【第6.5話】過去
どうも、ノウミと申します。
まだまだ作品数、話数としては少ないですが、これから皆様の元へ、面白かったと思って頂けるような作品を随時掲載していきますので、楽しみに読んでいただければと思います。
沢山の小説がある中で、沢山の面白い作品がある中で私の作品を読んでいただけた事を“読んでよかった”と思っていただける様にお届けします。
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我の部屋にホウキが尋ねてきた、ノックをして扉を開けながら入ってき、報告と確認があると。
「…ラザール王、あれはわざと?」
ホウキの話にはいつも主語が抜けているが、何を言わんとしているかは分かる。
「ふっ…あんなやつでも”光の力”をその身に宿した異世界人、我々が待ち望んだ力よ」
「あいつをどうするつもり?素直に鍛える?」
「まぁ、暫くは様子見といったところか。周辺の【魔物】でも狩らして、力の解放へと進ませれば良い」
「…了解」
ワイングラスを片手に狡猾な笑みを浮かべ話す、もう片方には古びた書物を手に持ちながら、これから起こるだろう顛末をなぞりはじめる。
「ここから始まるのだ…既に歯車は回り出しておる、もう誰にも止めれぬ」
ホウキが敬礼し、部屋を後にしようとするので呼び止め報告事が終わってない事を思い出し、それを尋ねる。
「ホウキよ、あの逃げたやつはどうなった?」
ホウキ曰く、城内城外の街の中をくまなく探しても見つからなかったとの事。指名手配書は回しているので時間の問題かと思われるが、すぐに追いかけたにも関わらず、見つける事が出来なかった事が問題なのだ。
「…申し訳…ございません…」
「よい、すぐに見つかるだろう…しかし“戒族”と似た存在が異世界から…あの場から逃れると思えぬが。協力者がいたのか?」
「それはない…やつは一体だけ、あの男には…見限られてた……」
少しばかりの不安が募るが、思い通りに事が進み始めていると願いグラスに残ったワインを飲み流す。
「引き続き警戒せよ、やつをその目で奴を見るまで指名手配書と、人員の導入に当たらせよ」
「…はっ、仰せのままに」
ホウキは部屋を出ていき、再び部屋には一人だけになる。
「みていろ」
今でも鮮明に覚えている事がある、目を閉じるとその時の光景が思い浮かぶ、我が人族の王として成した大義を。
ー 時は遡り
我がまだ、王の椅子に座りながら力も何も持ち合わせていた無かった頃の話し。
「王よ!ラザール王よ!」
「どうしたカルラ、騒々しい」
「各種族の王を集めて、種族間会議を開くというのは本当ですか!?」
私室の扉を勢いよく開け、中に入ってきたカルラは尋ねてくる。
「手紙は各王に届けてある、一ヶ月後に種族間会議を開くつもりだ」
「しかし、各種族の王を集めて一体何をされるおつもりで?」
「世界の平定について話す」
「かしこまりました!王の身意思のままに…」
カルラは私室を後にし、一ヶ月後に差し迫った種族間会議の為そしてこの国の為に準備を進めていく、我は先祖代々引き継いできたこの国を守ってきた。しかし、この均衡もいつ崩れるか分からない、今は不戦条約があるとはいえ、破られれば終わりだ。
そんな中、我はとある本を手に入れた。いつも通りの朝に目を覚ますと枕元に古びた本が置いてあった。恐る恐る開くと、その本の中身は見たことも聞いたことも無いような内容が書かれていた。一心に読み進めていき最後のページには〈我、ココニ全テヲ残ス、未来ノ人族ニ繁栄ヲ願ウ、コノ本手テ取リシ者、汝ニ全テヲ託ス ーノブヨシー 〉と、書かれていた。
【ノブヨシ】とは、我々の創祖先であり、人族の始まりの人物。何故こんなものがここにと考えたがそれよりも欲の方が勝ち、我はこの本の内容を読み解いた。
そして今回の種族間会議の開催を思い立った、全ては人族の繁栄の為に…と。
種族間会議の場所は、世界の中心たる絶対不可侵領域、【リュッケ】言葉の通り何も無い平原。古くから存在するその平原は、各種族が絶対不可侵領域として、領土に組み込まないようにしてきた。そこならば警戒せずに来ると踏んだのだ。
「あぁ…待ち遠しい。幾千年、この時を待ち望んだ。祖先の数々の想い、我の代で終止符とさせて頂く」
その手には古びた本を携え、ラザール王はきたるべき日を、今か今かと思いながら待ちわびる。
とある里の男 ーー
とある場所にて、私は手紙を読んでいた。
力強く逞しい体とは似つかない、金色になびく大きな尻尾をゆらゆらと揺らし、ツンっと伸びた耳を立てながら。
「お父様!お父様!」
「おぉ、コハクよ!いつも元気だなお前は!ははははっ!流石は俺の娘だ!!」
私は飛び込んできた娘を強く抱きしめる、最愛の亡き妻の残した唯一の宝物だ。
「く、苦しい…お父……様…」
「お、おぉっ!すまんすまん!ついな!」
コハクはむせながら呼吸を整える。ついつい、力が入り過ぎてしまったようだ。
「ねぇ、ねぇ!お父様?どこかへお出かけするの?」
「ん〜?よく知っとるな、少しな…遠くへ」
「私も行きたい!連れて行って!!」
「ならぬ!!」
私はつい力強く返してしまう、手紙の内容は人族からのものだったからだ。各種族を集めての種族間会議と題してはいるが、古くから互いの事を目の敵にしていたが、手紙を届けに来た者から一言「古き本が我が手に、創祖先の力と共に」との事だった。
とてつもなく嫌な予感がした、先代の王から詳しくは聞かされてないが人族の創祖先は、残虐の限りを尽くしたと聞いている。
「お父様のけち!私もいくの!!絶対に!!!」
どうやら娘は俺に似て聞き分けがないようだ、何故か似て欲しくない所は似ており、将来の事が心配になる。
「そうだなぁ…ならこうしようか?」
私は自分の胸に指を当て、コハクを諭すように話す。
「ここで待っていてくれれば、俺の“魔王心”をコハクに譲りたくなるかもなぁ〜?」
「えっ!?本当に!?私もお父様の様になれるの!?」
私の前で喜びをいっぱいに、大きく飛び跳ねる。私と妻に似た、金色の耳と尻尾を大きく揺らす。その姿は亡き妻の面影を感じさせ、金色の太陽の様に照らしてくれていた。その、満面の笑顔を私に向けながら。
それはとても…眩しかった。少し、霞むぐらいに。
ー1ヶ月後ー
人族からの手紙の通り、リュッケに各種族の王が集まる。先に到着していた人族が用意していたらしく、土の術式によって創り出された、丸いテーブルと七つの椅子に各種族が腰をかける。お互いに見知った顔ではあるが、今日は気分のいいものでは無い。私は、出立前の娘の顔を思い浮かべながら気持ちを少し落ち着かせる。
全員が着座したのを確認し、人族の王が口を開いた。
「急なお願いではあるが、お集まりいただき感謝します。ご存知方は思いますが、此度の種族間会議を提案しました、人族の王 ギルテ=ラザールと申します」
竜族の王が話を遮り、低い声で話す。
「御託はいい…用件を述べろ。まさか、俺らの関係が知らないとは言うまい?」
「ほほっ、竜族の王の言う通りじゃて、儂かて遠路はるばるきておるのじゃ、手短に頼む」
「竜族の王、妖族の王…これは申し訳ない、では割愛して、本題に入るとしよう」
ラザール王は懐から古びた本を取り出しそれを全員に見せると、周囲がざわつき始めた。私にはそれが何の本か分からなかった。
「やはり…人族の下にあったか」
「おぞましいものがまだ残ってあったとは」
天族の王と、戒族の王が口を開く。私はその本について海族の王に小さい声で尋ねるが、何も知らないそうだ。古参の王達は目の前の本を知っているような様子だが。
「儂等のような、ご老体を脅すつもりか?」
「ははっ!ご謙遜を!こちらにも伝わってきますよ!あなた方の殺意、恐怖が!!」
途端に全員の気迫が変わる、テーブルと椅子に亀裂が入り、私も気圧される。
「舐めるなよ、歴史も知らぬ小童が…」
竜族の王が立ち上がり今にも襲いかかりそうな勢いで身構えた。
「ちょっと待ってください!あの本は一体なんなんですか!?私も海族の王も知らないんですよ!」
「では、話を続けましょうか…遠い過去の話を…」
ー はるか昔。この大陸ができ生命が誕生した際に、神は六つの命をこの地に宿した、人族以外を。それぞれの命は、魔心と呼ばれるものを核に生命を形成、そうして誕生した六種族は互いに助け合い、時には小競り合いもありながら生活を続けていた。時は経ち、それぞれが国を起こした、各国の王に対して、神は魔心王を授けた。それがこの世界の始まりだそうだ。
暫くし、互いの国が確固たるものになった時、異界より1つの生命体がこの世界に落ちてきた。それが人族の始まりであり、彼はノブヨシと名乗ったそうだ。ノブヨシは各地を転々としながら、ノブヨシは異世界からの召喚を繰り返し、数と戦力を拡大。彼の地に国を興すほどになっていた。
そして、ノブヨシを筆頭に、各種族への侵攻を始めた。食物を求め、土地を求め、快楽を求め。各国とも一進一退の攻防が続く中、人族をこの地から消し去る為に六種族は手を取り合い、全勢力を持って人族の殲滅作戦を決行する。お互いに痛み分けともいえる結果だった、ノブヨシは最後の最後まで戦い続け、その命を終える事となった。
それ以降、残された人族はこれ以上の争いはしないと、その時のノブヨシと近しい人物全ての首を差し出しこの地に生かして欲しいと懇願。そうして不戦条約を締結する事となった。それからノブヨシの国を更地にし、人族を大陸の奥へと追いやった ー
「そう、そのノブヨシの国があった地こそがここ、リュッケ(空白)なのだよ」
「ノブヨシの残した力とは…まさか…」
「察しがいいな獣族の王、この本に記されている」
かの大戦の最中、六種族を破滅へと導かんとするその力を俺たちは見た事も無いが、それは恐ろしいものだとは感じている。
ラザール王は大きく息を吸い、声を荒げる、
「人族の王、ギルテ=ラザールが宣言する!この日をもって、不戦条約を破棄とする!!」
「「「なっ!?」」」
「そして、始めよう……人族の繁栄の歴史を!!」
それと同時に、ラザール王が本を開く。
「奴を止めるのじゃ!!」
妖の王が声を上げるが遅かった、それぞれの王は身を乗り出しラザール王へと襲いかかるが、間に合わなかった。
〔地獄の触手〕
地面から突如、赤黒くひび割れた腕が何本も伸びて、私たちを掴み始め、全員がその場で拘束された。
「「「くそっ!何だこれは!解けない!」」」
「ふはははっ!無駄ですよ皆さん!…そしてありがとう!我らの礎となってくれて」
「竜の魔王心よ!我が身を解放し、竜の呻きを…」
「無駄です!その魔王心、いただかせていただきますので」
すると赤黒い腕がそれぞれの王に向かって伸びていき、その胸を容易く貫く。
「「「なっ!? がはっ!」」」
突き抜いた腕は直ぐに体の中から引き抜かれた、手には胸の中から抜き取った丸い玉の様なものが握られていた。
「素晴らしい!これが魔王心か!これで我等の悲願が達成される!!ふはははははははっ!!」
血に濡れ赤く染まった腕は音を立てて崩れ去る、それぞれの王は、身動きが取れずにその場に倒れこむ。誰も起き上がらない、声を上げることもなく薄れゆく意識の中ラザール王の傲慢な笑い声が響く、何も出来ぬままに。
せめて、最後にもう一度コハクに会いたかった。あの笑顔を思い浮かべながら、意識が落ちていく。(……ごめん、コハクを守れなかった…君の言葉を守れなかった…コハクに何も残せなかった、約束した魔王心さえも…)
無念の中に意識は消えていった、残された娘を想い、亡くなった妻に謝りながら。
「さて、早速取り掛かるとしよう…この魔王心を封印し、各種族を弱体化させる!そして、侵攻を開始するのだ!!この日を持って!人族の未来を、繁栄を約束する!!!」
平原の周りにある森の中から、地面を揺らすほどの足音と唸り声が響き渡る。これから始まる、人族の大侵攻に歓喜するかの様に。
ー …お父…様? ー