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11.落ち着いて魔法を叩き込もう

 師匠から剣を貰った俺達は、早速真剣の扱いを慣らす為に、いつも魔法の訓練やアーサーが居ない時自主練に使っている丘へと向かっていた。


「だからさー、一回でいいからツインテしてくれって」


「絶対いや」


 その道すがら、アリシアに髪型の要望をしている。このやり取りだけでも既に何年も行っており、未だにして貰った事は無い。

 特別ツインテールが好きな訳ではないが、俺はそもそも年下派だ。ならば背も俺より高い年上という真逆を行くアリシアに、少しでも好みのヒロインらしさを求めるのは自然ではないか?


 彼女の赤毛は所々がぼさついているし、色もややくすんではいるが、きちんと手入れして整えればそれなりにきれいになると思うのだが、どうしても嫌がるので、いつも変わらず伸ばしたままの髪型になっている。


 そんな他愛もないやり取りをしつつ、丘に付いた俺達は、早速とばかりに落ち着かない調子で剣を鞘から抜いた。

 改めて見てもやはりなかなか良い物で、刀身に映る自分の顔も、心なしか逞しく見える。


 それから身体強化を使わず何度か振って見たり、強化して振ったりを数度繰り返した。

 素のままで振る剣はかなり重く感じ、これが命ですら簡単に切れる代物なのだと思うと、少し怖くもあった。


「ねぇ、ちょっと森に入って試し切りしない?」


 積極的に剣を振り、体の温まったアリシアが提案してきた。真剣を貰って早々に何かを切ってみたいとは、彼女は俺が思っている以上に物騒なのかもしれない。


「ダメだ。母さん達にも言われたと思うけど、最近魔獣とか魔物が活発になってるから危ないぞ」


 折角の提案を断られていじけた態度を見せるアリシアだが、最近の森は本当に危ない。

 と言うのも、ここ最近森に棲んでいる魔物たちの活動が活発になり、被害も少なくない。実際に両親の知り合いも襲われたらしく、特に子供たちにはきつく注意が入っている。


 原因は全く不明らしいが、危険な事には変わりないので、俺は一切近付くつもりはない。


「どうせなら魔獣とか切ってみたい」


 本当に物騒な事を言うアリシアに、流石にここは精神年齢が年上の俺が厳しく言おうとしたその時、俺達が居る丘から柵を超えた森の奥から、女性の悲鳴に似た声が耳に届いた。


 突然の出来事に、俺達は揃って黙ったまま顔を見合い、少しの間動けずにいた。

 だがそこはやはりアリシア。いつまでも呆け続ける事なく、自分の出来る最善と思える行動をした。


「どうする?行ってみる?」


 アリシアがまず行った行動は相談。何事も一人でやるのではなく、誰かが傍にいるなら共に考える事が重要だ。これは師匠に習った事でもある。


「うーん……もし魔獣とかが出たなら俺達が敵わない可能性もあるし、かなり危ないよなぁ」


 女性の悲鳴の正体が、ただの野生動物やちょっとしたトラブルならば問題は無い。だがもし俺達よりも遥かに強く狂暴な魔獣の類がその女性を襲っているのだとしたら、最悪の場合三人ともが死ぬ可能性もある。

 それに何より襲われているのがその女性一人とは限らないし、何より敵の数も分からない状況では無暗に飛び込むのは避けたい所でもある。


「でも今なら間に合うかも」


 珍しく早口で話すアリシアに少しだけ驚いたが、そもそも俺は誰でも無償で助けるヒーローは目指していない。俺が真に目指すのは『助ける義務があるのか?』系の主人公だ。ここは可哀想だが、見過ごすしかない。


 結論を出した俺は、見捨てると言う事をアリシアに伝えようとした時、森の奥から先程よりもはっきりと聞こえる声で、助けてという言葉を耳にした。


 その瞬間、アリシアは俺を見る事なく剣を拾い上げて一足飛びに柵を超え、森の奥へと駆けて行った。

 それを俺は呆然と見送り、だが直ぐに切り替え彼女を追って行くことにした。


「まぁ、行っちゃったものはしょうがない。やれやれ系にするしかないか」


 こうなってしまってはもう俺も付いて行くしかなくなり、手法を切り替え呆れつつも仲間を救う主人公ムーブに移行し、森を身体強化で駆けて行く。


 少しすると、手から出血し尻もちを付いた村の女性と、その女性の前に剣を構えたアリシアが居た。


 二人の目線の先には俺達の膝までありそうな体高の、ラーテルに似た魔獣が牙も爪も剥き出しにして威嚇している。

 よく見てみると、その魔獣はラーテルよりも数段体毛が長く、剥き出しにした牙も幾分か鋭い。


 周囲を見ても仲間の類は見つからず、どうやらこの魔獣が一匹で女性を襲ったらしい。


「ライノはこの人を守って。私が前に出るから余裕があったらバックアップして」


 先に着いていたアリシアが状況を冷静に分析し、今できる最善の選択で戦闘態勢に入る。

 俺もその作戦に異論はないので、アリシアと女性の間に立つようにして警戒し、もし魔獣が俺達の想定を超える強さならば抱えて走れる態勢を作った。


「あなた達まだ子供じゃない!私の事はいいから、早く逃げて!」


 誰かの救援の気配を感じ、少しだけ正気を取り戻したのか、襲われていた女性は俺達の姿を捉えると、先程までとは打って変わり、俺達の身を案じた。

 確かに客観的に見れば、俺達は只の子供で、何の力も持たない存在に映るだろう。だが実際のところはこの村でも五指に入る戦闘力を持っていると自負している。


「大丈夫。私たちが助けるから」


 魔獣から意識を逸らす事なく、アリシアは視線だけを一瞬女性に向けて応えた。

 だがしかし、その程度の言葉で頷かせるにはまだ材料が少なく、怯えた顔と子供を守ろうとする意志は揺らがない。


 それを察したのかどうか、アリシアはもう視線を送る事はなく、全ての意識を魔獣へと集めた。


 殺る気だ。


 ついこの間アーサーから向けられた殺気に劣らぬ程の圧を前方に居るアリシアから感じ、戦況が動く事を察した。


 以外にも先に動いたのは、長く続いたこの状況に痺れを切らしたのか、それともアリシアの殺気に当てられたのか、魔獣の方だった。

 アリシアと魔獣の距離は、目測にして四、五メートルはあったはずだが、なんと魔獣はこの距離を一足飛びの間に詰め、俺達が居る場所まで瞬きの間に入り込んだ。


 後ろに俺達が居る状況で、アリシアは躱す事が許されずに剣の腹で伸びた爪を弾き返す。

 返す刀で、俺達の胴体程もあるラーテルの様な魔獣を切り伏せようと剣を振るうが、長い体毛に阻まれ浅い傷を残すに留まり、身を翻した魔獣は地に足を付けると直ぐに元の場所に下がった。


「剣じゃ攻撃が通りにくい。魔法の方が有効かもしれない」


 後ろから全ての攻防を見ていた俺は、直ぐにアリシアに作戦を伝える。

 アリシアの魔法なら分厚い体毛を焼く事も、レーザーで貫く事も可能なはずだ。


 俺の言葉に一つ頷いた後、剣を構える手を少し緩めて魔法の発動に集中し始める。


 数瞬も待たずに魔法の準備を終えると、握っていた剣を片手に持ち替え、手の平から拳大ほどの炎球を数発撃ち出した。

 タイミング、スピード共に申し分ない攻撃だったが、陽動の為に撃ったであろう二発を交わし、陰になる様放たれた三発目までも身軽な体を俊敏に動かし、難なく交わした。


「え……うそ……」


 これにはあの冷静なアリシアも動揺を隠しきれず、目には焦りの色が見え始めた。


 その焦りの所為か、今度は細いレーザーを雑に撃ち放つと、狙いが正確ではなかった事も相まってまたしても当たり前の様に躱される。

 それを見て更に焦りを募らせたのか、魔法による攻撃手段が通用しない事に恐怖心が芽生えたのか、いつもの冷静な形相を崩して呼吸を僅かに荒くし、全身から汗を浮かべている。


 だが俺は全く焦っていない。魔法の発動や初めての実戦に少し浮足立っているアリシアと違い、冷静に戦況を見ていた俺はある事に気が付いたからだ。


 それは、魔獣の目が、薄く光っていたのだ。

 目から光を放つのは、スキルを発動した時に起こる現象だ。まさか魔獣にもスキルを持つ個体が居るとは思わなかったが、そうと分かれば対処法もあると言うものだ。


「アリシア落ち着け。相手は恐らく魔力視か感知のスキルを使っている」


 軽くパニックになりかけていたアリシアだったが、俺の声を聞くと僅かに冷静さを取り戻し、アドレナリンで働かなくなっていた頭で俺の言葉を反芻した様子だった。

 そして直ぐに思考を切り替えると、いつもの澄ました顔に戻り、俺の指示を仰いだ。


「ん、分かった。どうすればいい?」


「あいつは飛んでくる魔法なら躱せるだろう。だけどカウンターの要領なら当たるはずだ」


 戦いの中、あまりにも拙い俺のアドバイスを聞いた後、ほんの僅か何かを考える様に目を伏せたアリシアは、直ぐに何かを閃いたのかハッと顔を上げた。


 警戒しているのか、同じ轍は踏まない程の知能があるのか、迂闊に飛び込むことなくその場から動かない魔獣を見て、俺は更に言葉を紡ごうと口を開こうとした。


 だがそれは次のアリシアの行動で不要になる。


「魔法が当たれば倒せる、でも当たらない。剣なら当たる、でも切れない」


 緊張から余分な力が入っていた全身を脱力させてリラックスし、正眼の構えから全ての力を抜くように下段の構えへと移す。


「なら当たる物に倒せるものを付ければいい」


 そう言うと、先程まではただ溢れさせていた魔力が一か所へと集約されていく。

 通る道を得た魔力が流れる流水の如くアリシアの握る剣へと向かうと、魔獣の一瞬の瞬きに合わせて一瞬で距離を詰める。


 魔獣が目を開けた時には、既に距離は半分ほど埋められた後で、冷静な思考をする間が無かった魔獣は本能に動かされるまま、獲物へと飛び掛かった。


 アリシアが前方へと進む高速のスピードに更に魔獣の速度も加わり、交錯までの時間はほんの一瞬で訪れた。


 そして、接触した時間は更に一瞬だった。


「キュゥゥ……」


 魔獣を切る瞬間、光の魔力を剣で発動させて切れ味を数倍に引き上げたアリシアは、相手が飛び掛かる為に空中に居る事もあって確実に胴体を切り裂いた。


 胴を分かたれ、生命力が異常な魔獣も、流石に耐えられなかった様で、初めて聞く以外にも可愛らしい鳴き声を上げながらその命を絶えた。


「す、凄い……」


 いつの間にか空気になっていた女性が、先のアリシアの技を見て感嘆の声を漏らす。

 その意見には俺も全く同意する。


 アリシアの行った、魔力を剣に流すという芸当もそうだが、魔法と身体強化を同時に行えるという事を俺は気付かなかった。

 この短い時間で、アリシアには何度も驚かされた。まさか本当に一人で魔獣を倒せるとは。


 兎に角、いつまでもここにいる訳にもいかないので、軽傷を負っていた女性を治癒魔法で完治させ、腰が抜けているのでおぶって村まで戻る。


 色々な事があったが、一先ず死人が出なかった事には安堵し、この事をどうやって報告しようかと頭を悩ませる。


 絶対母さんに怒られるやつだよなこれ……。

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