと思ったのに……あんなボロ布纏った人たちの家に金もコネもある訳ないよぉ!
悲嘆にくれながらも男に抱えられ屋敷の外に出ると、最初に感じたのは身が縮む程の寒さだった。赤ん坊なのにこれ以上縮んだら消えちまうよ。
俺は父親であろう男に、恐らく屋敷で貰った上等な毛布に包まるように抱き抱えられているが、そんなの関係ないくらいにとにかく寒い。
辺りには薄っすらと雪が積もり、今が冬であることは言うまでも無く明らかだ。
そして次に感じたのは、この月明りから見える星だ。
父親の腕の中から空を見上げてみると、なんか……普通。特筆する程きれいな訳でもないし、月が大きかったり変な色だったりもしない。元々前世でも俺は田舎の出身で、山の方に行けば普通に見れる程度の星空だ。
そんな景色に内心がっかりしていると、突然頭に何かが触れた。
「あなたは私たちの宝ものよ。ちゃんと生まれて来てくれて本当に……本当に良かった……!」
頭に触れたのは母親の手だった。
そして俺の頭を慣れない手付きでおずおずと撫でると、何かを言いながら泣き出してしまった。
言葉は分からないが、その声色から溢れる涙と表情を見て、恐らくこの人は凄く優しい人で、俺の事を想って泣いてくれているという事は分かった。
最初は家柄がどうだとか、金やコネがどうとか言っていたが、それよりも大切なものを見失っていたみたいだ。
家柄ガチャで最も重要なのは、そんなチンケな目に見える程度の物なんかではなく、本当に大事なのは両親に愛されるかどうかだ。
それさえあるのなら、これから先どうとでもなる。せっかくの異世界転生だ、やりたい事をやるついでに両親を目一杯幸せにしてやろう。そう思える程、この両親は素晴らしいと思った。
「さあ着いたぞ、ここがお前の家だ」
その家は、家と言うにはいささか……いやかなりボロボロだった。
うん、前言撤回。やっぱ家柄ガチャ大外れだわ。




