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18/22

18.面目がぐちゃっ 

 自らの体内へと意識を向けて、もう何度も繰り返してきた身体強化をいつもより強めに施す。

 そして剣を振るうのに役立つスキルも全て駆使して、俺は強敵のモーリーを強かに睨め付けた。これが最後の攻撃だと伝わるように。


 そのモーリーも、魔法戦から接近戦に切り替えた俺に驚くでもなく、当然と言わんばかりに冷静な面持ちで動向を観察し、一分の隙も見せずに構えていた。


 先程の短い攻防で見付けた弱点、そしてそれを突く為の作戦は既に頭の中には入っている。後はそれを実行するだけの能力と度胸があれば、この勝負は確実に俺が勝つ。


 気合を入れ直す意味も込めて、一度だけ深く呼吸を挟んで手の中にある得物に意識を一瞬だけ向け、俺は素早く大地を蹴り上げた。


「うおぉぉぉ!」


 雄叫びを上げ、今までで一番と言える速度で肉薄する。

 基礎能力では俺とモーリーに大差はない。瞬発的なスピードならやや俺が勝っているほどだ。そんな俺の全力の踏み込みに、果たしてモーリーは反応は出来なかった。


「……ッ!」


 それでも、地を這う程に低い体勢で接近し、その体勢から速度を落とすことなく繰り出した下からの切り上げを、モーリーは剣を合わせる事で迎撃して見せた。


 ここまでは計算通りだ。だが一つ誤算があった。それは、モーリーの振るう木剣が思ったよりも威力が高かったことだ。

 低い体勢から伸び上がるようにして木剣を振った俺の体勢は崩れており、打ち込んだ両腕は痺れて、今にも木剣が手から離れてしまいそうだ。

 更に体重も俺の方が半分以下となれば、ただの迎撃に振られた木剣も、姿勢を崩す為の一撃に成り得るのだ。


 だがここはファンタジー。素早く思考を切り替え、慣れた魔力操作で背後に風を展開させて、崩れた姿勢を強引に風の噴射で取り戻す。

 この間に、既にモーリーは再び元の構えを取り戻しており、隙を突くのは困難だと再認識させられる。


 だが、これも想定通りだ。俺は全く焦る事無く攻撃に入る姿勢を作り、二撃目を繰り出すべく柄を握っている両手に力を入れ直す。


「せやぁぁ!」


 今度は下からではなく、重力の力も利用した大上段からの振り下ろしで攻撃する。彼我の身長差故に上からというよりはモーリーの顔に正面から木剣を叩き付けるような様相になってしまったが仕方ないだろう。


 そして予想通り、これも見事に防がれる。

 それでも体重を乗せた一撃はモーリーにとっても強力だったのか、今度は弾き返すことなくその場で鍔迫り合うようにして膠着する。


 始めに考えていたスマートな戦略とは少し違ったが、概ね想定通りに事が運んだことにニヤリと口角を吊り上げ、俺は勝利の確信の籠った声で、眼前のモーリーに語り掛ける。


「いろいろ勉強になりました。でも、これで終わりっす」


「ハッ……もう勝った気か?」


 俺の勝気な言葉に、意外にも乗り気で答えたモーリーだったが、残念ながらもう彼に勝機は無い。


 木剣が触れ合っている間の短いやり取りを終えると直ぐに、俺は柄から左手だけを離して、掌をモーリーの顔に向けて魔力を集めた。


 その行動の意図を察して焦ったのか、俺を吹っ飛ばそうと全身に更なる力を込めようとしていたモーリーだったが、後手に回った分俺の魔法の方が数段速い。

 開いた左手に魔力を集め、最も簡単かつ早い風の塊を凝縮させて、それを躊躇う事なく撃ち放つ。


 これでもう、モーリーは自分から何か行動を起こすことなく、俺の作った風の魔力を無防備な顔面に受けて倒れるはずだ。


「ぐっ!……うおぉ……」


「かはっ……!」


 モーリーが風を鼻っ柱に叩き付けられるのと、俺の腹に木剣の柄が食い込むのは同時だった。


 勝利を確信し、攻撃にのみ意識が集中していた俺は魔力壁を張る事すら出来ずにその攻撃を無防備に喰らってしまい、その場で膝を付いて蹲る。

 自分の立てた作戦がハマれば、こんな事態にはなっていなかったはずだが、今はそんな事を考える余裕すらない。あまりの痛みに意識を繋ぎ止めるのがやっとだ。


 だが、蹲り地面に付けたままの額を上げて正面を見ると、鼻から血を流して仰向けに倒れ込んでいるモーリーが目に入った。


「はぁ、はぁ……」


 決着が付いた。


 広い訓練場には、俺の荒い息遣いだけが響き渡り、戦いの余韻を思わせる。

 勝った俺は、何とかその場で立ち上がり、息も絶え絶えとはいえこの場に立って自由に呼吸を謳歌し、負けたモーリーは地を這い気絶により強制的な静かな呼吸を強いられている。


 これが戦いか。訓練とはいえ、俺は今確かに戦いを経験し、そして勝利したのだ。


「そこまで!この勝負、ライノエルの勝ちだ」


 そんなケルセリエスの言葉すらも、今は勝利の昂揚感の前ではただの雑音にしか聞こえなかった。


 他の私兵の人たちが急いで駆け寄り、気絶したモーリーを介抱しているのを見ながら、俺はどうにか疲れた体を引き摺って皆が観戦していた場所まで向かう。

 全員が労いの言葉を掛けてくれて、正直勝てたのはギリギリだったにせよ、俺の数少ない成功体験の更新につい顔がニヤついてしまう。


「ほら、俺の言う事間違ってなかっ……」


「凄いじゃないライノ!いつの間にかこんなに逞しくなって!」


 親父のよく分からない言葉を遮って、母が俺の事を抱きしめながら褒めてくれる。正直、肋骨が折れてそうな勢いで痛むから抱擁は今は勘弁してほしいのだが、こんなに喜んでくれるのなら、今は痛みは堪えて見せよう。これも男の甲斐性だ。


「凄いじゃないか。あれ程の魔法や戦闘技術を持つ子供など私も見たことがないよ。いやはや、君は天才かもしれないな」


 ケルセリエスからの言葉を聞いて、俺は今にも飛び上がりたくなるほど内心では歓喜を覚えた。だがそんな事は決して顔に出してはいけない。ここはクールに、当然と言わんばかりに振る舞わなければ。


「そうですか。それはありがとうございます」


「うむ、これ程の力を持つ君ならば、私も面倒を見られて嬉しいよ」


「いえ、このくらい大したことではな……」


「ん、私も戦いたい」


 俺の戦闘パートから、勝って当然だ、俺なんかやっちゃいましたかムーブをかまそうとしていた所で、横槍が入る。

 その声の主は勿論アリシアで、何故か入学は既に確定しているのに戦いたいと言い始めた。


「ふむ、それは構わないが、どうだ?モーリー」


 どうやらこの屋敷に常駐している医者でもいるのか、早くも気絶から目覚め、先程の戦闘の形跡が倒れた時に付いた土埃のみとなった、無傷のモーリーに問いかける。

 問われた当人は、数度体の調子を確かめるように肩を回したり俺に打たれた箇所を確認してから、問題が無い事を告げた。いや、あんな頑張ったのに問題ないのも複雑だが。


「ん、ありがとうございます。よろしくお願いします」


 何故か当初予定には無かったアリシアとモーリーの模擬戦が行われることになり、アリシアは俺が先程まで使っていた木剣を受け取って訓練場の中央まで向かった。

 その際にこっそりと俺の傷を癒したりしてくれて、正直助かった。この屋敷の治癒師は俺の傷は放置だったからな。


 中央まで行くと、お互いに剣を構えた体勢を取った。その距離はさっきの俺よりも遥かに近く、身体強化を使わずとも数歩で詰められる程度でしかない。

 その事を疑問に思う間も無く、試合開始の合図が掛かる。


「それでは、始めッ!」


 それは、一瞬の出来事だった。


 ケルセリエスが開始の合図を出すと同時に、アリシアが速攻で光属性の目眩まし放った。

 その光量は凄まじく、目の前に居たモーリーは勿論、離れた観覧席に居た俺たち全員の視界を奪った。


 そして目が慣れ始め、再び視界を取り戻した時には、既に試合は終わっていた。


「ぶいっ」


 うつ伏せに倒れたモーリーの隣で、木剣をしっかり倒れた相手の頭に押し付けたまま、片手でブイサインを作るアリシアがそこには居た。

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