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10.卒業祝い

「両者そこまで!」


 アーサーの号令に、俺達は打ち合っていた手を止め木剣を下ろす。

 互いに組手後の挨拶として剣を腰に控えさせてから一礼し、そのままいつもの様にアーサーの元まで行きアドバイスを貰う。


「坊主は大分動きが良くなってきたな。俺でも相手するのがしんどくなってきた嬢ちゃんによく付いて行ってる」


 アーサーに一方的に俺がボコられてから、数ヶ月経った。

 あれはどうやら俺の肉体を活性化させる身体強化と呼ばれる技術を目覚めさせる為だったらしい。


 そのお陰で確かに身体能力を何倍にも出来る技術を覚え、俺は目に見えて成長できるようになった。だがあれはいくら何でもやり過ぎだ。


 あの後アーサーに抱えられてアリシアの家に運び込まれた俺は、相当酷い有様だったらしい。

 後からおばさんに聞いた話では、俺のあまりのぼろぼろさにアリシアが本気でブチ切れてアーサーに殴りかかったらしい。


 その時の本気のアリシアの殺意に、アーサーもおばさんも委縮してしまい、何とかアーサーが相手をして落ち着かせたらしい。

 俺の事で本気で怒ってくれるのは嬉しいが、ボコった相手に報復する前に治して欲しかったかもーというのが本音だ。


 とまぁそんな訳で、俺は晴れて身体強化という技術を覚えたおかげで、こうしてアリシア達ともまともに打ち合うレベルに立てる様になったという訳だ。


 これは俺の予想だが、アーサーが俺達にしっかりとした型や剣術を教えてくれないのは、多分俺がこの技術を習得できていなかったからだ。

 だが今はしっかりと内から溢れる力も感じるし、剣を振るえる程扱いにも慣れた。そろそろ次のステップへ進んでもいいのではないか。


「なぁ師匠、そろそろ次の訓練に移ってもいいんじゃないか?」


「ん、私もそう思う」


 どうやらこれはアリシアも感じていた事の様で、師事した頃から大して変わり映えしない訓練にそろそろ飽きて来た頃だ。


「あー……そうだなぁ」


 俺達の態度を見て、何か煮え切らない態度でぼりぼりと頭を掻くアーサー。

 一体どうしたのか。まさかまだ俺達では次のレベルにはまだ足りないのだろうか。


「実はな、もう俺が教えられることは無いんだ」


 えっ?


 いや、教えてもらったのって剣の振り方と戦場での心構えくらいで、剣術と言える事は何も教わってないぞ?


「そう言われてもなぁ……」


 アーサー曰く、一兵士に出来る事はここまでらしい。

 兵士の扱う剣とは、いつ如何なる時にも敵に向かって行く事で、相手も状況も定まらない中、決まった型を覚える必要はないそうだ。


 本格的に剣を習いたいなら剣術かや騎士に習えとの事だった。

 つまり兵士の剣は前世で言う所の軍隊格闘技で、極めたいなら武術かや格闘家に習えと言う事か。


「そんな訳で、お前たちは今日を以て卒業だ」


 突然告げられた言葉に、俺達は二人揃って呆けてしまう。

 勢いに乗り始め、ここからが本番と言う所でいきなりの肩透かしだ。


 俺達の態度を見て何か思う所があったのか、アーサーはまたしても困ったように頭を掻くと、少し待っている様に言ってから詰所の中へと入って行った。


 何も言えぬまま、ただそこに突っ立っている俺達は、ただただ言われた通りにその場で待つ。暫くすると詰所から戻ってきたアーサーの手には、新品のショートソードが二本あった。


「大したもんじゃないが、選別にくれてやる」


 その剣は俺達への卒業祝いの品だったらしい。いつもは何事もなく淡々と話すアーサーだが、少しだけ照れくさそうな顔が、何故か少し嬉しかった。


 俺達はそれぞれ渡された剣を鞘から抜いて、本身の刀身を確かめた。

 その剣は銀色に鈍く輝き、刃毀れ一つないきれいな刀身だった。


 アーサーは大した物じゃないなんて言っていたが、この剣は村で買える中でなら最も高級な部類だろう。

 何故そうまでしてくれるのか、俺には分からないが、まるで師匠がお前にはこの剣を振るうに値すると言ってくれている様で、何故か泣きそうになってきた。


「ぼーっと見てないで、二人とも振って見ろよ」


 初めての真剣に感動していたアリシアと、努力を認められた幸福を噛み締めていた俺は、言われて初めて、ただ見ていただけだと気付いた。


 鞘から剣を全て抜き、ショートソードとは言え俺達の身長の半分ほどもある剣を正眼の構えにして持つ。

 本来、大人が片手で扱う為に作られた作りだが、小さな手にはロングソードと変わらぬ大きさで、両手でしかと握り込む。


 一息吐き出し、今自分が握っているのは生き物を、人を殺す道具だと認識し、精神を研ぎ澄ませていく。

 暫く張り詰めた空気が漂い、俺達は横並びのまま目を瞑り、初めての真剣を手にこれまでになく集中力を高める。


 そして、剣を上段へとゆっくりと構え直し、振り下ろすのは同時だった。


 構えでは伝わらなかった剣の重み、そして自分が強くなっている実感が、振り下ろした切っ先から真っ直ぐ伝わって来るようだった。


「いい目になったな。言うまでも無いと思うが、これは武器であり力だ。それをしっかりと考えて使う様にしろよ」


「もちろん」


「ん」


 言われなくとも、この剣を握った瞬間から分かっている。


「特に嬢ちゃんはマジで気を付けろよ?」


 まだ根に持ってるのか、本気で殴られた事。

 俺がボコられた日に、アリシアと本気でやり合った時の事を思い出して言っているのかと思ったが、そうではなかった。


 俺の角度からは見えなかったが、アリシアの前方に剣を地面に突き刺し抉った様な切り傷が出来ていた。先程剣を振った時に出来たのであろう。

 それを見て、俺も剣を振った先を見てみたが、アリシアのものとは比べるべくもない、深さも長さも半分にも満たない傷がそこにあるだけだった。


 悔しい。本気で悔しい。


 だ、だが俺にはまだ誰も知らない秘策があるんだ。当然だ、主人公は序盤から手の内を全て見せたりはしない。俺がその気になれば、アリシアなんて足元にも及ばないのさ。


「ねぇ、何にちゃにちゃ笑ってんの?キモイよ?」


「はい」


「やっぱり真剣なんて渡すべきじゃなかったか……?」


 俺、そんなにキモイ……?

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