【第67話】クロハの想い
どうも、ノウミと申します。
まだまだ作品数、話数としては少ないですが、これから皆様の元へ、面白かったと思って頂けるような作品を随時掲載していきますので、楽しみに読んでいただければと思います。
沢山の小説がある中で、沢山の面白い作品がある中で私の作品を読んでいただけた事を“読んでよかった”と思っていただける様にお届けします。
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コハクとクベアは纏を発動したままにしている。だが、それも長くは持たないだろう。
それに比例するかの様にクロハの熱気は先ほどにも増していた、炎の翼も一回り大きくなっている。
「クロハ、貴方の目的はなんですか?」
「なんだ今更……時間稼ぎの…つもりか?」
「いえ、貴方だってかつては人族に挑みましたよね?敗れたとはいえ、彼らの想いは残っているはずです」
「くだらん……俺は…あの日死んでいる…」
「それってどういう……」
こちらの言葉を遮る様に翼を大きく羽ばたかせ、地面を蹴り勢いよくこちらに向かって飛んでくる。
「無駄口を叩いてる暇はないぞ」
振り抜かれる拳、蹴り上げ、横から迫る回し蹴り。
続け様に浴びせられる猛攻をギリギリで躱し続ける、みかねたコハクとクベアモも加わるが、私たちの攻撃もあの炎の翼に悔しくも全て遮られる。
「お前ら……その程度で…人族打倒など掲げて…いたのか?」
クロハは炎の翼を大きく広げ、激しく回転し私たちを吹き飛ばす。
「まずいの、火力が上がってきておる」
「コハク、腕に火傷が」
「うむ、妾の炎より向こうのほうが上という事じゃろうな」
三人がかりでこの様子、先ほど食べていたルビーの様なものが簡単に出回っているとしたら、人族の戦略としては相当なものになるだろう。
あれを一つ飲み込むだけで、ここまで簡単に強くなれるのだから。
こちらが体勢を整えていると、クロハの後ろに大きな影が迫っていた、なんとか目を覚ましたタルトーが纏を発動しながら襲いかかっていたのだ。
こちらが気づかなかったのだ、クロハに気づかれるはずもない、腕全体に氷を纏い勢いよく殴りかかる。
ここにきて初めて、まともな攻撃が入った。
吹き飛ばされたクロハは、羽を広げながら受け身を取り立て直す。
「驚いた……もう動けるのか…」
「儂を舐めるなよ」
タルトーの腹部には氷が覆われており、焼け爛れた箇所を覆いながら一気に冷やしたのだろう。
私たちも加勢しようと、身を構えるが……。
「お前らぁ!これは儂の喧嘩じゃあ、そこで見ておれ」
「タルトーお主、その体では」
「コハク、頼む」
コハクはしばらく考え込んで、纏を解く。それを見たクベアも同じく纏を解いて見守る事にする。
「タルトー…お前は駄目だ…」
「はっ、儂のしぶとさは知っておるじゃろうに」
「だからだよ…」
「さぁ、久しぶりの本気の喧嘩じゃ、歯ぁ食いしばれよ!」
タルトーの全身から冷気が一気に溢れる。以前に見た時と同じく背中から氷の氷柱が生え始める、武器も無くなったので腕全体に氷を纏い準備を整える。
クロハも全身から熱気を吐き出し、炎の翼を立たせる。
先に動いたのはタルトーの方だ、空中に生成した氷の氷柱数本を勢いよく投げ飛ばした、それを炎の翼で溶かし、消し去り辺に水蒸気が立ち込める。
投げ終えたタルトーがその水蒸気の中へと飛び込み、姿をくらませる。クロハは私たちを吹き飛ばした時と同じ要領で辺りの水蒸気を炎の翼で散らす。
だが、その時にはタルトーが腕を大きく振りかぶりながら、クロハの眼前まで迫っていた。迎え打つかのように腕を振り抜く。
拳同士がぶつかり合い、衝撃がこちらまで来た。
お互いに拮抗した、ただの殴り合いが繰り広げられる。殴っては殴り返し、これが殺し合いではなく喧嘩をしているだけの様にも思える。
徐々にタルトーの腕を纏っていた氷が溶け始めていた、クロハの炎の翼も、一枚また一枚と確実に消し飛ばされていた。互いに消耗しながらも、殴り合いを止める事は無かった。
しばらく繰り広げられた殴り合いは、クロハの炎の翼を全て打ち消した結果にて終わりを告げる。
「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ、クロハ…今回の喧嘩は儂の勝ちじゃ……観念せい」
「はははっ……そうらしい…な」
タルトーはこれ以上逃すまいと倒れたクロハの四肢を氷で地面と固定させ、動けなくしていた。
「さぁ、全部吐くんじゃ」
「もう……話したよ…」
「お前、本気で儂等の事を」
「あぁ…そうさ、裏切ったんだよ」
「お前、また嘘ついとるの」
「な……何を根拠に…」
「こんだけ殴り合ったんじゃ、いやでも分かるわ。手ぇ抜いて戦っとったの?」
そんな感じは微塵も感じなかった。嘘がバレたので本気で逃げて、本気で襲いかかってきていたと。
あれが手を抜いていたのであれば、本気の強さとは一体どのぐらいなんだ。
「お前は……昔からそうやって…分かったつもりで…」
「分かるわ、馬鹿者が。あんな闘い方お前らしくもない、土だって使っておらんかったし、意図してその力だけを使っていた様に見えたぞ」
そう言いながら、仰向けになったままのクロハの側にタルトーは隣に座り込む。
「最後の最後は本気だったみたいだがの!がはははっ!!」
「ちっ、嫌いだよ……お前の…そういうところ…」
「ほれ、話してみぃ。何がお前をそうさせた?」
暫くして、クロハが本音を話し始めた。
かつて、種族連合が人族に攻め込んだあの日、妖族の一員として戦場に身を置いていたと。だが、知っての通り結果は惨敗、数え切れないほどの同胞たちの屍の山が築かれる事になったと。
その際に、何故か殺されずに生かされたクロハ。
理由はすぐに明かされたが、種族連合のスパイとして人族の言いなりになる事を強要されたと。
「お前はそれを飲んだのか?」
「馬鹿言え……それならと…死のうとしたさ…」
だが、嫁と子供の身を人質に取られたと。言う通りに行動すれば、家族の命だけは生かし続けてやるとまで言われていたらしい。
「俺は弱かった……切り捨てることなんて…できなかったんだ…」
「馬鹿野郎が!!」
タルトーが胸ぐらを掴み、涙を流しながら叫ぶ。
「お前はそれで民を売って!儂等を裏切って!一人で苦しんで!ずっと!ずっと……」
「一つ間違えてるぞ……本当に民は…売ってない」
「何をここで嘘を!あの書類の字は…っ」
クロハの話によると、妖族の民は進んで生贄になる事を選んだと。必死に説得して止めようとしたが、王が裏切りをしている事実、このままでは人族の侵攻は止まらない事など、絶望して命を投げ出すには十分な理由だったと。
ただ、それならと最後に王の為に死のうと。
皆が話し合った結果があの書類に書かれている、生贄のリストになってしまったと。
「何故、なぜお前の為になる?」
「ははっ……馬鹿な民だよ…本当に…裏切り者の王の為に死ぬってさ…」
「お前っ!」
タルトーが胸ぐらを掴んだまま、逆の腕を大きく振りかぶり殴ろうとする。
「だってそうだろうが!!ここまで生きれたのは俺のおかげだと!!それならと、さいごまで俺に使えて、俺のために死ぬことは怖くないと!!!」
「なっ……」
「わかるかお前に!?自分の民に、俺の家族だけは生きていてくれと言われたこの気持ちが!!何もできない悔しさが!!無力さに押しつぶされそうになるんだよ!」
「それは……」
「何もしてないんだよ!何も出来なかったんだよ!!俺はお前らに……何も……なんでそんな簡単に…」
タルトーは、振りかざしていた拳を下ろす。
何も出来なかった無力な王の悲痛な叫びが響き渡る。
誰も何も言葉を告げる事が出来ないでいる、ここで投げる言葉は気休めしかならないと、分かっているからだ。
「ごほっ…ごほごほ…」
「おい、クロハ大丈夫か!?」
もうこれ以上は逃げないと確信したのだろう、氷の拘束を解き抱き起こす。その口からは血が滴っていた。
「俺も…もう…終わりだ…すまねぇな……」
「おい、クロハ!お前ならまだ大丈夫だろ!!」
「コハク……さっきのが地獄の炎だ…お前の炎では……弱い…なんとか考えろ……」
「お主、まさかその為に…」
「クベア…もっと疾く鋭く研ぎ澄ませ……じゃねぇと届かねぇぞ」
「う、うん…」
「セイ…いるか?」
「はい、ここに…」
「お前はもっと…自分に自信を持て……なんでさっきの闘いで入ってこなかった…」
「それは……」
「お前には…俺の…全てを伝えたつもりだ…励めよ」
「おいっ!」
一人一人に言葉を投げかけていく、まるでこれが最後になり、ニ度と会えなくなるような。
「グロガル…ファーネ……こいつらを…支えてやってくれ」
「「分かった」」
「最後に…すまねぇな……タルトー…」
「死ぬなよっ!!許さんぞ!!」
「最後の喧嘩は……お前の勝ちだよ…言う通り…最後は本気だった…」
「またかかってこい!いつものように!!」
クロハはまた炎の翼を一枚だけ広げて羽ばたき、タルトーを吹き飛ばした。その直後、地面からあの日見た赤黒い腕が突然伸びてきた。
「すまねぇな…皆。お別れだ……」
「クロハぁ!!!」
飛び出してきたその腕はクロハに絡みつく。
「お前らぁ!頼んだぞ!!」
突如としてクロハの足元に大穴が開く、そこからは炎の翼と同じ色の炎がマグマの様に吹き出していた。
クロハは抵抗することなく、その腕に引き摺り込まれていく。
私たちは必死にタルトーを抑える。巻き込まれてしまっては託された思いが無駄になる。
「あっ…そうだ……ナディ…だっけか?お前がいるなら安心だ…そう感じる……皆を頼んだ…」
その言葉を最後に、クロハは穴の中へと消えていった。空いた穴は塞がり、追いかけるこはおろか行方すら確認もできない。
タルトーの鳴き声だけがこの場に残る。
各々が、託された言葉を胸に刻み前を向く。
私たちには振り返る暇もない、今から出来ること、やるべき事を今まさに告げられたところだから。




